最終話 元補佐官である俺の嫁は元艦長

「でも本当に驚きましたよ……。でも2人の姿を見たらすぐ分かりますよ。すごい幸せそうです」


「ティナは自慢の嫁さんだからな! 幸せなのは当然だ!」


「ヴァ、ヴァル!?」


「あらあら、ヴァレンティナさん顔赤くなっちゃってますよ。先輩も隅に置けないですねぇ」


 あ……。

俺はエミリアにそう言われて今気づいた。

凄いことを口にして、しかもかなりはっきりと言ってしまった。

俺の顔もどんどん熱くなっていった。


「あらあら、先輩も顔赤くしちゃって。もうラブラブじゃないですか! 良いですねぇ、エミリアもそんな恋愛してみたいですよ」


「エ、エミリアは恋愛したことないのか?」


「いや、ありますよ。でも失恋しちゃったんですよ。先輩に」


「そうだったのか――――って俺!?」


 いきなり衝撃的な発言を聞いて驚く。

今日は随分と色んな感情が出てくるな……。


「そうですよ。でも今の先輩見たら、あの時告白しなくても良かったって思ってます」


「えっ、どうしてだ?」


「うーん……勘です!」


「か、勘か……」


 具体的な理由が聞けると思ったら違った。

でも、エミリアだからな思うと何故か納得してしまった。

だって、エミリアはほぼ勘で行動しているようなもんだからな。


「おいおい補佐官、お前何やって……ヴァ、ヴァルとヴァレンティナか!?」


「お久しぶりですリアム教官――――いや、リアム艦長」


「久しぶり、リアム!」


 エミリアの後ろから俺たちに歩み寄ってきたもう一人の人物――――それは俺の師匠で、現艦長のリアム・シャクイ艦長だ。

ティナの後継として艦長という称号を彼が引き継いだ。


「2人ともすごい久しぶりだな! そういえばそうだったな、2人は結婚したんだもんな。改めておめでとう!」


「ありがとうございますリアム艦長」


「その艦長って言うのやめてくれ……。お前が言うと変な感じがするんだ。今まで通りの呼び名で構わない」


「じゃあ……リアム教官、新たに艦長になってどうですか?」


「まあ、前に比べればだいぶ忙しくなったが慣れた。だがなあ……1つだけ問題が会ってな……」


 リアム教官は溜め息をつきながら、ある人物を見た。


「――――えっ、エミリアですか!?」


「んなの当たり前だ! どれだけ俺を悩ませていると思うんだ! 毎回書類は撒き散らすし、アワアワし始めるし、と思ったら今度はヘラヘラし始める……全く困った補佐官だ!」


「ひ、ひどいですよリアム艦長! 女の子にそんなこというなんてひどいです!」


「うるせぇ!」


 2人でガミガミ言い合うリアム教官とエミリア。

うーん……これは意外と仲が良いのかもしれない。

本気で喧嘩しているようには見えないし……。

喧嘩をするほど仲が良いとか言うし、2人にとってはこれが日常茶飯事なんだろう。


「2人とも喧嘩してないで早く仕事しなさい! 偉い人がダラダラしてたらみんなもダラダラしだすよ!」


「「はいすいませんんん!」」


 さすがティナ。

現役時代恐れられていたことなだけある。

ただ注意しただけなのに、雰囲気で気圧されたリアム教官とエミリアは、ビシッと姿勢を正した。


「まあ、ということで……あまり遊びすぎると俺の嫁が鬼になっちゃいますよ?」


「「肝に銘じておきます……」」


 あれ……?

逆にトラウマを植え付けてしまったか?

2人とも右胸に手を置いて誓っていた。

なにもそこまで重く受け止めなくても……。

ティナがちょっと落ち込んでしまうからやめてほしい。


「それじゃあ、俺たちは仕事に戻る。艦内は自由に見てくれ。名前を言えばすぐ通してくれるようにしておいたからな」


「ありがとうリアム。じゃあちょっとだけ覗いて来るね」


「なんだヴァレンティナ、ちょっとじゃなくてもじっくり見たって構わないんだぞ?」


「ううん、わたしはこの後ヴァルとラブラブしたいの!」


「おいおいヴァル、お前幸せすぎて困ってるだろ」


「あはは……。リアム教官の言う通りですよ。幸せすぎて困ってます!」


「まあ明日はイベントですし、その時にでもじっくり見て行ってくださいね!」


「ああ、そうするよエミリア。じゃあ、今からちょっとだけ見学させていただきます!」


「おう! ついでに艦長室も見ていけ。イベントの時は公開しないから今のうちだぞ。お前たちにとっては思い出の場所だろ?」


「ありがとうございます。じゃあ、お邪魔しますね」


 俺とティナは一礼して、戦艦へと向かうことにした。

俺たちを見守るように見送ってくれるリアム教官と、大きく手を振るエミリア。


「エミリア……ちょっと不安ね」


「やっぱりそう思ったか? あいつ頭は良いんだけどドジっ子なんだよ」


 ティナもそう思ってたか……。

俺は補佐官にする人を間違えたかもなぁ……。

でも頭の良さは俺を超えてくるんだよなあいつ……。

だから俺の選択は間違ってしまったのか合っていたのか良く分からなくなってしまった。










◇◇◇










 それぞれの場所にいる管理長に挨拶して回った。

特に関わりの深かったエンジン室の管理長、ランドロフ・ナキル管理長には一番驚かれた。


「お久しぶりですランドロフ管理長!」


「その声は……ヴァリッド補佐官!? お久しぶりで――――なっ! か、艦長までお越し頂いていたんですか!?」


「久しぶりねランドロフ。元気にしてた?」


「それはもちろんこの通り元気でございます! そういえば、リアム艦長から耳にしていましたが……サプライズとはお2人のことだったのですね! いやあ……お2人もお元気でしたか?」


