最終話 こちら王立魔道具開発研究所

「納得できませんっ!!」


 狭い室内に大きな声が響き渡る。

 ロイの大きな声を真正面から食らってしまった大臣は、耳を押さえながら(そろそろ窓ガラス割れそうだな……)と考える。


「なぜ魔具研の予算がまた上がっているのですか!? 飛竜渡りの騎士団の装備は損壊、その修理にお金が必要だというのに!」

「……その事件の時、魔具研は活躍したでろう? でも国としてはその功績は騎士団のものにしたい。なので予算を増やす代わりにその事を他言しないよう頼んだのだよ。君としても騎士団の評判を落としたくないだろう?」


 痛い所を突かれたロイは動揺する。

 自分がミスをしたことを責められる覚悟は出来ていたが、騎士団全員の評判が落ちるのは避けたかった。特に自分の命令を忠実にこなしてくれた部下に火の粉が降りかかるのだけは何としても防ぎたかった。


「仕方がない。こうなったらまた直談判してくるしかないな」

「ロイ殿、あまり揉め事は……」


 おろおろと狼狽える大臣。

 そんな彼にロイは「ふっ」とおかしそうに笑い、言った。


「大丈夫。仲間にひどい真似はしないさ」


◇ ◇ ◇


 何度目になるだろうか。

 私は今、魔具研の事務所に通じる道を歩いていてる。


「もしかして私は魔具研の職員の次くらいにこの道を通っているんじゃないか?」


 魔具研に足を運ぶ人は少ない。となると必然的に私は上位に名を連ねることになってしまう。

 抗議しに行ってるだけだというのに仲が良いと思われてそうだ。


「それも全て奴らが予算を食い潰してるのが悪……ん?」


 ぶつぶつと喋りながら歩いていると、前方から一人の人物が歩いてくる。

 それは少し前に背中を合わせて共に戦った青年、ザックだった。彼は私に気がつくと顔をパッと明るくさせ、嬉しそうに小走りで近づいて来る。

 なんだろう。実家で飼っている大型犬を思い出すな。


「おはようございますロイさん! どうされたんですか?」

「ああおはよう。少し魔具研に用があってな。所長は事務所にいるか?」

「はい! 事務所でゆっくりしてると思いますよ!」


 私は彼と話しながら辺りを伺う。

 そして誰もいないことを確認すると、とある話を切り出す。


「ところで君……まだ、騎士になりたい気持ちはあるか?」

「――――へ?」


 心底驚いた顔をするザック。

 こんな話を急にされたら驚くのも無理はない。


「一次試験で落としておいて、今更何を虫のいい話をと思うかもしれない。その件は本当に申し訳なかったと思っている」


 きっと彼の他にも能力を正しく評価されなかった人もいるんだろう。

 過去は変えられないが……未来は変えられる。


「私はこれから試験を抜本的に見直すつもりだ。ちゃんと適性ある者を見極めることができるように、な。だからどうだ、君が望むなら騎士団に入れるよう便宜を図る。騎士団が変わるその一歩目としてな」


 そう提案すると、ザックは目を閉じ熟考する。

 しばらくして何かを決意した顔になった彼は、私の目をしっかりと見据え、口を開く。


「とても嬉しい提案だけど……お断りさせて頂きます」

「……理由を聞いても?」

「はい。正直騎士団への憧れは今もあります。だけど、今俺は十分に幸せなんです。職場の人にも恵まれてるし、頼ってもらえることも増えてきました。毎日新しいことも知れるし、成長してるのを自分でも感じます。俺はこんな幸せにしてくれた魔具研に、恩返しがしたい。だからそれが終わるまで他の所には行けません」

「そう……か」


 ザックの顔に迷いはなかった。

 ならばこれ以上呼び止めるのは野暮というものだな。


「騎士道を進むのに騎士である必要はない。君ならきっと自分なりの騎士道を見つけられるだろう」

「……!! ありがとうございます!!」


 頭を下げるザックの肩を軽く叩き、私は進む。

 王国の未来は明るい。そう私は確信したのだった。



◇ ◇ ◇



 それから数日後……。

 魔具研の事務所にある男は一人、姿を現した。


「あの……誰かいますか?」


 おどおどした様子で入ってくる男。

 魔具研の事務所の中は静かで人がいるようには見えなかった。


「いない、のかな……?」

「どうしましたか?」

「うひぃ!?」


 突然近くから発せられた声に驚き、男は飛び退く。

 見ればいつの間にか男の側には一人の女性がいた。ダウナーな感じの、落ち着いたお姉さんという感じだ。派手で目立つ感じではないが、よく見れば整った顔をしている。


「あの、あなたは?」

「私はここ魔具研の事務員をしている者です。どういったご用件ですか?」

「実は少し困った事件が起こりまして……他の所に相談に行ったんですけどどこもまともに取り合ってくれないんです」


 冒険者組合や騎士団に話を持って行った男だが、彼の話はどこでも信じて貰うことが出来ず、門前払いを食らっていた。


 そんな折、彼は耳にしたのだ。

 どんな変わった依頼も受けてくれる魔具研の存在を。


「なるほど、でしたらここを訪れたのは正解です。ちょうど今職員たちは新しい爆弾の実験途中ですので呼んできますね」

「ば、爆弾!? 大丈夫なんですかここの人たちは!?」


 物騒な言葉に男はたじろぐ。

 やはりここに来たのは間違いだったんじゃ、と後悔し始める彼に、女性は「くす」と笑みを浮かべながら言った。


「確かにここの人たちは騎士たちにも馬鹿にされてる魔道具オタクたちですが、意外とやる時はやるらしいですよ?」


 事件の絶えない王都。

 今日も彼らはおかしく楽しく騒がしく、そして人知れず事件を解決していくのだった。

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こちら王立魔道具開発研究所 〜騎士達に馬鹿にされてる魔道具オタクたちですが、意外とやる時はやるらしいですよ?〜 熊乃げん骨 @chanken

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