断られた理由


 断られたのか……。

 ナズナの言葉を理解するまでに少しの時間を有した。

 そして訪れる現実。

 

 まぁ、そうだよね……。あんな誘い方じゃダメだよね。それに僕なんかがナズナと釣り合うけなかったんだ。


 これからナズナとは気まずくなっちゃうのかな?


 僕はほとんど止まっている脳みそをフル回転して、なんとかリカバリーできないか考える。

 しかしどれだけ考えても僕のやらかしを打開することができる言い訳を閃くことはなかった。


 ああ、ダメだ……。

 自分の浅はかさ、そしてアドリブ力の無さを悔いる。

 

 これはナズナを元気付けるため、だから誘った。彼女が必要ないのならば何も問題はない。

 そんな風に頭では強がってみるも、心は虚勢を張れなかった。


 僕はナズナと遊びに行きたかったんだ……。

 

 

 自然と姿勢は猫背になり、視線は下がり俯く、そして肩は大きく落ちていった。

 文字通りの意気消沈である。


 でも、今ここで逃げちゃダメだ。

 そう自分に言い聞かせて、先ほどから僕同様に俯いているナズナに声をかける。


 

「わ、分かったよ。急に……ごめん」



 自分の心の弱さに呆れる。

 なんで誘いを断られただけで、言葉に詰まってしまうのか……。これじゃ、ナズナに申し訳ない。



「私こそごめん……。でも、違うの。違うからね。キミが悪いんじゃなくて、私が……」



 そう言いながら、さらに俯くナズナ。



「そんなことないよ! 僕が急に誘ったから……。ごめん!」



「違う! 私が悪いの。本当にごめんなさい」


 

 二人して謝罪を繰り返す。

 なんでこんなあぜ道で二人俯いて謝罪しあっているのか……。

 そんな客観的な考えをできるようになったのはお互いに何度も何度も謝罪しあってからだった。


 そしてそんな謝罪合戦を終わらせたのは、どちらかではなく、ほぼ同時だった。



「「ふふ。はははは!」」



 僕とナズナはお互いに笑いあう。

 これを第三者が見ていたら何かのコントをしていると思われるかもしれない。

 それくらい滑稽な姿だった。



「私たち何しているんだろうね」



「うん。本当にそうだよ」



 いつものあぜ道で、いつもの雰囲気が戻って来た。

 血の気が引いていた体には血が巡り、猫背になっていた姿勢はいつも通りに、そして視線はナズナの顔に向かっていく。



「それで……ね。なんか上から目線かなって思うんだけど、勘違いさせると申し訳ないから言っておくね。私は別にキミと遊びに行くことが嫌って訳じゃないの……」



 ナズナは先ほどまで涙を溜めていた目元を袖で擦ると、僕の目をしっかりと見つめて、そして言葉を紡ぎ始めた。



「あのね……。今回誘ってくれたのは私を元気付けるため……だよね? 昨日あんな態度を取っちゃったから。だから……ね。もしも今回誘いに乗って遊びに行ったとしたら……。なんか申し訳ないなって思って。なんかフェアじゃないし、何よりもそれはキミの優しさに付けこむみたいで嫌だったんだ。昨日は――して、それだけに飽き足らず――ちゃったし」



 ナズナの声がどんどん小さくなっていく。

 最後に至っては何を言っているのか聞き取ることができなかった。


 しかしナズナが抱く感情、そして僕からの誘いに嫌悪を示した訳ではないということが分かって、僕の心はどん底から復活する。

 良かった……。嫌われた訳じゃなかったんだ。



「だから……本当にごめんなさい。本当に私って――」



「それ以上はダメだよ」



 なんだかまたナズナが良くないことを言いそうだと思ったので、僕はその言葉を止める。

 言葉というのは言霊だ。


 言葉は思考、行動、人格。全てにおいて影響するものだ。だからマイナスなことをずっと言っていると本当にマイナスになってしまう。

 そうじいちゃんが言っていたし、たぶんそれは本当のことだ。



「ナズナは優しいし、そんなに自分を落としちゃだめだよ。それに……あれだよ……」



 相変わらず僕のアドリブ力は低いままだが、勢いでなんとか言葉を続ける。

 

 その失敗はつい先ほどしたばかりなのに……。



「僕はナズナと遊びに行きたいんだよ!」


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