再会は涙と共に


 あの日フラワーガーデンに遊びに行ってからの翌日以降、ナズナはあぜ道に姿を現すことはなかった。


 いくら連絡を入れても、毎日あぜ道に行っても、ナズナと会うことができずにいる。

 ナズナが姿を消してから今日で二週間が経過しようとしていた。


 最初は体調が悪いんじゃないのかと思ったりして心配したが、二週間経った今ではその心配にプラスして多くの心配が積もってきている。


 何か大きな病気にかかってしまい入院しているのではないのか?

 何かトラブルに巻き込まれてしまったのではないのか?

 僕が何かして嫌われてしまったのではないのか?


 そんな嫌な思考が日に日に積もっていく。


 今は夏休み真っ只中。

 もしかすると家族や友人とどこか行っているのではないのかという可能性もあるにはあるのだが、ナズナの性格からして連絡もせずに急に姿を消すとは思えない。



 ナズナは一体どうしてしまったのだろう。


 僕はそんな風にナズナのことを考えながら準備を済ませると家を出てあぜ道に向かった。

 

 ナズナが姿を消して二週間。

 僕は毎日あのあぜ道に通っていた。


 もしかすると今日こそはいるかもしれない。

 そんな期待を胸に自転車を漕ぐ。



 もしかしたらもう二度とナズナと会うことはないのかもしれない。

 無駄な行動なのかもしれない。


 それでも僕はあのあぜ道に行くことをやめない。


 少しの希望だとしても行動せずにはいられないから。



 いつもの道を走り、左に曲がる。


 岩肌を露出した山が見えて来て、その麓には青葉を生やしたソメイヨシノ。

 もう何回見たかも分からない景色の中、ただ会いたい。そんな感情だけを頼りに足を進める僕。



 今日こそはいるかもしれない。

 だから行くんだ。ナズナが待っているかもしれないあぜ道に……。



 いつもの場所に自転車を停めてあぜ道の、いつもナズナがいる場所を目指す。



 周りは田んぼしかない。

 何もない道をただただ進む。



 そこは自転車を停めれば歩いてすぐの場所。

 

 今年の四月。


 初めてあぜ道を訪れた。


 本当に偶然だった。

 不運と自分の情けなさが招いたただの偶然。


 そんな偶然に導かれた先はこのあぜ道。

 何もない。誰もいない。

 あるのはただ田んぼとあぜ道の端っこに根を下ろしている雑草だけ。

 そんなあぜ道。


 そんな……。

 そんなあぜ道で……僕は一輪の雑草を見つけることができた。



 走り出した。



 何回も何十回もみたその後ろ姿。

 少しいじわるだけど、優しい女の子。

 そして僕の大好きな女の子。



「……ナズナ」




 僕はその後ろ姿に話しかけた。

 色々と言いたい事はある。あったはずだ。

 でも実際に目の前に立つと言葉が出なかった。



「やっと会えたね」



 僕が話しかけると、ゆっくりと振り向きそんなことを言うナズナ。

 そのセリフは僕が言いたい。

 

 恋人でもない僕が言うのは変かもしれないけど。

 ずっと会いたかったんだよ。



「うん。やっと会えた」



 僕の目から自然と涙がこぼれる。


 無事で良かった。

 また会えた。

 何をしていたんだ。

 

 色々な感情が僕の中を流れる。



「まったく……。キミは相変わらずだね……」


 そう言って僕の涙を拭いてくれるナズナ。

 僕は俯いた顔を上げると、僕の顔を拭きながら泣いているナズナの姿があった。



 その涙を見て、僕はより一層泣いてしまう。



 やっと会えたんだ。

 もう会えないと思っていた女の子に。



 感情が溢れ、どうしようもなくなってしまう。そしてそれはナズナも同様だったらしく、二人して誰もいない。何もないあぜ道で二人で泣いたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る