キレイなお姉さんの弟は、かわいい妹のお兄ちゃんでもある。

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

兄と弟、二刀流

 姉貴が、また迎えに来た。

 花柄の傘は、間違いない。


「マユ姉さん、わざわざ来なくてもいいって言ってるじゃん」


 大学の門まで出て、姉の傘に入らせてもらった。

 

「ダメよ、タクくん。カゼひいちゃうわ」


 姉貴と一瞬だけ相合傘をして、車に乗せてもらう。

 

「せっかくだし、荷物持つよ」

「やったぁ。今日はいっぱい買い物するんだぁ」

 

 スーパーに行って、マユ姉はカートにどっさりと野菜を放り込む。

 鼻歌まで歌いながら。

 必要最低限の食材は買った。


「何が食べたい?」

「姉さんの好物でいいよ」

「わあい。イカ刺しにしよっかな。でも、あの子イカ苦手なんだよねえ」


 あの子とは、「マユ姉の」妹だ。


 エコバッグをトランクに積んでいたとき、オレのスマホが鳴る。


「あ、時間だ。ごめん、行ってくるよ」

「雨降ってるから気をつけてね。あたしの傘使いなよ」

「いいって。じゃあ」

 


 オレは「自分の分の傘」を買って、駅の方へ。

 

 

「おまたせ。待ったか」


 駅で待っていたチエリに、オレは傘を差し出す。

 

「タク兄、遅いー」


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら、チエリは口を尖らせた。

  

「あはは。ごめんな。ちょっと用事で」

「いいもーん。要件はわかってるもん」


 プンスカと、チエリは頬をふくらませる。

 

「妬くな妬くな」

「でもありがと。タク兄」

「まったくだ。お前は、オレがいないとダメなんだから」

「んふー」


 チエリが、オレの肩に頭をおいて甘えてきた。



 オレはチエリを連れて、アパートへ歩いていく。


「あれ、お姉ちゃん、こっちにも用事があったの?」


 さっき別れたばかりのマユ姉の車が、チエリのアパート前に停まっていた。


「うん。だってチエリにも会いたかったし」

「でも、旦那さんは?」

「あの人、今日も遅いって。だから、今日は姉妹で食べましょ」


 オレは黙って、マユ姉のエコバッグをチエリの部屋まで運ぶ。


「じゃあ、ここに置いておくから」

「ありがとー。タクくん。もしよかったら、ご飯食べていかない?」


 そう問いかけられたところで、オレのスマホがアラームを鳴らす。


「時間です。お疲れさまでした」


 レンタル弟タイムが終了した。

 

「ありがとうございます、タクミさん。重かったでしょ?」


 顧客のマユ姉さんが、敬語に戻る。

 

「いえ。妹さんの分ですもんね」


 大量に買い込んでいたのは、妹さんの分も買っていたからだ。


 チエリを迎えに行かずオレに行かせたのは、薄情なのではない。

 妹もオレを、兄貴としてレンタルしているからだ。


 マユ姉は、「年上の旦那をもらってしまって、弟をお世話したい」と依頼してきた。

 妹のチエリの依頼は、「甘やかしてくれる、ややS気味なお兄ちゃんが欲しい」である。

 


「ホント、タクくんは優しいね。旦那とは大違い」

「マジでタク兄は頼りになる。あたしも、こんな兄貴が欲しかったな」


 喜んでもらえたら、なによりだ。


「ホントにご飯食べていかないの?」

「ありがたいんですけどね。これから、ちっちゃな『妹』とファミレスなんですよ」

「大変だねえ。気をつけてね」

「ありがとうございます。では今後ともご贔屓に」

 

  

 姉妹と言えど、男きょうだいが欲しいときがある。

 そんなときは、オレに電話ください。

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キレイなお姉さんの弟は、かわいい妹のお兄ちゃんでもある。 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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