【俺達お仕事二刀流♪ 『開運! 出張! 退魔師エンジェル!』】

桃もちみいか(天音葵葉)

イケメン退魔師はお仕事二刀流!!

 俺、星霧奏斗ほしきりかなと

 こなす仕事は二刀流、元気いっぱいの高校生だぜっ!


 仕事の内容は? って。


 じゃあ、教えちゃう。

 俺は弟の愛斗まなとと、この世にはびこる悪霊怨霊なんかを退治する退魔師。

 で、和食弁当や和風スイーツを作るシェフでもある。キッチンカーで売りながら街を巡ってるんだ。


 まだ俺と愛斗は車の免許が取れないから、仲間の退魔師兼シェフと組んで仕事をすることが多いんだ。


 仲間の退魔師は俺を含めて五人いる。

 ある日突然、上級天使セルフィが現れ悪魔を退治するようにと選ばれた五人組の退魔師の一人が俺。

 周りにはイケメン退魔師なんて呼ばれて恥ずかしいけどな。

 たしかに退魔師仲間の悪魔に立ち向かう姿とか真剣に料理してる顔なんかさ、カッコイイと思うぜ。

 俺?

 どうかな〜?

 女の子達からデートによく誘われっけど。


 駆け出しの天使ジェンジェンがぬいぐるみに化けて、俺達退魔師のサポートをしてくれてる。



 今日は俺と愛斗と退魔師のリーダーの駿也さんと、私立聖ガブリエル学園の学園祭に招待された。

 すっげえ。敷地内に三つ星ホテル並の外観の建築物が建ち並ぶ。

 高級そうな靴や時計を身に着け、お洒落な学生がいっぱいだ。

 それにお供みたいな大人を連れた学生もいる。白い手袋にスーツを着て、あれは執事か?

 ここ、ずば抜けて頭脳明晰な人間か金持ちのボンボンやお嬢様ばかりが通う学校で有名なんだっけ。


「駿也く〜ん、お久しぶり」

「麻梨亜さん、お久しぶりです。お招きありがとうございます」


 めっちゃ美人が来た〜。

 駿也さんと仲が良さそう。

 清楚系の美女で派手すぎないが華を感じる。

 肌は少し色白、目鼻立ちははっきり。ゆるく纏めたウエーブがかった髪はミルクティー色でほわあっとした雰囲気である。



「こちら有栖川麻梨亜ありすがわまりあさん、俺とは同じ大学出身で天文サークルの先輩なんだ。今はここで講師をしてる」

「俺は星霧奏斗です。よろしく」

「僕は星霧愛斗です。よろしくお願いします」


 俺と愛斗が挨拶をすると麻梨亜さんはにっこりと微笑んだ。

 どんな男も瞳を奪われていまいそうな笑顔だ。あでやかで天使みたいに美しい。


「有栖川麻梨亜です。よろしくね。駿也くんから噂は聞いてるわよ。二人とも腕の良い和食料理人で凄腕の退魔師だって。この学園に通ってもおかしくない星霧財閥のご子息でしょ?」

「俺も愛斗も今の学校は昔からの友達が多いんで」

「祖父はボディーガードをつけてここに行かせたがってましたけど悪者は自分達でやっつけられますから」


 麻梨亜さんは意味ありげにくすくす笑った。


「さすが。私のあるじが選んだだけあるわ」

あるじ?」

「麻梨亜さん。人目があるのでその話はいずれまた」

「そうね、駿也くん。いずれね。イケメン退魔師のお弁当にスイーツ、それに恋占いは女子大生に大人気だから皆楽しみにしてるわよ。よろしくね」


 そう言うと麻梨亜さんは会釈をしてから去って行った。

 なんだ『あるじ』って。

 駿也さんも麻梨亜さんもなんか隠してるみたいだったな。


「じゃあ、奏斗愛斗。店の準備をしようか」

「「了解」」


 俺はふと視線を感じて後ろを振り返ると知ってる顔の女子がいた。

 輝くロングの黒髪、聡明そうな瞳にダークレッドの縁の眼鏡を掛けている。

 あれ? 同じクラスの滝川薫たきがわかおるだよな。

 怒ったような思い詰めたような顔をしてこっちを見てる。

 胸に抱えてるのは学園祭のミスコンのチラシ?

