冷酷な現実


 突然の物音で目を覚ます。

 どうやらリビングから出た物音のようだ。


 眠い目を擦りながら、スマホを見ると寝付いてからまだ一時間も経過していなかった。


 どうせアイツが酔って物でも落としたのだろう。


 私は下の様子を見に行く。

 アイツのことなんてどうでも良いが、家を壊されてはたまったものではないし、リビングにはお父さんの大切なものがある。

 適当に様子を見て部屋に戻ろう。


 そう決めた私は階段を降りてリビングの部屋の扉を開ける。


 すると予想通りリビングのテーブル、そして床には大量の酒瓶が転がっていた。

 どうやら酔った勢いでテーブルの物を下に落としたようだ。


 私は床に寝転んでいるアイツを横目に下に落ちてしまった箸や食べ物をテーブルに戻す。



「あー、丁度良かった。ナズナ。酒買ってきて」



 転がっているアイツ。もとい母親は少し目を開けると私に言ってくる。

 まだ沢山あるだろうに……。



 私は母を無視して、床に転がっているものを片付けると部屋に戻ろうとする。

 後ろでは酒を買ってこいだの親の言うことを聞けだの言っているが、それを断固として無視してリビングの扉に手をかける。


 やっぱり夢と違って現実は冷たい。


 私は彼とその家族を思い返して、そして比べては悲しい気持ちになってしまう。

 

 まぁ、私は雑草だからね。

 そんな風に自分を卑下しては、現実と向き合う。

 そうでもしないと自分が壊れてしまいそうになるから……。



「だから、買って来いって言ってるだろ!」




 後ろから怒号が聞こえる。

 逆上した母は怒鳴り声を上げながら立ち上がりコチラに向かってきた。



「うるさい!」



 流石にイラっとした私は思わず反論してしまう。

 

 これが不味かった。

 突然頬に痛みが走り倒れ込む。


 これまで味わったことのない痛み。

 


 どうやら私は酒瓶で殴られたようだ。

 手で殴られた頬を触ると、赤い血が手に着く。

 


「いいから酒を買ってこい!」



 私の惨状を見ても母は自分の要求をするだけ。

 何も思わないんだね。


 母を突っぱねるようにして、距離を取ると部屋に戻ろうとする。

 そうでもしないと身の危険があるし、何よりもこんな場所に居たくない。


 

「親の言うことが聞けないの!?」



 ヒステリックに叫びながら私の肩を掴み揺さぶる母。

 私の態度が気に入らないのか、それとも私そのものを見ていないのか……。


 もう見限ったつもりだったけど、悲しいものだ。


 無理やり母を離し、距離を取ると私は母親の怒鳴り声を無視して自室に戻る。

 そして部屋のタンスを扉の前に置きバリケードを作ると私はベットに倒れ込んだ。





 翌日。

 朝日が昇る頃。

 私は目を覚まし、スマホで時間を確認しようとする。


 しかしどこを探してもスマホがないことに気が付いた。

 部屋にはない……。リビングか……。


 私は昨日のケガと精神的な疲れから重い足を動かしリビングに行く。

 すると母の姿は無く、どうやら自室で寝ているということが分かった。

 そのことに一安心するとスマホを探し始める。


 多分昨日殴られた時にポケットから落ちたのだろう。

 床に転がる瓶や缶を避けながら探す。


 部屋の一部分には、昨日殴られた際に割れた瓶の破片が散らばっている。

 結構痛かったしそうなるよね。




 スマホを探し始めて数分。

 私は無残にも壊れているスマホを見つけた。


 どうやら昨日殴られた衝撃でポケットから落ちたスマホはそのまま壊れてしまったのだろう。

 試しに電源ボタンを押しても反応することはない。


 全く……。やってくれた……。


 私は壊れたスマホを手に一度部屋に戻る。

 そしてタンスから着替えやタオルを出すと、昨日は母がいたから入ることができなかったお風呂に入るために一階の浴場へと向かう。



 流石に一日以上も入っていないと体がベトベトして気持ち悪い。

 

 母と会わないようにできるだけ早歩きで母の自室を通り過ぎ、浴室前の脱衣所に着くと、私は鏡で自分の傷を確認した。


 頬は青く腫れあがり、所々に切り傷があった。

 素人目の私から見てもこれは……。


 正直まだ痛みはあるけど、まさかここまでとは……。



 私は泣きたくなるほどの負の感情を我慢すると服を脱ぎ浴場に入る。

 


「これじゃ、あぜ道にはいけないよ……」



 洗い場に備え付けてある鏡で自分の顔を見て絶望する。

 きっと彼は心配するだろう。

 それにこんな傷、彼には見せたくない……。


 考えれば考えるほど、涙がこぼれてくる。



 なんで私は……。




 私は手をギュっと握り締め、自分の不幸を呪った。


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