俺の名前はニトウリュウ
高野ザンク
名は体を表さない
フルネームで呼ばれる機会があると、何人かは俺の顔を見る。
いや、大谷がそこにいることを期待しているわけではないだろう。ただ「ニトウ リュウ」という響きは、今や野球の世界での二刀流をやってのけた彼を想起させる。
俺はこの(字面では普通だが、声に出すと別の意味を持つ)名前のおかげで、友人、知人はおろか初対面の人からも、場を和ませたいのかわからないが「バッターとピッチャー、両方やるんですか」と聞かれるのは当たり前。時にはそれに飽き足らず「サッカーも野球もできるんですか」と聞かれることもある。否定すると「リアルじゃないほうのニトウリュウ」とか言われたりもする。いや俺のほうがリアルだっつーの。
二つのことを高い能力で両立させることは難しい。だからこそ、大谷のように役割だけではない、「医者で作家」、「俳優で監督」、「コックで傭兵」といった二つの職業をこなしている人たちは世間で評価される。俺のように、名前がただ“ニトウリュウ”だからって、そういう人達と同じように思われるのは甚だ迷惑だ。
ただ、それを逆手にとってキャラ付けすることもできると知ってからは、この名前を前向きに捉えられるようになった。大抵一発で名前を覚えてもらえるのだ。それに「名前と違って一途です」という冗談めかした口説き文句のおかげか、意中の彼女と付き合うことができたし、名前と裏腹、二刀流とは縁がないが、それなりに楽しい日々を送っている。
とはいえ、実はほんの2週間前から、俺にも二刀流的な出来事が起きている。
可愛い後輩から告白され、彼女に隠しながらも関係を持っているのだ。彼女への愛と、後輩への愛。言葉にすれば同じだが、俺にとっては何もかもが違う。倫理的に問題と言われようがどちらへの想いも本気だし、この関係を続けてこそニトウリュウの名に恥じないのではないか。
ある晩、親友と飲みながら、酔いがまわった勢いもあり、俺はそのことをやや自慢げに披露した。すると、それまで笑って話を聞いていた彼は、静かに俺を非難した。
「それは二刀流っていうんじゃない。ただの二股だよ」
親友の名前はフタマタ カケルという。
俺の名前はニトウリュウ 高野ザンク @zanqtakano
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