動かないスマホと、彼という存在
私が部屋に引きこもってからどれくらいの日が経ったのだろう。
スマホがないので日付はおろか時間すらも分からない。
あれから私はほとんど部屋から出ていなかった。
毎日顔のケガの様子を確認してはいるが、まだまだ完治とはいかない。
せっかくの夏休みなんだけどな……。
ミンミンと外で元気に鳴くセミの声を聞きながら夏を感じる。
何もしないということには慣れてきたが、やはり暇。
私は部屋のカーテンを閉めて、座椅子に体を預ける。
そして座椅子を傾けながらリズム良く後ろに倒しては戻してを繰り返す。
一体何をやっているのかと自分をツッコむが、それに答えてくれる人も居なければ、自分でツッコみ続ける気にもなれない。
あとどれくらいこうしているのだろうか。
早くあぜ道に行きたい……。
早く彼に会いたい……。
その思いだけが日に日に積もっていく。
もしかしたら彼は私のことを心配しているかもしれない。
スマホがあれば連絡できるんだけどな……。
電話とかだってしてみたいし……。
声……聞きたいな……。
私はテーブルに置かれた壊れたスマホを持つ。
そして電源ボタンを長押しする。
反応無し。
手に持ったスマホをテーブルに戻して天井を見た。
スマホを修理しようにも、名義は母親だしきっと高校生の私だけでは修理してもらえない。
だからといって母に頼んでも願いは叶えて貰えないだろう……。
八方ふさがり。
この怪我が治るまでは何もできない。
頬にできた傷をなぞる。
まだ痛みを感じるが、ずいぶんとマシになった。
彼は今、何をしてるんだろう。
家族とご飯でも食べてるのかな。
それともどこか遊びに行ってるのかな。
まさかあぜ道なんかにはいないよね。
こんなに暑いし、今は夏休みだ。
家族とどこかにでかけているに決まってる。
「あぜ道……か」
まるで夢の世界で起こった出来事のように感じてしまう。
ずっと部屋にいるので、産まれた時からずっとここにいるのではないかという錯覚すら覚える。
自分は今何をしているのか。
それすらも分からなくなってくる。
近い視野で見れば座椅子に座っている。
遠い視野で見れば部屋に引きこもっている。
もっと言えば私は生きている。
うーん。
なんだか良く分からなくなってきた。
私は気分を変えるために、立ち上がると引きこもる際に調達した飲み物と彼と出かけた時に買ったお菓子を出す。
ショッピングモールに行った時に大人買いしたお菓子たち。
結構な量を買ったので、まだ三分の一ほどは残っていた。
私はどれを食べようかと考え、結局一口サイズの米菓を選択。
袋を開け口に頬張った。
思えばこのお菓子。おばあちゃんと一緒に食べたものだ。
私は昔からおばあちゃんっ子であり、おじいちゃんっ子だった。
父方の祖父、祖母なので今ではほとんど会うことはない。
都会の方に住んでいるし、ずいぶんと会っていない。
最後に会ったのはお父さんのお葬式の時だ。
その時にネックレスを貰った。
彼が綺麗だと言ってくれたネックレスだ。
おじいちゃんがおばあちゃんの誕生日に送ったものらしく、大切な物だと言っていたが、父が亡くなって落ち込んでいる私におばあちゃんはプレゼントしてくれた。
それから毎日付けるようにしている。
思えば私がお菓子を好きになったのもおばあちゃんの影響があったからだ。
私が小さい頃から母親は体に悪いからとお菓子を与えてくれなかった。
だから唯一私がお菓子を食べることができたのは祖母の家に行った時だけ。
その反動もあってか私は気付けば、生粋のお菓子好きになったのだ。
彼も私の変わりっぷりにビックリしてたな……。
事あるごとに彼を思い出す私。
まだ出会って数か月だというのに、既に彼は私にとって大きな存在となっている。
友達……なのだろうか?
それとも親友? ではないな。
これは勝手な偏見だが、親友というのはどうしても同性のことをイメージしてしまう。
では彼と私の関係は……?
そんなことを考えながら、私は彼の顔、声、仕草を思い返していた。
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