昼食は二人で


「それで、キミが買ってきたものは大丈夫なの? この暑さだから悪くなっちゃうんじゃない?」



 僕が反省していると、ナズナは僕の足元にあるコンビニの袋に目を向けていた。

 完全に忘れてた。

 


 慌てて袋を開け、中に入っていた弁当を見る。

 まだそこまで時間が経過した訳ではないから大丈夫だろうけど、ナズナが教えてくれなかったから危なかっただろう

 

 さて、どうしよう。

 ナズナが弁当の存在を気付かせてくれたおかげで、空腹だったということを思い出したわけだけど、ナズナとの時間を終わらせて今から帰ってご飯を食べるというのはしたくない。

 でも、ここで一人食事をするっていうのも違うだろう。


 僕がじっと弁当を見て、考え込んでいると隣からクスクスと笑い声が聞こえてきた。

 隣を見なくてもどんな状況なのか分かってしまうのが悔しい。


「キミは優しいね。私に気を使わなくていいよ。悪くなる前に食べた方が良いと思う」


 当たり前に僕の思考を読まれているのは非常に遺憾なことだが、彼女はなんだかんだ言って結構気を使ってくれる性格だ。

 ここは彼女に甘えるべきだろうか?


 僕はナズナの方を見る。

 すると案の定、静かに笑いを堪えているナズナの姿。

 本当に良い性格をしているよね。


 しかし、僕だけ一人食べるのはナズナが承諾してくれたとは言え、良くないことだろう。


 僕は袋から弁当を取り出し膝に乗せると、なんとなくで買った肉まんをナズナに手渡す。


「はい、これ」



「え? いらないよ! それはキミが買ってきたものだし、私そこまでお腹空いてない」



 手を振り、遠慮の姿勢を見せるナズナ。


 

「お昼はまだでしょ? それにこんなに暑いんだからしっかり食べておかないと危ないと思う」


 僕はぐっと、無理やり手渡すと遠慮しても無駄だと分かったのだろう。

 ありがとう。と遠慮気味にお礼を言って肉まんを受け取るナズナ。


 穏やか――いや、猛暑日の中、始まった唐突な食事会。


 正直僕が弁当で、ナズナがホットスナックというのは少し後ろめたさがあるが、弁当と肉まんを交換したとすればナズナは全力で拒否するだろう。

 だから肉まんを受け取ってくれただけ良かったと思うべきだ。



 僕は袋から割り箸を取り出し、一口食べる。

 温めていないので、弁当のポテンシャルを十分引き出せてはいないのだが、外で食べているからなのか、それともナズナと一緒だからか分からないがとても美味しく感じられた。


 そして僕が食べるのを待っていたのだろう。ナズナも小さな口で少しずつ食べ始める。

 まだ遠慮が残っているか、ずいぶんとゆっくりだが、食べてくれただけで僕は嬉しい気持ちになった。


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