第16話
夕実と別れた後、椎名と葉山はファミリーレストランの方を見た。
「さてと」真剣な目になる葉山に椎名が言った。
「CD返すって嘘でしょ」
「あ、わかった?」
「まーね。で、どうすんの?」
「さっきの夕実の様子だけど、やっぱ何か隠してるね。あの新藤ってヤツに関して」
「うん。それはわたしも思った。あたしたちを必死になって止めたところとか」
「だから、直接聞いてみようと思うの。どう?」
葉山の提案に、椎名はさきほどの新藤拓真の姿を思い出した。
家族に囲まれての食事。見た目は普通の生徒のようだったが、果たして実際はどうだろうか。イジメを苦にしての自殺という話からして、それほど気の強い性格ではないとは思う。
記憶喪失だとも言っていたが。
「んー、そうだね。悪い人には見えないから大丈夫だとは思うけど、一応用心しとくに越したことはないね。スマホの録音機能オンにしといたら何かあったとき証拠になるかな?」
「そうね。んじゃ決まりで」
二人は喫茶店の中に戻った。先ほどの家族を見ると、新藤の姿がなかった。見回すとトイレに行く姿が見えた。
「丁度いいわね」
トイレの前で彼が出てくるのを待った。そして、出てきた所で、彼の前に立ちふさがる。
「ん?」新藤は、怪訝そうにこちらを見た。
「新藤拓真君でしょ?」
葉山が訊いた。
「そうだけど。えっと君らは、さっき月野さんと一緒に隣の席にいた……」
やはり、夕実のことに気づいていた。
「わたしは葉山、こっちは椎名。あんたと一緒の学校の生徒よ。単刀直入に聞くわ。夕実に何かした? あなたに対する怯えが尋常じゃなかったわ」
新藤は、少し目を瞬かせた。
「ああ。そのことか」
「そのことって、やっぱり何かしたのね」
椎名は新藤を睨み付けた。
「何もしてないさ。彼女が勝手に怯えてるだけだ。彼女、霊感が少しあるんだってね? それで、俺に何かが見えたらしいよ」
笑みを浮かべて新藤は言った。
「は? 何言ってるの? そんなわけないでしょ? 嘘つくならもっとマシな嘘つきなさいよ」
葉山が少し苛立って言った。
確かに以前、夕実は少し霊感があると言っていたことがある。だが、それとこれが結びつくとは思えなかった。
新藤は二人を見比べるように見た後、少し口角を上げた。
「……へぇ、君らは随分と仲がいいようだな。そして、強い絆で繋がっている。二人で何か乗り越えたとかそんなとこか?」
椎名たちはぎくりとした。
「い、いきなり何よ!」
椎名がイジメを受けていた時、葉山が助けてくれた。だけどその葉山もまた家庭による事情で苦しんでいた。二人で支えあって、お互い気持ちをぶつけあって親友になった。
心を見透かされたような気がした。
「一つ言っておく。俺に関わるな。わかったな?」
新藤は無表情になって、二人を見た。椎名はその無機質のような冷たい視線に寒気を覚えた。
……何こいつ? いったい何なの?
新藤は二人の横を通り、席に戻った。家族の前では笑顔で話していた。
一度喫茶店を出て、椎名たちは家に帰ることにした。途中までは同じ方向なので、大通りの歩道を自転車を押しながら並んで歩く。
しばらく二人は無言だった。
新藤の何ともいえない迫力に圧倒されたのだ。周囲の空気が張り詰め、凍り付くような雰囲気。以前、夕実が霊感があると話してくれた時、そういった状況になることがあると言っていた。
自殺するような生徒にはとても見えなかった。
まさか本当に何かが彼に憑いているというのか。そんな馬鹿な。
「……明日、もう一度夕実に話を聞こう」
葉山の言葉に椎名は頷いた。
車道側で黒いバンがスピードを落として横を通過し、少し前方の方で停まった。
不思議に思う間もなく、三人の男が降りてきた。
「ちょっといいかな。道を聞きたいんだけど」
椎名たちの進行方向を遮って、男たちは訊ねてきた。
明らかに怪しかった。
「すいません。急いでいるんで」
葉山は言って横をすり抜けようとした。その時、男の一人に腕を掴まれた。
「痛い! ちょっと離してよ!」
「人には親切にって親に言われなかったかい?」
男たちはニヤニヤして言った。
「生憎、人を信用するなって言われてきたのよ。大声出すわよ!」
「そうかい。だせるもんなら出してみろよ」
別の男がジャックナイフを葉山の腹に突きつけていた。
「み、美紀!」
「おおっと、お壌ちゃんもおとなしくしろよ。友だちが刺されるの見たくないだろ?」
そういえば、今朝のホームルームで婦女暴行事件が多発していると言っていた。こいつらがそうなのだろうか。
椎名は自分の運命を呪いたくなった。自分だけならまだしも、葉山にも危険が及ぶことはどうしても避けたかったのに。
「二人とも車に乗れ」
強引に後部座席に押し込まれ、男は椎名の顔付近でナイフをちらつかせた。
「妙なまねはすんなよ」
車を発進させ、ユーターンして今椎名たちが来た道を戻っていく。
途中先ほどのファミレスが見えた。丁度、新藤家族が出てきた所だった。椎名は新藤の顔を見た。彼と目があった気がした。
だが、車の後部座席の窓にはミラーフィルムが貼られていて、向こう側からは見えないと気づいた。
椎名は歯噛みをして、拳を握りしめた。
その横で葉山が小さく言った。
「大丈夫。あんただけはどんなことしても助けるから」
椎名は頷いた。
内心では彼女とは逆のことを思っていた。
どんなことをしても葉山を助けると。
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