犯人は“にとうりゅう”
御剣ひかる
コメンテーターは赤っ恥
夕方の繁華街に悲鳴が響き渡った。
包丁を手にした男が若い女性を襲い、刺したのだ。
女性は倒れ、周りの人達は恐れおののく。
犯人はそのまま走り去ってしまった。
少しだけ行動力のある男性が被害者に駆け寄って応急手当をしようとした。だが素人目でも判る。女性はかなり深く刺されたようで、このままでは助からないだろう、と。
「誰か、救急車! 警察も!」
男性は周りで立ちすくむ人達に声をかけた。
「に……、にと……」
被害者の女性がか細い声を絞り出す。
「えっ? どうしました?」
「に、とう、りゅう」
被害者はそう言い残し、意識を失ってしまった。
警察と救急車が到着した時にはもう女性は心肺停止となっていて、残念ながらそのまま亡くなってしまった。
現場検証をする警官達は、最後に彼女の言葉を聞いた勇気ある男性に当時の状況を尋ねる。
しかし男性も、被害者が刺されてしまった後からのことしか話せない。走り去る犯人の後ろ姿はちらりとみたが、顔などはまったく判らない。
「どのような些細な事でもいいのです。なにかありませんか?」
男性は思い出せる限りの犯人の後ろ姿を説明した。
その後に、例の言葉も付け加えた。
「女性は意識を失うまえに、“にとうりゅう”って言ってました。とぎれとぎれで、に、とう、りゅう、みたいな感じでしたが」
「それはいわゆる、ダイイングメッセージってやつですね」
若い刑事がしたり顔で言う。
「つまり犯人は何かを掛け持ちしている“二刀流”の男に違いありません」
確かに、意識を失う前に訴えた言葉なのだから意味はあるだろう。
しかし二刀流とはまた抽象的だ。
とにかく、何らかの二刀流と思しき、被害者に関係のある男を洗い出すか、と刑事達は話し合った。
『被害者女性が残した最後の言葉に犯人の手がかり? 犯人は“二刀流”か?』
翌日のワイドショーはこの事件が取り上げられ、コメンテーター達が推理を展開する。
被害者女性と同級生で、つい最近まで交際していた「勉強とスポーツの二刀流」の男性ではないか?
あるいは、女性の職場の「剣道と柔道の有段者、つまり二刀流」の男性ではないか。
はたまた、事件直前と直後に現場付近を通りかかった「ツインヘッドドラゴン」というハンドルネームで活躍するユーチューバーの男性ではないか?
などなど、いろいろな推測が飛び交った。
最後のはいくらなんでもどうなんだよという視聴者のツッコミが番組のSNSに飛び交ったのもまた話題になった。
数日後の夜、事件解決のニュースが速報としてテロップで流れた。
『殺人の容疑で逮捕されたのは
テレビを見ていた大半の人は「そのまんまだったのか!」とツッコミを入れたとか、入れないとか。
(了)
犯人は“にとうりゅう” 御剣ひかる @miturugihikaru
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