城ケ崎先輩の役に立たない二刀流アイデア

タカば

二刀流

 うちの大学には変な先輩がいる。


 名前は城ケ崎芽衣子。

 一年先輩の彼女は、そこそこの頻度で大学にやってくる、そこそこ不真面目な学生で、結構な頻度で俺についてきて、そこそこの時間まで俺の部屋にいりびたる。

 そして、毎回独自のアイデアを披露するが、だいたい役に立たない。


 実に面倒な先輩である。


真尋まひろくん、いいことを思い付いたぞ」

「……何ですか」


 そろそろ日も傾きかける時刻。

 今日の夕飯は何にしようかな、城ケ崎先輩もいるし、豚の生姜焼きにでもしようかな、と思っていたら、彼女は唐突に顔を上げてそう言った。


「新しい笑いの形だ!」

「……はあ」


 お笑い、と言われてどう反応していいやら、わからない。


「漫才というものをやってみたいんだが、君は相方になってくれないよな」

「面倒なので嫌です」

「うむ。そうだろうな」


 うんうん、となぜか城ケ崎先輩は頷いている。


「漫才は、ボケ役とツッコミ役で構成されている。だから基本的にふたり以上メンバーがいないと成立しない。だが、私のようなぼっちには、相方を見つけるのが難しい!」


 目の前にいる俺はなんなんすかね。

 人の家でごろごろくつろいでおいて、ぼっち宣言とかどうなの。


「だったらピン芸人でいいんじゃないですか」

「ピン芸人だと漫才が成立しないじゃないか! 私はボケとツッコミの化学変化、ワビサビを楽しみたいのだよ」

「……化学変化はともかく、ワビサビ関係なくね?」

「そこで、私は考えた!」


 ビシッ、と指をたてて城ケ崎先輩は胸を張った。

 そこそこたわわな胸が、たゆんと揺れる。


「ひとりで二役! 別人格を演じ分ければいいのだ! つまり、ボケ役とツッコミ役、二刀流というわけだよ!」

「……」

「これならば、ひとりでネタをやっても化学変化が楽しめる。さらに発展させれば! ボケとツッコミどころか、3役、4役の演じ分けが可能だ! すばらしいお笑いが誕生すると思わないかね!」


 城ケ崎先輩のアイデアを聞いていた俺は、首をかしげた。


「ひとりで二役演じ分ける、二刀流お笑い演芸……?」

「そうだ!」

「それって、落語って言いません?」

「あ」



 今日も城ケ崎先輩のアイデアは、役に立たない。




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