第15話 再会
「――――」
街の中、俺は1人広場の椅子に座っていた。
俺はある人物を待っている。
というよりは俺もその人物のもとに行っても良いけど、本人がどうしても嫌と拒否してきたのだ。
まあ、確かにその人が今行ってる場所に俺が居たらちょっとな……。
今日はこの週最後の休日ということもあって、いつもより人の数が多い。
俺が今いるこの広場は待合場所で有名な場所。
そのため、俺と同じように誰かを待っている人たちがいっぱいいる。
「ヴァルおまたせ!」
「おう! もう良いのか?」
「うん! 良いやつ見つけたから!」
「それじゃあ、帰ろうか……ティナ」
「うん!」
そう、俺が待っていた人物――――ティナだ。
艦長という最高位の役職にいた彼女は今、俺の可愛い奥さんだ。
◇◇◇
ティナにプロポーズされてから実に5年という時が経った時に、俺とティナは戦艦ヴィードを後にした。
俺がいた補佐官は後継者が出来たし、ティナがいた艦長も後継者が出来た。
お互いにその後継者に指導をし、それが全て終わったタイミングで俺とティナはその者に譲るように辞め、そしてすぐに結婚した。
『これからは隠れないでずっと一緒に居られるね!』
婚姻届を出した帰りに、ティナに言われたこの一言が一番印象に残っている。
そしてその言葉通り、俺とティナはどこにいようがずっと隣にいる。
結婚してからまだ1年しか経過してないが、俺は幸せすぎて毎日が充実している。
「そう言えば……ヴァル、今日港にヴィードが停泊するんじゃなかった?」
「お、そう言えばそうだったな! せっかくだし、見に行くか!」
「うん! あの2人、元気かな……?」
「まあ、あの2人は無駄に体力あって活発な人だから大丈夫だろうな」
「ふふっ、確かに。あの2人だったら何も心配いらないかもね」
「じゃあ、覗いてみるか!」
「うん!」
もともとはこのまま帰る予定だったが、変更して港へ向かうことにした。
そうか……戦艦ヴィードから出てもう1年が経つのか……。
時というのは本当に早く経つものだな。
「ヴァル……」
「ん? どうしたんだ急に……そんな顔赤くして」
「そ、その……今日買ったやつ、楽しみにしていてね。家帰ったら、見せてあげるから……!」
「――――!? や、やめろってティナ……。今言われたら速攻帰りたくなるから……!」
はあ……こういうところはあの時から変わっていない。
急に俺を誘ってくるところが。
まあ、自分は早く見てみたいから、そういう考えを読まれている時点で彼女にそう言われてもしょうがないって最近思い始めている。
「ヴァル!」
「ははっ、ティナは相変わらず甘えん坊だな」
「だってヴァルから離れたくないんだもん!」
「それは嬉しい言葉だ。俺もティナから離れたくないな!」
「そ、それは……わたしも嬉しい……よ」
自分で言っておいて、言い換えされるとこうやって顔を真っ赤にして恥ずかしくなってしまうところも全く変わらない。
そして、その表情を見て、『ああ、今日もティナ可愛いな、可愛すぎてそのまま抱きしめたいな』って思っている俺も全く変わらない。
まあ結局、俺とティナはあれから何一つ変わっていないということだ。
◇◇◇
広場から歩いて15分、港にもうすぐ着くというところまで来た。
この光景を見たのも、1年ぶりか……。
「何だか懐かしいね」
「ああ、そうだな。今こう見ると、ここって綺麗な場所だよな」
「うん、まだヴィードにいる時は忙しすぎて景色とか見る暇なかったもんね。今こう改めて見ると……本当に綺麗」
透き通った青い海に太陽が当たって水面が綺麗に光り、その手前には赤い屋根がたくさん並んでいる。
俺とティナが今歩いているこの道も、海に向かってまっすぐ続いている。
この景色が、とても綺麗だった。
「今度、ここに来てぼーっとするのもありだな」
「うん、釣りしても面白そうじゃない?」
「お、そうだな! じゃあ今度ここで釣りやってみるか!」
