キミは黄色いスイレンだ



 僕とナズナはこのフワラーガーデンでこの季節一番綺麗に咲いているというスイレンの池の前まで来た。

 このスイレンは五月から十月にかけて咲く花らしく、今まさに旬の花だ。


 池の中には一面のスイレンが咲き誇り、水面に浮く花はとても幻想的で多くの人はそのスイレンを前でうっとりと眺めていたり、熱心に写真を撮ったりしている。


 かくいう僕達もその水面に咲くスイレンに目を奪われていた。



「この時期のメインってだけはあるね」



 ナズナはスマホで写真を撮りながらしみじみと感想をこぼす。

 それに関しては僕も同意見で、ナズナと同じように写真を撮ると、スマホをしまい目に焼き付けるようにしてスイレンを鑑賞する。



「ネットで画面越しに見るよりも断然綺麗だ」



 僕はここに来る前に軽くだがフラワーガーデンについて下調べをしてきた。

 楽しみだったからという理由もあるが、それよりもナズナを少しでも楽しませてあげられたらということでネットで検索をかけてたのだ。

 だが、今目の前に広がる景色は事前に見た景色の何倍も素敵なもので正直驚いてしまう。


 やっぱりこういうのは実際に見てみないと分からないものだ。

 

 本来であればこの初夏というのは花の季節ではない。しかしこの季節だからこそ見れる景色もあるということなのだろう。



「うん。そうだね。私もスイレン自体は公園に咲いてたりして目にする機会は多かったけど、これは凄いよ」



「確かに。大きな公園とかお寺とかに咲いてるのを良く見るけど、これはそれ以上だね」



「うん。色も沢山あって見てるだけで楽しい。白にピンクに黄色もあるね」



 そういってスイレン一つ一つに指をさして数えるナズナ。

 その姿はなんというか普段と違い幼い印象を受けるが、それはそれで微笑ましいと思えてくる。

 思考がバレたら怒られそうだけど……。



「スイレンって花言葉ってあるのかな?」



 ひとしきりスイレンの数を数えていたナズナは、ふと質問してくる。



「んー、どうだろう。スイレンって有名ではあると思うけど、そこまでメインっていう花じゃないから……あるのかな……」



「そうだよね。でもこれだけ綺麗なんだからあっても良いと思わない?」



 ナズナはそう言うと、ポケットからスマホを取り出し操作し始める。



「どう? あった?」



 流石に女の子のスマホを脇から覗き見るのは良くないということで、できるだけナズナから視線を外しスイレンに目を向け、質問を投げかける。



「んー、あるにはあるっぽいけど……」



「なんか変な意味だった?」



 花言葉の中にはあまり良くない言葉がついている花もある。

 有名どころだと、クローバーなんかがそうだ。

 一般的には幸運という言葉が広まっているが、昔聞いた話しだと復讐なんて言葉を付けられているらしい。

 とても怖い話しだが、実際そういう意味の花言葉は沢山あるし、結婚と出産を司る神様だって、嫉妬の女神なんて呼ばれていることもある。


 だからスイレンに変な花言葉がついていても驚かないけど……せっかくナズナとこんなに素敵な景色を見ることができたのだから良い花言葉であれば良いとは思ってしまう。



「いや、特に変な意味は――」



 そう言って画面をスライドさせるナズナだったが、急にピタリと指の動きを止める。

 そして何か面白い記事でも見つけたのか、小さく笑った。



「なんか分かったの?」



 僕はその反応が気になりナズナに聞く。しかしナズナは「ちょっと待って」と言いその記事を熟読し始める。


 ナズナの邪魔をしてはいけないと黙ること三十秒。

 顔を上げたナズナはスマホをポケットにしまうと僕の顔を見て笑みをこぼした。



「な、何?」



 突然の笑みに怖くなる僕。

 今回は何もしていないはずなので、弄られることはないと思うがナズナが急に笑う時は決まって僕のことをいじめる時だ。


 ナズナからの攻撃に備える。

 しかしその備えに対してナズナは、先程と変わらぬ笑みで一言。



「キミは黄色のスイレンだね」



 ナズナは僕にそう言うと、立っていた場所から少し移動してスマホを構える。

 その場所は僕とスイレンが咲く池が丁度映り込んでいる場所。


 僕がナズナの次の行動を理解する頃には時すでに遅し。

 ナズナは僕とスイレンが咲く池をレンズに収めるとシャッターを切った。



「ふふ。良い写真が撮れたよ」



 ナズナはスマホで写真を確認するとご機嫌な様子で僕に見せてくる。

 正直写真を撮られることが苦手な僕だったが、ナズナの満面の笑みと良く撮れている写真の出来で「消してよ」なんて言えない僕。


 自分で言うのもアレだが、凄く良く撮れてるし、なんならその画像が欲しいくらいだ。



「まったく……。それで、黄色のスイレンが僕? それって?」



 ナズナの言ったことの真意を聞く。

 流石に意味深過ぎるし、なんというか単純に気になる。



「別に深い意味はないよ。ただ黄色のスイレンの花言葉がキミにピッタリだなって。それにね、今目の前にあるスイレンって……。まぁいいや。なんかキミっぽいって思っただけだよ」



 ナズナはそう言うと、僕に背を向けた。

 頭の上にハテナが浮かぶが、そんなこと関係無しに先に行ってしまうナズナ。

 まぁ、あとで黄色のスイレンのことを調べてみよう。


 僕はいったん頭の区切りを付けると先に行ってしまったナズナの後を追った。


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