 滝川はすぐに踵を返して講堂の方へ行ってしまった。


「なあ? 愛斗見たか?」

「うん。見たよ、お兄ちゃん。滝川さんだったね。様子がおかしくなかった?」


 学園祭は一般にも解放されているから、ここの生徒でない人間がいても不自然じゃない。


「お兄ちゃん。学園祭の目玉のセントプリンセス杯っていうミスコンさ、うちのクラスでも興味がある子がいたけど。滝川さんも見に来たのかな」


 一人でミスコンを見に?

 他にも見処はあるとは思うけど滝川はミスコンのチラシを抱えてた。

 あいつ、友達いないわけじゃないよな。滝川って休み時間とかいつも男女問わず一緒に過ごして楽しそうで賑やかにしてる印象がある。


「先ほどのお嬢さんは奏斗と愛斗の知り合いですか? 少し気がかりですね。俺は魔の気配をほんのり感じてます。学園全体に悪意が漂っている」

「やっぱり? 俺、気になるから滝川を追い掛けるわ。駿也さんと愛斗は先に店の準備していてくれる?」

「ええ、良いですけれど。奏斗一人で大丈夫ですか? 手に負えないようならすぐに呼ぶんですよ」

「オッケー!」

「お兄ちゃん一人で大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫」


 俺は滝川の姿を追い掛けた。



   ◆



 講堂に入るとひっそりとしていた。

 学園祭の喧騒は遠くなる。

 人々のはしゃぐ声、テンポの良い音楽……。

 ここは無縁の場所だった。


「滝川? 滝川〜、いたら返事をしてくれ。俺、クラスメイトの星霧奏斗だ」


 生温い風が吹く。

 まとわりつくような不快な気配とズズズッと地の底を這う不気味な音がしている。

 獣の様な唸り声がして俺はよく知ってる類の気配に鳥肌が立った。

 ――悪魔だ。

 俺の前に滝川が現れて立っている。目は虚ろで頭にはティアラを付けていた。


「滝川薫さん。汝に悪魔の気配あり」

「ジェンジェン!」


 白い犬のぬいぐるみに化けた天使のジェンジェンが空を飛んできた。駿也さんがジェンジェンに報せたんだろう。


「奏斗! 受け取って! 退魔師の剣だよ」

「サンキュー!」


 ジェンジェンから剣を受け取る。ズシッと重みに一瞬体が沈む。


「奏斗、あの子のつけてるティアラは悪魔のアイテムだ」


 異変を察知して滝川を追い掛けて正解だったな。


『来たな退魔師』

「まったく。お前らは倒しても倒しても湧いて出てきやがって」

『人間の怒りや畏れ、嫉妬心や劣等感。負の感情が無くならない限り我らが絶えることはない』


 一気に畳み掛けたいところだが滝川ごと倒すわけにもいかない。それに講堂の廊下で狭いから動きに制限がかかる。


『どうした? 来ないなら我から行くぞ。クックックッ』

「なあ、悪魔。お前一つ聞いても良いか? 滝川をなんで狙ったんだ?」

『「ウラヤマシイ」「私ダッテコノ学校二通ッテミスコンニ出テ優勝シテミタカッタ」この者から美味そうな感情の匂いがした。強すぎる憧れと羨望と劣等感があった』

「それが滝川の声か? 滝川を狙った理由か」


 ムカつくな。

 誰だって持ってるモンじゃないか。

 劣等感の無い人間なんていないし、なにかに憧れることは決して悪いことじゃないはずだ。


「お兄ちゃん! 助太刀に来たよ。僕にもひと暴れさせてよ」

「愛斗!」

「駿也さんが俺は一人で大丈夫だから奏斗を手伝えって」

「俺は一人でも充分だったぞ」

「まあっ。奏斗くんったらそんな怖い顔しないで。素直に愛斗くんの力も借りなさい」


 えっ――?