「うん、元気にしてたよ。あ、そうだ! わたしとヴァル、結婚したの!」


「ななっ!? お2人結婚してたんですか!? それ早く教えてくださいよぉ〜。ご結婚おめでとうございます!」


「ありがとうございますランドロフ管理長」


 その後少しだけ話をして、エンジン室を後にした。

ランドロフ管理長も元気にしてて良かった。











◇◇◇










「お、ここだな」


「うん、懐かしいね……」


 俺たちが最後に向かった場所――――それは俺とティナが仕事をして、隠れて恋愛をしていた艦長室だ。

俺は艦長室と書かれた札の下にある重厚な扉を開けた。

相変わらず重たいなこの扉。


「「――――」」


 ずっしりと来る音を響かせながら、扉はだんだんと開く。

そして、艦長室が姿を現した。

あの懐かしい景色が、俺とティナの目の前に映る。


「なんでだろう……故郷に帰ってきた感じがする」


「そうだな……。1年しか経っていないのに、すごい懐かしく感じる」


 艦長室が『おかえり』と言ってくれたような気がした。

俺とティナにとってこの場所は、第二の故郷みたいなものだ。

お互いに6年間もここにいれば、それは勝手に実家みたいな感じになる。

 そして、ここで俺とティナは交流を深めることになり、結果として恋愛をするようになった。

そして、今はこうして2人といつも一緒にいる。

ティナとの思い出の発端は、まさにここからはじまったのだ。


「ヴァル」


「ん? どうした?」


「ヴァル……あの時ここでヴァルに出会わなかったらどうなってたんだろうって今思ったの。艦長という最高位の役職になって、わたしは嬉しかった。自分の目標だったから。でも、現実は一番忙しい役職で、いつも書類の処理に追い込まれてた。さすがのわたしでも精神的にきつかった」


「――――」


 ティナの表情を見て、俺は黙ってしまった。

俺が補佐官になって初めて会った時のティナの印象は良くないものだった。

やつれた顔をしていて、ティナの特徴的なつり上がった目がさらに合わさり、誰が見ても恐ろしい雰囲気を醸し出していた。


「でもね、ヴァルが正式な補佐官になってわたしのもとで働くようになってから、随分仕事が楽になった。それに、ヴァルはそれだけじゃ不十分だって言い始めて、身の回りの整理とか本来艦長しかやっちゃいけないような仕事もするようになった。本当に……焦ったんだからね!? いきなりわたしの仕事もやりだすんだから!」


「そ、それは……ティナの仕事を見てて放っておけなかったから……」


「ふふっ、それは分かってるよ。あの仕事はヴァルにしか頼まない。それはわたしが色んな人を見てきて、一番安心して任せられそうって思ったから。そして、いつの間にかヴァルはわたしにとって心を落ち着かせられる癒やし的な存在になってた……。だから、ヴァルのこと好きになったの」


「ティナ……。そう言われると俺は本当に単純なものだよなぁ……」


「わたしのこと好きになった理由、女の子らしい可愛い一面があったからでしょ?」


「ま、まあそうだな……。もちろんティナは可愛くて当たり前だけどな」


「――――!?」


 あ、つい本音を言ってしまった。

これじゃあ、ティナがまた蒸発しそうに――――蒸発していた。


「ごめんティナ、この癖本当に直さないとな……」


「――――ないで」


「えっ?」


「――――! その癖は絶対に直さないで! ヴァルに言われるのは特別なの! だから、絶対に直さないでね!」


「お、おう……分かった。じゃあ……ティナ、俺はティナのことが好きだ。これからも俺の傍にいてください。俺はティナを支えていきます!」


 艦長室という俺たちにとって特別な場所で、俺はティナにプロポーズをした。

最初はティナから言ってくれたから、今度は俺の番だ。

 俺の言葉を聞いた途端、彼女の目から一筋の涙がティナの頬に伝った。

そして、俺に近づいて抱きしめてきた。


「うん……! わたしもヴァルのことが好きです。これからもずっと、わたしはヴァルの傍にいます! 絶対にヴァルから離れない。ヴァルは……わたしの最高の旦那です!」


「ティナ……!」


 ティナが全力の返事をしてくれた。

そして、俺たちは抱き合ってキスをした。

 ありがとう戦艦ヴィード。

ありがとう、俺たちを出会わせてくれた艦長室。

俺とティナは今、とても幸せだ!


 

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補佐官である俺の彼女は艦長 うまチャン @issu18

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