「うん! やってみたいやってみたい!」
そんな予定を立てながら笑いながら話していると、港に入って右側には……懐かしい巨大な物体が海の上に浮いていた。
タイミングも良かったようで、丁度港に入って停泊させようとしていたところだった。
「あの時のわたしたちって感覚麻痺していたのかな? すっごく大きく見えるんだけど……?」
「やっぱりそうだよなぁ……」
やっぱりティナは俺と同じことを感じていたようだ。
現役の時に見た時は結構小さく見えた気がするんだが……改めてこの戦艦は大きすぎると感じられた。
ゆっくりと戦艦ヴィードは岸壁に近づき、そしてピタリと停まった。
乗組員の姿が見えると、上からスロープが出される。
「あれ……もしかして制服変わった?」
「やっぱりヴァルもそう思った? わたしたちが抜けてから大分変わったのかな……?」
1年という年月は凄いな……。
でも1年は365日あるし、色んなことが変わっていくのも納得できるか。
スロープは段々と伸びていき、やがて地上へ着いた。
すると、乗組員たちが大勢降りて最終をしつつ、準備を始めていた。
そう、明日は戦艦ヴィードのイベント祭なのだ。
俺たちは事前に手紙が来ていて、ぜひ来てほしいとお願いされたのだ。
ただ、俺たちはもっとお互いと一緒に居たいという気持ちが強すぎて、つい忘れかけていたのだ。
「うんうん、新人の人もいっぱいいるね。見慣れない人たちがいっぱいいる」
「ああ、俺たちも入りたての頃はあんな風に見えたんだろうな」
「懐かしいね、ヴァル」
「そうだな……」
この戦艦にいた頃を思い出していると……急に駆け寄ってくる人物が。
あの感じ、すぐに誰なのか分かった。
「せんぱーい!」
「やっぱりお前か、エミリア」
俺たちに駆け寄ってきた人物――――それは俺の高校時代からの後輩、エミリア・ガビルだ。
活発なところも、俺を見つけてはすぐに駆け寄って来るところも全く変わってない。
「にしても……だいぶ体がたくましくなったんじゃないか?」
「そりゃあ鍛えていたらこうなりますよ。先輩のせいですからね!」
「俺のせいにするとは良い度胸じゃないか。でもそれは当たり前だ。な、エミリア補佐官」
「ちょっ! 先輩がエミリアに補佐官って言われるのなんか嫌です!」
「はははっ……! でもエミリアは今その役職にいるから間違ってはないだろう?」
「そ、そうですけど! でも嫌です! わたしのことは普通に呼んでほしいです!」
昔から変わらない、どうしようもない突き合いをしていると、傍で見ていたティナがクスッと笑った。
「相変わらず仲が良いよね2人とも」
「まあな。昔からエミリアとはこんな感じだからな」
「そ、そう言えば! お久しぶりです! えっと……元艦長!」
まあ確かにそうだけども……。
『元』ってつけるのが良くないなあ……。
「あはは、もう引退しちゃったから『ヴァレンティナ』で良いよ」
「えっとじゃあ――――ヴァレンティナさん、まさか先輩と結婚するなんて驚きましたよ! てか、先輩もそうですよ! 知らぬ間に2人は付き合ってたんですか!?」
「うん、あそこにいる時からずっとね」
「ずっと!? ということは……2人は現役の時からこそこそ付き合って立ってことですか!?」
「コソコソって表現するとあれな気がするが……」
「でも実際そうだったでしょ? みんなに気づかれないようにヴァルと一緒にいたじゃない」
「まあ……そうだな。気づかれないようにはしていたな」
別に恋愛禁止という決まりはなかったが、恋愛はしてはいけないという暗黙のルールがあったから、俺とティナはバレないように恋愛をしていた。
でも、その結果今はティナとこうして常に隣にいられるのだから、あの選択は間違ってはいなかったと思っている。
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