△▼△▼夜の行く末△▼△▼

異端者

『夜の行く末』本文

 異世界トリプトンにある、イシセマ王国の辺境の村ミナイミセの冒険者ギルド。

 そのギルドから依頼があったとのことで、冒険者アルドは山中を歩いてた。

 まだ日は高く、依頼通り薬草を摘んで帰っても日が暮れるのには間に合いそうだった。

 アルドはギルドの中では目立たない、どちらかといえば「冴えない」と言って問題ない冒険者だった。華奢な体つきで短い片手剣を腰に差して、楽な依頼がないかギルドの中でブラブラしているのが日課のような冒険者だ。今日の薬草摘みも、本来なら新人の冒険者がすべきことだった。

 ――さて、と。

 アルドは足を止めた。

「そろそろ出てきたらどうです?」

 背後の茂みに向かってそう言った。

「なぜ? 気付いた?」

 屈強な体つきで左右に二本の剣を差した男が茂みから出てきた。同じ冒険者ギルドのルートだ。

「いやあ、私はなにせ臆病ですから、いつ襲われないかとビクビクしていつも周囲には気を付けているんですよ」

「なるほど、お前みたいなのならそうだろうな」

 ルートの言葉には明らかな嘲りが含まれていた。

「で? 新人狩りができなくて残念でしたね……ルートさん」

 その言葉にルートは左右の剣を抜いて両手に構えた。

「何を言っている!?」

「知ってるんですよ? こういう楽な仕事で新人を釣っておいて、山の中で仕留めて金品を奪う……金は手に入るし、将来的な競争相手は居なくなる。その上、死体はモンスターたちが食い荒らすから、ぱっと見モンスターにやられたように見える。……あなたみたいな外道にはお似合いですよね?」

 アルドも剣を抜いて構えている……が、ルートの二刀流に対して明らかに見劣りしていた。

「くそっ!」

 ルートは二本の剣で斬りかかった。それをアルドは難なくかわす。

「ああ、それと女性冒険者には性的暴行もしてましたっけ?」

 ルートの二本の剣が舞うがアルドには届かない。焦ったその剣さばきが次第に粗くなっていく。三流冒険者如きに自分がおくれを取るはずがない――そんな考えが透けて見えた。

 アルドが剣を一振りすると、ルートの右手の剣が砕け散った。左手の剣も次の一撃で同様に砕け散る。

「そんな……どこにそんな力が……」

 武器を失ったルートは戦意喪失して、地面に膝をついた。

「実は私も二刀流でしてね。もっとも私の場合『剣と剣』でなくて『剣と魔法』ですがね。強化魔法は昔から得意でして、今も武器強化と身体能力強化の魔法を使ってます」

 アルドの剣がルートの喉に突き付けられる。

「う…………情けを…………」

「そう言って命乞いした新人たちを殺したんでしょう?」

 アルドは躊躇いなく、ルートの喉を裂いた。血が噴き出し、死体が倒れる。

 やれやれ、あっけなかったな――アルドは軽く血振るいすると剣を鞘に収めた。

 携帯型の魔話機――ギルドでも一部しか所有を許されていない物だが――を手にすると、ギルドの受付と会話する。

「――ええ、終わりました。ギルド長にもそうお伝えください」

 短い会話を終えると接続を切った。

 今回の依頼の本当の目的は、度々新人が死体となって見つかるので、ギルド長から「新人狩り」をしている輩が居るから「処分」してほしいとのことだった。

 アルドは表向きは「冴えない冒険者」、裏では「ギルドの粛清者」だった。

 二刀流、いや二足のわらじは相変わらずだった。アルドはかつて王国の衛兵だったが、裏では危険人物を排除する暗殺者だった。そんな仕事に見切りを付けて冒険者になったのだが……。

 とはいえ、これはこれで嫌いではない気もしていたが……真っ当な仕事に就く時は来るのだろうかとふと疑問に思った。

 まあいい。たとえ明けない夜だとしても、誰かが自分を必要としてくれるのならば――。

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