二人でおでかけ
土曜日。
天気は雲一つない晴天……。だったらどれだけ良かったことか……。
ナズナとの集合場所であるいつものあぜ道に向かいながら。僕は曇天の空を見てうなだれる。
降水確率は低いものの、この空を覆っている灰色の雲を見るとどうしても気分が上がらない。
比較的過ごしやすい気候なのは間違いないのだが、なんともまぁ微妙な天候である。
僕は高校入学時にお祝いとして父親に買ってもらった腕時計で時間を確認する。
10時15分。
約束の時間は10時30分なので、あと15分ほどで約束の時間だ。
急く気持ちを抑えて、一定のペースで向かった。
約束場所であるあぜ道に着くと、いつものようにナズナはあぜ道で座っていた。
僕はじっと住宅地を眺めているナズナに驚かせない程度の声量で話しかける。
するとナズナは振り振り向くと「早いね〜」と軽い感じで返してきた。
「ナズナの方が早いじゃん。僕がここに来るとき、いつも先にいるよね?」
そうなのだ。
僕がこのあぜ道に来ると必ずナズナはそこにいる。
そしてそれはきっと僕がいないときもナズナはこのあぜ道にいるだろう。
なぜナズナがこの場所にいるのかを僕は知らない。
何もなければ景色も格別良い訳でもない。あるのは一面の田んぼと岩肌が露出している山。
自然豊かと表現するのならば聞こえは良いが、毎日。平日も休日も関係なく通う場所では決してない。
それも女子高生が、だ。
何かと不明な点が多いナズナであるが、僕もここ一か月通っているわけだから人のことを言えないのかもしれない。
第三者が見たら、ただの不審な訳だし。
「んー、特にすることがないからね」
ナズナはそう言いながら立ち上がる。
この前は白いTシャツに黒いスキニーとシンプルな恰好をしていた彼女だったが、今日は少し雰囲気を変えていた。
淡い水色のロングスカートにこの前とは違う可愛らしいデザインの白いTシャツ。そしてひときわ目立つのは胸元に輝いている緑の石がはめ込まれているネックレス。
アクセサリーに詳しくないので分からないが、とにかく綺麗なネックレスをナズナはかけていた。
この前の服装をクールとするのならば、今日の装いは可愛らしいと表現することができるだろう。
つい普段の雰囲気とのギャップに見惚れてしまう。
そして、そのことを自覚する頃にはすでに手遅れで、ナズナは僕の顔をニヤニヤと見ていた。
「相変わらずだね。キミは。考えていることを当てようか?」
「いや……。ごめん」
僕は早々に戦うことを拒否する。
ナズナとこの土俵で戦うのは、ただ一方的に辱められるだけだ。
これは負けではない。戦略的撤退なんだ。
「そっか。残念。それじゃ、そろそろ行こうよ。ここからだから、電車に乗ってそれからバスかな?」
僕の撤退に対し、ドライに返事をするとナズナは駅がある方向へと歩いて行く。
ちょっと悔しいが、どんどんと歩いて行くナズナに追いつくために僕は少し早歩きで後を追う。
そしてナズナに追いついた僕はナズナの数歩後ろに付くと、僕とナズナの二人は駅まで歩いて行くのだった。
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