美し過ぎです!悪役令嬢!!

田室マロ

第1話 美しすぎ罪

その日、トゥーゲント王国に激震が走った。


「アンジェリカ=ルステンシュタイン!議会による協議の結果、貴女を美しすぎて国にかたむけ罪で追放とする!!」


「「「えええぇぇえーーー!!!」」」


その知らせは、瞬く間に国中へと伝えられ、あらゆるところで驚愕と絶望の叫びがあがった。


とん、と渦中の女が議長席へと一歩踏み出す。


「まぁ、議長!」


アンジェリカ、と呼ばれたこの国の王女は、その繊細で儚い睫毛まつげの奥のうるんだ瞳を、上座に座る議長へと向ける。大聖堂のシャンデリアの光を受け、瞳にきらりと星がまたたいた。


「うわ、まぶし!美しすぎる」


「議長、そんなにお褒めにならないで。わたくしのこの、神の世の者と見まごうような美貌びぼうが国を滅ぼしてしまったなんてそんな、褒めすぎですわ!」


「まだ滅んでないよ、これ《ルビを入力…》から滅びそうなんだよ!国中の男が王女に夢中で!!!」


王女はどこからか取り出した銀の手鏡で、うっとりと自分の愛くるしい顔に酔いしれている。


「およしになって、議長!わたくしが空前絶後の美少女であることは自明じめいことわりよ、褒めるまでもなく当然のことなの。議長、それ以上続けてしまっては、わたくしの美貌を表現しきれずいずれ苦しくなってしまうわ!」


「王女、私は褒めているわけでは……うわ!眩し!やっぱ美しすぎる!」


「嘘をおっしゃい、褒めているではありませんか。……分かりましたわ!!ああ、わたくしが美しいばかりに、褒めたくなくても事実を述べるだけで褒め言葉になってしまうのですね。なんてお可哀想な議長……」



(((すげぇナルシストだ!!!)))


なんて突き抜けたナルシストぶりだ。その場にいた議員、王族、判決を野次馬しに来た市民の全てがそう思った。


(((でも、美しすぎて何も言えねぇ!!)))


人々は目を焼くような王女の美貌から目を隠した。



「王女様、お待ちください!議会の判決は『追放』なのですよ!あなたの顔が美しすぎるという、ただ、それだけで!良いのですかこのままで!」


唯一、王女に日々付き従いその美貌に耐性のある侍女・フィンヤが、変わらず手鏡の中の自分にハートを飛ばす王女に声をあげる。


確かに王女は美しすぎてトラブルも多いが、何も追放というのはやり過ぎだ。国を出ていったとして、箱入りのお嬢様であるアンジェリカが無事に生きていけるとも思えない。


早く反論して、議会のやり直しを要求せねば。



「良いのです、フィンヤ。このままでは国が危ないという議長達の言い分も真なのです。わたくしが国を去ることでトゥーゲント王国が立ち直るというのなら、そのくらいは覚悟の上ですわ」


「王女様……」


「国の存亡に関わるほどの美しさを持って生まれてきたわたくしが悪いのです。ああ、なんて罪深いのかしら、わたくしのこの美貌は!罪深き美貌!罪深きわたくし!いい響きね!」


「王女様!」



アンジェリカはその白魚しらうおのような細く白い両手で、ほんのりと赤く染まった頬を包んだ。


人々の目にその姿は、まるで一枚の宗教画のように神聖に映った。

大聖堂のステンドグラス越しに太陽の光が一筋アンジェリカの顔に差し、とても追放宣告を受けた場だとは思えない程の神々しさであった。


ある者はこれ程の美しさを持つ者が本当にこの世の人であるのかと自問し始め、ある者はこの美少女と同じ時代に生を受けたことを神に感謝し、涙を流した。



「美しいって、罪ね!!」


全くである。





かくしてトゥーゲント王国王女アンジェリカ・ルステンシュタインはその王女としての権利を剥奪された。


国王夫妻より持てるだけの財宝と食料と一台の馬車を賜り宮殿を出発したアンジェリカは、国境ギリギリまで見送りに来たトゥーゲントアンジェリカ王女王国の国民ファンクラブにみおくられ、侍女・フィンヤただ一人を連れ長き旅路を進むこととなったのだった。




一方。入れ替わるようにして宮殿の雑用係としてやってきた少女……この乙女ゲーム世界のヒロインへと転生した女は、最も警戒すべき「悪役令嬢」、アンジェリカ・ルステンシュタインが既に追放されていたという事実に度肝を抜かすのであった。

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