再開は何もないあぜ道で


「あ、昨日ぶりだね。今日はどうしたの? また歩き……じゃないね。私に何か用事でもあった?」



 ナズナは僕の姿、そして今日の早朝に親父が直してくれた自転車を見て首をかしげていた。


 

 昨日と同じあぜ道で、彼女は変わらず田んぼ。そして山を見ていた。


 なぜこんなところにいるのかは分からないが、何故か今日もここにいる。そう個人的願望を持って僕はあぜ道に来てしまったのだ。そして事実、彼女はそこにいる。


 彼女のことを好いているわけでもなければ、友人という訳でもない。しかし僕は彼女と話すためにわざわざ遠回りして昨日のあぜ道を訪れた。


 ストーカー行為と言われても仕方無いただの寄行だ。



「いや、なんというか、暇だったから少し遠回りでもしようかなって。それにここなら桜がゆっくり見れると思ってさ。そろそろ散っちゃうし」



 なんとも言い訳臭い。しかしそれ以外に理由を見つけられなかった僕はこう言うしかなかった。


 それに対してナズナは「何それ」と微笑みを浮かべる。

 時間を潰していたのだろう。スマホを操作していた手を止め、バックに入れるとゆっくりとした動作で桜が咲く山の麓を見た。

 


「そうだね。今が満開だから、あと数日で葉桜になるかな。キミはもう花見はした?」



「まだ……。去年は中学の頃の友達としたけど、今年は無し。みんな忙しそうだし」



「そっか。私も今年は無しかな。――もしここで桜を見ることが花見だとしたら毎日花見していることになるんだけどね~」



 頬を掻きながら言うナズナ。

 ナズナほど容姿に優れ、話し易い性格ならば花見の予定の一つでもありそうだが、そんなこともないらしい。それに毎日……? 昨日も言っていたことだが、ナズナは毎日何もないこんなあぜ道にいるのだろうか? だとしたら何故?


 僕が思考の渦に巻き込まれて、だんまりしているとその姿を見たナズナは小さく吹き出すように笑うと、言葉を紡ぐ。



「キミが今、何を考えているか当ててあげようか? なんでこんなところで一人でいるんだろう? かな? 当たってる?」



 完璧に思考を読まれた僕はフリーズする。

 自分でも読みやすい表情をしていたと思うが、面と向かって思考を的中させられると焦ってしまうものだ。


 分かりやすいくらいに動揺する僕を尻目に、ナズナは大笑い、いや爆笑とも取れる笑いを見せた。

 

 そして一頻り笑うと、軽く息を整え僕に言う。



「キミは正直者だね。ポーカーとか弱いでしょ?」



 僕は恥ずかしくなり、顔を背ける。そしてその間も笑うナズナ。

 どうやら彼女はSっ気があるらしい。僕の困っている姿を楽しそうに見ていた。



 僕は負けを認めることにする。何を置いて勝負しているか分からないが、このまま彼女のペースに持ち込まれていては話しは進まないし、何よりも恥ずかしい。



「うるさいな! そうだよ、正解。だからいい加減、笑うのはやめて」



「ごめん、ごめん。つい、キミが弄りやすくて。それでキミの疑問だけど、そうだな――。昨日も言ったと思うけど、強いて言うならば、私は雑草で、ここに産まれたからかな。ほら、雑草……いや、植物も動物も――生きているものって産まれる場所を選べないでしょ? そういうことだよ」



 先ほどまで楽しそうに僕をからかっていたナズナは表情を変えて、まるで心の中身を取り除いてしまったかのような。そんな目で僕の疑問に答えた。

 そしてナズナの返答に対して、僕の頭には疑問符が数個浮かぶ。


 昨日も言っていたことだが、雑草? それは何かの比喩なのか、それとも言葉通り、植物の雑草のことなのか。僕はその言葉の意味を読み取ることはできない。



 しかしナズナが言った雑草は何か深い意味があることだけは理解することができた。

 そしてそれと同時に、これ以上の詮索はするな。そう言っているようにも思えた僕は、できるだけ表情を変えることなく、真顔で短く、理解したふりをするのだった。



 誰でも意図が分かってしまうほどの表情を添えて「そ、そっか」と。

 

 そしてそんな僕を見てナズナはまた笑ったのだった。


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