第11話 最後の帰りの会

「これでラストだ……グスッ、じゅっ、じゅっぜぎばんごゔ二十番、渡辺(わたなべ)!」


「先生、『わたべ』です……」


『渡辺君』は最後くらいは間違えないでよ…という苛つきの表情をしていた。


「いいや、お前は『わたなべ』だ!学校会議で決まったことなんだ!受け入れろ!」


「チッ」


『渡辺君』の舌打ちが聞こえた瞬間、クラスメイト全員顔を伏せがちになっていた。


(ずっと『わたなべ』だと思っていた……)


「渡辺、お前、高一の時の『あの事』を覚えてるか?」


「『あの事』って?」


「先生が授業終わりに黒板の文字を消した時、お前なんて言ったよ?」 


『渡辺君』は手を頭に当て必死に思い出していたが、中々思い出せない。すると教師寺田は顎を突き出し目を見開いて、生徒達が数日かけて制作した黒板アートを消してこう書いた。


《ちょっと!まだノートに写し終えてないんですけど!》


最後にチョークが粉々になる程、黒板に叩きつけた。


「これ以来、先生はお前の事が嫌いになりました!終わり」


「………」


『渡辺君』は先生にされた数々のエピソードを思い出していた。書道の時間で本書の際にワザと机を蹴られたり、やたらと習ってない問題の解答を黒板に書かせたり、プリントを教壇まで取らせに来させたり……


「そんな……理不尽な……」


一部を除き、高校生活の思い出が涙で滲んでいく。そして、最後に教師寺田はこう言って教室を後にした。


「あースッキリした!意外と隠し事をするって疲れるんだぞぅ?そうそう、俺、今日をもって教師を『クビ』と言う形で卒業する事になったから!じゃあお前ら、達者でな!」


数分間の沈黙が続いた後、ポツリポツリと生徒は教室を後にした。


教室には天野だけ、いつまでもいつまでも立ち尽くしていた。



      ~終わり~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隠し事は卒業する ばってんがー森 @maronchan3373

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