投手と打者の二刀流をこなす者

夕日ゆうや

投手と打者

 投げたボールがストライクゾーンに吸い込まれるように入っていく。

 キャッチしたときの音が鳴り響く。

 汗が額ににじむ。

 この打球、さすがライバルの鈴木すずきだ。目を外せない。

 空振り三球。

 俺たちが攻める番になると、バッターボックスに入る。

 俺は二刀流だ。投手と打者、どちらもこなせるのだ。

 ごくりと生唾を飲み下す。

 ガラになく緊張してしまっている。

 一打席目。

 佐藤の投げるボールを打つ俺。

 金属音とともに、ボールが飛んでいく。

「ファール」

 ボールはラインに入っていなかった。

 小さく舌打ちをする。

 チラリと客席を見ると、不安そうにしている車椅子の好子よしこ

 この試合で甲子園に行けるか、どうかが決まる。

 腹に力を入れ、大きく深呼吸する。

 再びバッドを振るう。

「ファール」

 くそ。またかよ。

「ファール」

「ファール!」

 何度も呼びかけてきた声に苛立ちを覚える。

 分かっている。俺が悪いんだ。

 あのボールを受けるには……。

 俺はバッドを構え、再び振るう。

 金属音が鳴り響き、ボールはセカンドの方に飛んでいく。

 俺は慌ててバッドを捨て、一塁に走り出す。

 一塁を制すると、俺は顔を上げる。

 好子が嬉しそうに手を叩いている。

 彼女との約束は守る。絶対、甲子園につれていくのだ。

 そして好子の病気を世に示す。今すぐには無理でも、病気のことを知るいいきっかけになれば、俺たちのように苦しむこともなくなる。

 分かっている。それは諦めだと。今時代に好子は治らないと。

 知ってはいるが、諦めきれない。だから次世代に託すと決めた。

 バッドを振るった仲間。俺は走る。走り続ける。どこまでも。


 好子のため。俺のため。

 生き続ける。

 この世の理不尽から解き放つために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

投手と打者の二刀流をこなす者 夕日ゆうや @PT03wing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