猛暑の中、駐車場の木の下で
ナズナと会ってから半時。太陽が照り付ける中、僕とナズナはあぜ道から見える小さな山の麓にある木の下に並んで座っていた。
その場所は僕たちがいる山の頂上にあるお寺の駐車場のような場所で、たまに車が停まっていたりするのだが、今日この時は車が停まっていなかったので利用させてもらっている。
なぜ僕たちがこんなところにいるのか?
その理由は至極簡単。
単純に暑いからだ。
僕たちが普段顔を合わせているのは言わずもがなあぜ道である。
そしてそのあぜ道の付近には建物という建物はない。
強いてあげるとすれば、遠くに見える住宅地くらいのもので、この炎天下の中で直射日光というのは熱中症の危険があったのだ。
そんな理由で僕とナズナはあぜ道から見える手軽な日陰としてこの駐車場まで来たというのが今の僕たちの状況。
「それにしてもここは静かだね」
ナズナはあのあぜ道の方をゆっくりと見渡して口を開く。
「そうだね。木の陰のおかげで暑くないし、風も気持ち良い」
そう言った僕に対して、ナズナは風でなびく髪を手で押さえて頷くと、体をそらし空――いや、頭上のソメイヨソノを仰ぎ見る。そして一呼吸の静寂の後にコチラを見た。
「キミと初めて会ったのは桜がほぼ満開の時だから、もう一か月くらい経ったんだね」
「それくらい経ったかな。あの時は田んぼに苗すら植えてなかったし、何よりもこんなに暑くなかった」
「確かに。それにしても今日は暑いね。もう夏って言っても良いんじゃないかな」
そんなことを言いながら胸元をパタパタと仰ぐナズナ。
本当にやめて欲しい……。
僕はできるだけ気にしないようにしながら会話を続ける。
「うん。今日は30度に近いみたいだし。もしこれでセミが鳴いてたら完全に夏だね」
「明日辺り、セミがこの天気に夏だと勘違いして出てくるかもしてないよ」
と冗談を言いながらいつも通り内容の無い会話をする。
この時間がずっと続けば良いな。なんて恋愛をテーマにしているバラードのようなフレーズが自然と脳内によぎった僕は、ブンブンと頭を振り、そのフレーズを飛ばす。
本当にナズナと居ると雰囲気に呑まれちゃうな。
何度も言うが、僕はナズナのことを恋愛対象としては見ていない。
もちろん容姿は優れていると思うし、性格も良い。話しているだけで、バラードのようなフレーズが出てきてしまうくらいには、ナズナのことを良く思っている。
しかしそれは恋愛的な好意かと問われればNOと答えるだろう。
まず、僕と彼女の関係は友人。そして何よりも、ナズナと僕では完全に釣り合わないのだ。悲しいことだとは思うけど。
僕は学校でボッチのコミュ障。
それに対して、ナズナは容姿は綺麗だし、ノリも良いから学校では人気者……だと思う。 ナズナの学校での生活を聞いたことがないから確定ではないが、きっと人気者だろう。
なぜいつもあぜ道にいるのかは分からないけど、まずもって、僕とナズナでは大きな違いがある。
だから僕はできるだけそういう思考にならないようにしているのだ。
そうでもしないと呑まれちゃって、後戻りできなくなるから。
僕はそんなガラもないことへの思考をやめるため、先ほどナズナがしたように頭上に広がるソメイヨシノを仰ぐ。
ピンクの花は既に落ち、もうそこらの木々と変わらない見た目をしている桜の木、そして雲一つない青空。
ああ、穏やかだ……。
そんな風に心を落ち着かせること数秒。
僕は隣から視線を向けられていることに気付く。
またやってしまった……。
「やっと戻ってきたかな?」
僕が思考の航海から帰って来るのを見計らっていたのだろう。
ナズナはニヤニヤとした笑みを浮かべ、コチラを見ていた。
「相変わらず、凄い集中力だね」
「ご、ごめん!」
僕は素直に頭を下げる。
するとナズナは「良いよ。もう慣れたし」と笑いながら許してくれる。
きっと学校で一人だから、自分の世界に入ってしまうのが普通になってしまっているのだろう。
ますます友人ができにくい性格になっちゃったな。
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