桜が嫌い……?
それにしても一体なんだったんだろう……。
僕は自室のベッドに仰向けになりながら、今日のことを思い返す。
ナズナのあの様子。
それに「私は桜が嫌い。大嫌いなんだ」この言葉の意味が分からない。
文字通りの意味なのか、比喩表現なのか。それすらも分からない。
分からないことだらけなのだ。
ただ一つ分かることは、あの時ナズナは薄っすら泣いていたことだけ。
その後はいつものナズナに戻ってはいたが、確かにあの時ナズナは泣いていたのだ。
何かしてしまったのではないかと自分の行動を思い出すが、一つも思い当たらない。
桜が嫌い。大嫌い。
サクラ……。何かの比喩? それとも……。
どれだけ考えても答えが出ない……。
前々から思っていたことだが、僕はナズナのことを何も知らないのだ。
もちろん会話の中で出た破片を集めて、ある程度の人柄は分かっているつもりだ。
しかし、もう一歩。そう、本当にもう一歩のところに踏み込めていないんだ。
家族でもなければ恋人でもない。
ただの友人が何を言っているのだと言われるかもしれないが、僕にとってナズナはもう他人ではない。
いつも優しげな笑みを浮かべ、話しを聞いてくれるナズナ。
僕のことをおちょくりながら楽しそうにしているナズナ。
さりげなく気遣ってくれるナズナ。
僕にとってナズナ。そしてあのあぜ道は特別なのだ。
よし――。
僕は明日の行動を決めると、小さな覚悟をすると部屋の電気を消して眠りについたのだった。
翌日。
授業を終えた僕はすぐに教室を出て、いつものあぜ道へと向かう。
ソワソワと落ち着かないまま電車に乗って、最寄り駅からは自転車をいつもの五割り増しでこいだ。
頭にあるにあるのは今日、そしてこれからの行動。
人生で初めてする”それ”は僕みたいな高校生には中々に難易度の高いものだ。
しかし、やらなくてはいけない。
その行動が元気付けるには繋がらないかもしれない。
でも僕にできることと言えばそれくらいなんだ。
僕は周りの景色を見ることなく一心不乱に自転車をこぐと、いつものあぜ道にはいつものように一つの陰があった。
何度も見たその姿に僕はほっと一息。
昨日のことがあったからもう来ないかも。と心配していたからだ。
僕はいつもの場所に自転車を停めて、早歩きのその陰へ歩いて行くとその陰はゆっくりと振り向いた。
「え、えっと。どうしたの? そんな汗だくで」
ナズナは振り向くと、驚き――いや若干引き気味な様子で僕を見る。
ワイシャツはところどころ汗で透けているし、顔や髪の毛は濡れているのだからその反応は的確だろう。
しかしそんなことに構っていられるほどの余裕は今の僕には無い。
どうやって誘えば良いんだろう?
断られたらどうしよう?
迷惑ではないかな?
そんな思考が頭の中をぐるぐると回る。
ここで行動を起こさずにいることは簡単なことだ。
怪しまれるかもしれないけど、適当に言い訳をして、そのままいつものように話す。
今まで何回もやってきたことだ。
でも……。
僕は昨日、ナズナが薄っすら目に涙を溜めている姿を思い出す。
覚悟を決めたのだろう。
そう自分に言い聞かせて、僕は困惑している様子のナズナに対して一言。たった一言投げかけた。
「あ、遊びに行こう!」
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