第34話 善家の交友関係

 文化祭の定番はお化け屋敷もその一つだが、それは他のクラスに先取りされてしまったので、時雨のクラスの出し物は喫茶店風味になった。


 といっても予算はないのと派手なのは学校的に受けがよろしくないので、男女共々エプロン着用だけにするのと、飲み物は市販のスティックコーヒーシリーズ、お菓子類はロールケーキとクッキーのみである。ちなみにクッキーは農産科とは関係ない。どちらとも市販の物だ。


 それならせめて内装を凝ろうと、まあまあ一致団結している感じだった。


 クラシック寄りの内装なら嫌みったらしい先生方も何も言うまい、と意見が一致して流す音楽を探したり、本で内装を勉強したりとまあまあ忙しくしている。


 その前準備が終わり、そろそろ本格的に準備する段階まで来た。必要な物は店に頼んだので、あとは届くのを待つだけだ。


 いつもより少し早く終わり、久しぶりに図書室に行って本を借りて校門に向かっていた。


「あ」


 二つの人影が見えて、反射的に立ち止まる。


 一つは善家で、もう一つは見知らぬ女だった。


 女は小柄でぱっと見、中学生くらいかと思った。少なくてもこの町の中学生ではないことは着ている制服で分かる。


 女は頬に大きなガーゼを貼っている。顔色も青く、とても健康そうには見えなかった。


(珍しいな。善家が一対一で誰かと話しているなんて)


 善家は時雨のときのようにどうしようもない流れ以外では、複数人で話す。それは女子だろうが男子だろうが関係ない。先生は別のようにも感じるが、先生は同世代に比べて壁を作りやすいし、あちらも深く干渉しようとしないので問題ないと判断しているのかもしれない。


 同性代相手と一対一で話すと、己の本性がポロッと出る可能性があるから避けているのだと、時雨は邪推している。


 その邪推は当たっているのではないか、と時雨は半分確信していた。


 周りにはそれを悟られないように慎重な行動をとっている善家が学校の校門の前で、しかも女子と一対一で話しているとは。


(なんか……見てはいけないものを見た気分だ)


 甘い空気を醸し出しているわけでもない。女子は人のことは言えないが陰気そうで、愛想笑いもせず善家と話している。


 善家のほうも変わった様子もなく、いつも通りに話しているように見える。


 会話は遠くて聞こえないが、雰囲気からして恋人関係ではないと思う。


 けれど、なんだか逢い引きに遭遇したときのような、なんだかとても気まずい気持ちに陥った。


 校門を通るのは憚れるので、遠回りになるけれど裏門からバス停へ向かおう。

 善家に気付かれる前に踵を返し、裏門を目指す。


(しかし、あの善家に対してあんなにも無表情な顔で話す子って逆に新鮮だったな)


 善家に話しかける女子は大抵陽キャと呼ばれる人種だからか、ああいう反応する女子はいない。


 だからか、あの子に対しては興味はないが少し親近感を抱いた。


(善家が好きっていうわけでもなさそうだし、どういう関係なんだか。それこそ大して興味はないけど)


 そこまで考えて、あることを思い出した。


(そういえば、陽古が善家とは関わらないほうがいいって言っていたな)


 すっかり忘れていた。あれからずっと必要最低限しか話さなかったから、陽古の珍しい忠告を気にするほどではなかった。


(結局どんな理由なんだ?)


 好青年だな、と陽古の善家に対する第一印象は良かった。それなのにどうして陽古はあんなことを言ったのだろうか。


(帰ってから聞くか)


 そう決意し、時雨は鞄を掛け直した。

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