似非エッセイ 拝啓 賢治様

紫恋 咲

第1話  拝啓 賢治様

雨にうなだれ

風にはよろけ

雪にも夏の暑さにもエアコンに甘え

風邪ひきやすいからだを持ち

欲は見え隠れし

決して瞋からぬフリをして

何時も穏やかに笑っている


一日にキャベツを少しかじり、ラーメンを手鍋のまま食べ

あらゆる事に自分の損得勘定を匂わせ

良く見聞きしモワッと考え

そして翌日には忘れ


駅から程よい遠さの
古い木造アパートに住み


東に病気の子供があれば 絵文字を送り

西に疲れた母があれば 心の中で激励し

南に死にそうな人があれば 明日は我が身と心細くなり

北に喧嘩や訴訟があれば 別のニュースに切り替える


日照りのときは熱中症になりかけ

寒さの夏は野菜の高騰にぼやき

皆に小市民と呼ばれ

誉められもせず 話題にすらならず

そういう自分を

持て余している



そんな私でも、ささやかな幸せを願い

『人間だもの』を心の杖にして

将来の不安に怯えながら

日々を淡々と送る


流行とは無縁で

才能という言葉は我が辞書になく

平凡という井戸の中で

曇り空をぼんやり眺める。


砂漠の中の一粒の砂ほど

我が身の小ささを感じ

輝こうと思えるほどの気力もなく

運命にじわりと流されていく


それでも、死にたくはない!

それでも生きていたい!

先に希望が無くとも

まだもがき続ける


最後の時が来たら

良い思い出だけを固めて 深く味わい

素晴らしい人生だったと言いながら

静かに幕を閉じよう


賢治様、もし天国で会うことができるなら

こんな物を書いたことをお詫びして

あなたのお話をお聞きしたいです。

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似非エッセイ 拝啓 賢治様 紫恋 咲 @siren_saki

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