刀を愛し者

徳田雄一

転移と刀

 ある1人の青年は、竹刀を両手に持ちながら素振りの訓練をしていた。


 青年は世にも珍しい二刀流使いで有名だった。道場で密かに練習をしていたところ、大勢の人間が青年の住む道場に現れ言う。


「……進之介殿」

「……」

「今日ここで貴方のお命頂きます!」

「この日が私の命の終わりか。楽しい世だった」


 男は重いはずの日本刀を軽く振り回すほどの脳筋野郎で、軽く青年の首を斬り落とした。


「進之介先生。申し訳ありません……!」


 男は涙を流しながら、青年に謝り倒していた。


 ☆☆☆


「おやここは?」

「起きましたか。進之介さん」

「……我は死んだはずでは?」

「貴方はこれから異世界に飛んでいただき、二刀流の素晴らしさを異世界に広めてください」

「ふむ……?」


 その後はなんの説明もなく、いきなり現れた美女に異世界に飛ばすと言われ、気づけば見知らぬ大地へと着いていた。


「ふむ、ここが異世界というやつなのか」


 進之介は早足で武器になる丈夫な木の枝がないかと探し回っていると、後ろから刃物を突きつけられ、誰かが進之介の耳元で囁く。


「命が惜しけりゃ、金を出しな」

「無一文でね」

「……そうかい。なら死にな!!」


 進之介は思い切りしゃがみ、男の足元を崩すためにスネに蹴りを入れる。


 男が膝から崩れ落ちるところを狙い、武器を奪い右手に刃物を、左手に木の枝を持ち男と対峙した。


「……両手に武器とは愚かな野郎だぜ」

「ふむ。愚かだというのならば勝って見せよ」

「ナメてんじゃねぇぞ!!」


 進之介は向かってくる軽く男をあしらい、ナイフで足を突き刺し移動能力を削った後に木の枝を使って、男を拘束する。


「ぐあああああ!!」

「観念するのだ」

「ちくしょお……!」


 男を拘束したところで、進之介はどこに連れていけばいいのかも分からず、キョロキョロと周りを見ていると、偶然かそこに高価な衣装を身にまとった3人組が現れる。


「すまぬ。この男に攻撃されたところ返り討ちにし、拘束したのだがどこへ連れていけばいいのかさっぱりでな」

「……分かりました。私たちにお任せ下さい」

「すまぬな」


 すると拘束されていた男は叫び散らす。


「この男こそ引っ捕らえるべきだ……!

 この男は二刀流使い。禁忌に触れている者!」


 すると3人組たちは驚いた顔で進之介を見つめる。

 進之介は訳が分からずただボケっとしていると、3人組の中でも一際強そうなオーラを放つ女の子が進之介に向かって声をかけてくる。


「本当に二刀流使いなのか?」

「あ、あぁ。そうだが」

「……貴方も着いてきなさい」

「……断ることは出来なさそうだな」


 進之介は数十分ほど3人組達について行くと、それは広い街に着く。

 すると先程進之介に声をかけた女の子は進之介の腕を引っ張りながら古い畳の敷かれた屋敷へと連れていかれる。


「……ここは」

「はい。ここは数千年ほど前にあるお方が住まわれていた場所」


 進之介にとっては見慣れた光景だった。

 なぜならそこは進之介が先程まで居たはずの道場だったからだ。


 進之介は疑問が浮かび女の子にぶつけた。


「ここは普通ならば建て直しなどがされるはずでは?」

「はい。何故かここを建て直そうとした者たち全員は大怪我をしたり、酷い場合には死にゆく者たちも居たりなどで建て直せないのです」

「ふむ……。なら私がここ使わせてもらってもいいかな?」

「え、えぇ。それはもちろんいいですけど」


 進之介はこの道場で、あの美女に言われた通り二刀流を広めようと、その日から道場を始めた。


 ☆☆☆


 数年後のこと。この世では二刀流が流行り、刀の扱いに長けた者たちが増えた。進之介もまた今まで以上に刀の使い手として、二刀流の使い手として成長し、今では世1番の強さを誇っていたが、ある日のこと。


「進之介様。お命頂きます」

「そうか。エイリヒよ」

「……進之介様にお会いして数年。色々と教わりました。命を奪う大切さについても」

「お前は1番を常にめざしていたな。私の役目は終わった。殺せ」


 エイリヒ。あの日初めて異世界に来た時に出会った3人組の中で1番強かった女の子。


 進之介は2度目の人生も愛弟子に殺される事となった。


 ☆☆☆


 進之介の死後。異世界ではエイリヒという二刀流使いの女性剣士が世を、国を統一し最強となった。


「進之介様。いつまでもあなたの事を忘れません。貴方の刀を今でも愛用しています。未だにこの刀は私には懐いてくれませんがね……」

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刀を愛し者 徳田雄一 @kumosaki

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