夏日とコンビニ


 近頃の日本の四季はどうやらバグっているらしい。


 昔を知らないから断定はできないが、春そして夏は気温が上がっていると言うし、逆に秋と冬は寒くなっているとニュースでやっていた。

 

 それは地球温暖化のせいなのか、それとも他の要因があるのか。そんなこと普通の高校生には分からない問題なのだが、体感的には地球はおかしくなっているのではないかと思っている。


 だってだよね? 五月ももう中頃なのに、半袖、短パンで生活を余儀なくされるっていうのはおかしいと思わない?

 

 僕は日差しが照り付ける中、家から自転車をこいで十分ほどのところにあるコンビニに向かいながらその不満をペダルへとぶつけていた。

 

 体に容赦なく降り注ぐ日光、そしてその日光によって熱くなっている風、そして夏を思わせる晴天。

 これでセミでも鳴いていたら完全に夏だ。


 そんな猛暑の中、僕はただただ心の中で愚痴をこぼしながら、田舎の広い道を進んで行く。



 今日は日曜日。

 学生の身であり、部活動に所属してなければバイトもしていない僕はゲームと漫画を享受するという予定を立てていた。


 普通の学生ならばこの貴重な高校生活をもっと有意義に使うかもしれないが、生憎なことにその時間を共有してくれる友人はいない。

 

 なんとも寂しいことではあるが、それも慣れてしまうと普通のことになってしまうのだから人間の環境適応力は凄まじいものである。


 そんなこんなで僕はほんの数分前まで自室で一人遊びを楽しんでいた訳なのだが、なぜ今こうしてわざわざ日光が降り注ぐ中、自転車をこいでいるのか? その答えは簡単だ。


 空腹に耐えられなかったから。


 至ってシンプルな理由だが、シンプルだからこそ回避することができない問題だ。

 いつもならば母親が昼食を作ってくれたり、父親が何かをテイクアウトしてくれるという我ながら両親に頼りっぱなしの生活を送っているのだが、今日は両親が親戚の家に行っているのでその力添えを得ることができなかった。 


 だから僕はこうして、炎天下の中食料を求めてコンビニへと向かっているのだ。


 

 もしもこれが都会であったならば徒歩圏内にコンビニや飲食店があると思うのだが、ここは田舎も田舎。一番近いお店が自転車で十分かかるというのはなんとも不便な立地に居を構えている。


 田舎に産まれてしまったことを恨むべきなのか、それともこの町が発展しないことを恨むべきなのかは分からないが、とりあえず僕は今の状況を恨むことにする。

 なぜ、日曜日に外に出てこんな思いをしなくてはいけないんだ……と。



 そうして今の状況に文句を垂れ流すことしばし、緑の看板のコンビニに着いた僕は自転車を停めて店内に入る。


 自動ドアを抜けるとヒンヤリとした人工的な風を肌で感じた。まだ五月というのに、クーラーを入れてくれていたコンビニに感謝しながら店内を物色。適当にお弁当、そしてホットスナックの棚に並べられていた肉まんを購入した。


 僕の胃袋はお弁当一個で充分お腹いっぱいになるのだが、なんとなくお弁当とセットでホットスナックを買ってしまうのは僕だけではないだろう。



 自転車の籠にお弁当を平行に乗せると、僕は自転車に跨る。

 まだお昼過ぎなのでまだ涼しくはなっていないが、コンビニで休むことができたからなのか、来るときよりも少し元気な状態で自転車のペダルを踏み込むと家路に着く。

 

 僕はふと自転車をこぎながら天を仰ぐ。

 雲一つない青空を背景に正面にそびえ立つ大きな山。その麓には淡いピンクの花を落とし、緑の葉っぱを生やしているソメイヨシノがあった。

 


 ソメイヨシノを見ては思い出す、ナズナとの時間。



 あれから僕は度々あのあぜ道に寄ってはナズナと会って話していた。

 別に大きな理由があるわけではないが、なんとなく習慣になってしまっているのだ。

 

 なぜナズナは何もないあのあぜ道にいるのかは今でも分からないが、僕が行くと必ずナズナはその場所にいた。

 特に何をするわけでもなく、ただそこにいる。



 その理由を知りたいと何度も思ったが、聞き出すタイミングも無ければ、ナズナ自身も話す気もない様子だ。

 

 話したくないのであれば、聞き出すこともない。

 なんて紳士的な対応を表面的にしている僕だが、きっとナズナは僕が疑問に思っていることくらい分かっているだろう。

 彼女曰く、僕は分かりやすいから。



 それでも話さないのは大きな理由があるのか、それともわざわざ話す意味すらないくらい小さな理由なのか。

 


 何はともあれ、僕はまだナズナのことを何も知らないでいた。

 名前と年齢。それくらいしかナズナの素性を知らないのだ。


 どこに住んでいるのか、中学校はどこだったのか、いままでどんな人生を歩んできたのか。


 何も知らない。


 少し寂しい気がするがこれ以上踏み込むなという空気が漂っているようで僕は進むことができないでいるのだ。



 一体彼女は……。



 僕はそんなナズナのことを考えながら自転車を進めるのだった。


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