自室で思い返すあぜ道での出来事


 今日は濃密な一日だった……。

 僕は今日あったことを自室の天井を見ながら振り返っていた。


 朝に自転車がパンクして歩いて登校し遅刻したこと。

 クラスメイトが放課後の時間を享受している中一人で帰ったこと。

 気分を変えようと遠回りして歩き疲れてしまったこと。

 そして何よりも、ナズナと会ったこと。


 同学年と会話したのはいつぶりだっただろうか……。


 少なくとも春休み中は話していない。終業式が終わった後にクラス全体で行った打ち上げのような催しの時が最後だった気がする。

 

 僕は自分が寝転んでいるベットの足元に枕を置き、足の位置を上げられるようにセッティング。


足を上げて寝るというのはリンパや血液の流れが良くなり、むくみ解消に良いというニュースを見た覚えがあるからだ。


 無音の部屋で唯一、一定の間隔で音をカチカチと鳴らしている置時計の針の音でのんびりとした時間の流れを感じる。


 普段の僕ならこんな何の変化もない時間は嫌いなのだが、今日はこのゆっくりとした時間に身を委ねるのも良いかもしれない。


 天井の染みの数を数える。なんて酔狂な真似をし始める頃には僕の瞼はゆっくりと下がって来て、瞼は瞬きという仕事を終えようとする。


 一日で何百回、何千回、何万回もするのだ。そろそろ休ませてあげなくてはいけない。





 そこでふと、僕は気になる。


 人間は一日何回、瞬きをするのだろう?



 正直どうでも良い疑問ではあるのだが、何か気になったら知りたくなるのが人間の性である。


 都合よくベットの上には人類の技術力が詰め込まれているスマートフォンが転がっている。

 良い時代に産まれたものだ。


 僕はスマホの検索エンジンで瞬きの数を調べる。

 

 意外にも多くの記事が出てきて、それを吟味すること数分。


 15000回から20000回くらいなんだと自己完結する頃には僕の瞼は活動を再開して、睡魔というものは消え去ってしまっていた。


 

 体の向きを変えると、数分前の僕に文句を言う。なんで眠らせてくれなかったんだ。と。


 同じ経験をしたことがある人は数多くいると思うが、微睡の状態から一気に覚醒すると眠れなくなってしまうものなのだろう。



 僕は瞬きの回数を書いていた記事からホーム画面に戻るとスマホの写真フォルダーに飛んだ。

 スマホに映し出されるのは、今日撮った写真の数々。


 山の麓で綺麗に咲くソメイヨシノと、綺麗な青空。

 地面の上で踊るようにしていた名も知らないような雑草たち。


 同学年の都会っ子はタオピオカやら、なんか良く分からないカラフルな食べ物を写真で取ってSNSに投稿しているようだが田舎産まれ、田舎育ちの僕には自然の風景を撮るくらいしかできない。


 別に羨ましいなんてことはないが、遅れているとは思う。


 都会育ちというのは田舎者からしてみればキラキラしている存在で、まるで別世界の住民のような感覚なのだ。


 ただ産まれた場所、育った場所が違うだけで同じ人間のはずなのだが、何か違う生き物なのではないかという錯覚を覚えることも少なくない。



 なんてことを考えていると、頭の中で情報が物凄いスピードで流れ始めた。


 これはまずいという風に感じたときには既に手遅れである。思考の海への出航手続きは済んでしまったのだ。


 

 僕はスマホで時間を確認すると、そこには夜更かしと言っても差し支えない時間が表示されていた。



 終わった……。



 何が楽しくて、瞼の数を調べたのだろうか……。そしてなんで僕は写真なんか見てしまったのだろうか……。


 また遅刻するかも。なんてマイナスな思考が生まれてしまったことでさらに冴えてしまう悪循環。



 僕はスマホを手にしたまま立ち上がり、電気紐を引っ張った。そして暗くなったことを確認すると再度寝っ転がり、スマホに映されたままだった雑草の写真を開いた状態でスマホの電源ボタンを押すとギュッと目を瞑り睡眠に備えた。



「私は”雑草”みたいなもの……か」



 冴えてしまった頭に最後に浮かんだのはナズナが言っていた言葉。その意図は分からないが、しっかりと僕の記憶に残っている。


 僕は睡魔が来るまでの間。ナズナの言っていた言葉の意味を考え続けていたのだった。 


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