私、神様追放されました
北野椿
第1話
「そういうわけで、君の座は今日付けで明け渡されることになった」
ぱちくりと瞬きをするエリシアの目の前に鎮座しているのは、時空を司る神・セムヌポス。その口から放たれたのは、エリシアには到底理解できない言葉だった。
「なぜですか! そんな突然、役職を追い出されるなど! 理解できません!!」
「突然、だと……?」
セムヌポスの眉間に皺が寄る。同時に、その背後から射す後光が一段と強くなった。セムヌポスという神はいつもこうだった。なにか自分よりも身分の下の神々が意見をすると、後光でもって圧をかけてくる。その眩しさに両目を瞑り、半ばうんざりしながら、エリシアは言った。
「せめて、訳をお聞かせください」
「よかろう」
しゅん、と光が弱まり、エリシアは目を開ける。セムヌポスを見、その隣に佇む、馴染みのない服を着た男を見た。異世界から来たという男、忘れもしない、名を田原総一朗という。エリシアは自分の顔がかっと熱くなるのを感じた。
「その男は!」
「思い出したか! たわけ!」
セムヌポスの後光が再び強くなる。エリシアが目を瞑ろうとしたとき、田原総一朗もまた迷惑そうに目を眇めるのが目に入った。
セムヌポスの治める世界には、定期的に異世界から転生者が飛んでくる。転生者はまず、セムヌポスの使いにこの世界の説明を受け、次にその特性により、各々に合った神から加護を受ける。その際、力試しとして神から試練を与えられ、その出来によって加護の強度が決まる習わしだった。
神といえばもちろん、その加護を与える側、つまり最強の能力をもつ者である。
エリシアもまたそんな神々の一人、圧倒的なその能力でもって、転生者に試練を与える側であった。
そんな彼女の元に、数日前、田原総一朗がやってきて、あってはいけないことが起こってしまった。エリシアは、他の神々とは異なり、超人的な能力を持っているわけではない。彼女は弁論の神であった。
彼女の与える試練は、彼女との知恵比べ、つまり討論である。神々のなかで、向かうところ敵なしであった彼女は、ほとんどの人に対してもそうであった。しかし、田原総一朗というイレギュラーが現れてしまったのだった。
エリシアと田原総一朗は、一晩中、弁論を繰り広げた。論題は、転生者に圧倒的に不利にならないように、異世界の事柄と縛りがある。エリシアは苦戦した。この男、田原総一朗、並々ならぬ場数を踏んでいる。
先日異世界旅行で行った際行った、温泉に備えられた卓球を、エリシアは思い出した。バシバシ来る。バシバシ来るのだ反論が。ラリーを打つので精一杯である。気を抜いて取り落としたほうが負ける。
しかし、討論に時間で、エリシアは一晩など明かしたことがなかった。
夜明けの日が昇る頃、勝敗はついた。エリシアの負けだった。
田原総一朗は、その幾多の苦難を乗り越えた顔に、喜びの皺をくしゃっとよせて、その場をあとにした。
「負けたものがその座をのく。この世界の摂理だ」
セムヌポスは、後光を少し弱めて言った。エリシアは崩れ落ちた。そこに、一つの言葉が差し込まれた。
「いいえ、その必要はありません」
エリシアは顔を上げた。田原総一朗だった。
「この間はとてもいい討論だった。またお手合わせ願いたい。私を助手にしてください」
エリシアはこくこくとうなずいた。
私、神様追放されました 北野椿 @kitanotsubaki
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