 女の人の声がしてチラッと後ろに視線をやると先刻の麻梨亜さんがいた。


「あんた一体何者だ?」

「味方よ。私、ジェンジェンより一つ階級は上だけど」

「天使ぃ!?」

「そっ。さて天使の守護フィールドを作るから思いっきりバトルしちゃいなさいね。私の手助けはここまで。後は二人で余裕でしょ?」


 ば――んって、刹那世界が変わる。

 学園の講堂から異空間に戦いの場所が移る。

 ここはただの広い広い草原。

 草と風以外、なぁんにもない場所。


『やりやがったな。巻き添えを作り被害を広げたかったというのに』

「つべこべ言わずにかかって来いよっ!」

「あ〜あ、お兄ちゃん悪魔を挑発しないでよ。やだなぁ、怒っちゃったじゃないかっ!」


 駆け出して、悪魔の乗り移った滝川のティアラを狙う。

 剣が近づくとティアラはいびつな形にぐにゃりと歪んだ。


「剣よ、応えよ――。さあっ、俺と悪魔退治しようぜっ!」


 俺と愛斗は滝川の体に傷がつかないように細心の注意をし、寸出で剣を空中で振るう。

 祓いの退魔師の剣は悪魔の魔力を清め吸い取っていく。


『ギャァァァ』


 滝川の体からなかなか離れない悪魔は草むらに転がって痛がった。

 出たっ!

 滝川から黒い影が出てくる。大きい漆黒の狼だ。

 悪魔の狼はフーッフーッと荒い息を吐いて尖った爪を見せる。

 滝川は無事なはずだ。意識を失い横たわっている。


「これがヤツの本体か」

「どうする? お兄ちゃん」


 ジェンジェンが俺の肩に飛び乗ると「同時に」と耳元に囁いた。


「愛斗はティアラを刺せ!」

「了解っ!」

「俺は悪魔にとどめを刺すっ!」


 俺と愛斗で同時に剣を振り上げ、各々狙い定めて突き刺した。

 悪魔の断末魔の叫びが草原に響き渡るとまばゆい光が辺りを包んだ。



   ◇


「大丈夫ですか、滝川薫さん。お怪我はありませんか? とても可愛らしい貴女に傷でもついていたら大変だ」

「だ、大丈夫です」

「そうですか、良かった。ではごゆっくり」


 なんか納得いかねえな。

 滝川は俺達が助けたのに。

 テーブルの席に座る滝川は駿也さんをうっとりとした顔で見てる。

 駿也さんから受け取った抹茶パフェを食べながら。


「なあ、滝川。ミスコンなんて出なくても、かっ可愛い顔してるんだから別に良いじゃん」

「あぁそれ。どうでも良くなっちゃった」

「はあっ!?」

「イケメンパティシエさんにいつか釣り合うように、私、中身も磨くわっ」

「……女子は秋の空のように移り気」


 愛斗は苦笑いをしながらぼそっと呟く。


「ねえねえ、あの人すっごいイケメンじゃない? 誰なの? ねえねえ星霧兄弟教えてよ」

「あ〜うるさいな。俺忙しいんで」

「うるさいって何? 失礼しちゃう」

「とにかく忙しいのっ。キッチンカーで弁当売らなきゃだ。愛斗に恋占いしてもらえば?」

「えっ? 愛斗くん占いが出来るの?」

「ええ出来ますよ。滝川さん、そこの行列に並んで下さいね」

「ざっと見たとこ30人ぐらい並んでますけど?」

「はい順番です。順番は守って下さいね」


 滝川薫は悪魔に乗っ取られたけど全然元気だ。


 俺は退魔師である。

 ほっぺが落ちちゃうぐらい美味しい和食弁当を担当しているシェフでもある。

 これからも二刀流で頑張る俺達退魔師を応援してくれよな。



     おしまい♪





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

【俺達お仕事二刀流♪ 『開運! 出張! 退魔師エンジェル!』】 桃もちみいか(天音葵葉) @MOMOMOCHIHARE

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