田舎の都会とナズナの文句


「私思うんだけど、なんで田舎ってバスが少ないんだろうね。都会なら歩いて行ける範囲で生活が完結するでしょ? 逆に田舎は車がないと暮らしていけない。免許を持てない学生とか、運転しないお年寄りには結構キツいなって思うんだよね。自転車でも限界があるし」



 バスの時刻表を見てそう言うナズナ。

 僕たちは電車を一駅乗った後、目的地に向かうバスが来る駅前の発着所で待っていた。



 その駅は田舎にしては大きな駅で、都会のようなデパ地下が入っている訳ではないが、多くの人が行き来していた。 

 駅前のサークルの真ん中には噴水があって、そこに備え付けられているベンチでは学生と思われる人達で賑わいを見せている。

 商店街こそないが、コンビニに数軒のお店。それだけで僕達の住む場所よりは快適だ。

 あそこはコンビニまで歩いて行くことすら困難だから比べるまでもないんだけど。

 



 そしてこれは田舎あるあるだが、たった一駅乗るだけで景色が一変する。

 まぁ、単純に駅と駅の距離が長いっていうのもあると思うけど、改めてみると不思議なことだと思う。

 同じ田舎なのにね。


「キミはどう思う? 田舎って本当に利便性が悪いと思うの。都会はもう充分に整備されているんだから、そろそろ田舎も便利にしていくべきだと思うんだけど」



 ナズナは時刻表を睨むと、そう言いながら僕に意見を求める。



「まぁ、それが田舎だし、しょうがないんじゃないかな?」



「そうだけど、でも流石に一時間に一本はダメだと思わない? お昼の時間に関しては二時間に一本だし」



 それに関しては僕も同意見だ。

 利用者が少ないとは言え、二時間に一本は不便極まりない。

 でも、それが田舎なのだ。


 その環境で育ったから、今更なんとも思わない。

 僕からすれば都会の電車やバスの本数の方が異常だと思う。



「不便だと思うけど、これが普通だからね。逆にこんな田舎で都会と同じ頻度で交通機関が動けば貸し切り状態を何度も経験することになるかも」

 


「確かに……。都会は都会だし、田舎は田舎って事か」



 ナズナは時刻表から離れると、僕が座っているベンチに腰をかけた。

 ふわっと香る洗剤の匂い。

 

 これはナズナの匂いだ。

 何度もナズナと会っている僕はナズナの匂いを覚えた。


 なんだか変態のようだが、覚えてしまったのだからしょうがない。

 香りは記憶に残るのだ。


 最初の頃はドキドキしていたが、今ではその香りを嗅ぐと落ち着くようになった。

 ナズナが隣にいる。その事実を証明してくれるから。



「お、やっとバスが来たね」



 駅に面している大通りに僕達が乗るバスが見えた。

 僕とナズナは忘れ物がないか確認すると、バスに乗るために利用者が並ぶ列に立ち、バスが来るのを待ち、そして乗車した。


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