第14話 愛らしい寝顔からの……

 寝ている時のティナの面白いところ、それは頭を撫でてあげると嬉しそうな顔をするところだ。

普通寝ていたら起きるか無反応の二択だと思うのだが、ティナの場合、こうやって頭を撫でてあげると必ずこの表情になる。

なんて可愛いところを持っているんだ!

 しかも、これはティナとともにしている俺にしか見せてくれない。

つまり、ティナの可愛い寝顔を見られるのも俺の特権だ。


「すう……すう……。ヴァル……」


「――――!? びっくりした、寝言か……」


「好き……えへへ〜」


 ティナって……夢の中でも俺が登場しているのか?

そう考えると、結構照れくさいというか恥ずかしいというか……。

思わず頭を掻いてしまった。


「ん……ふわあああ……。ん〜」


「おはようティナ。よく眠れたか?」


「うん、寝れたよ……」


 寝ぼけているせいで少し声が掠れていて、さらに声のトーンが高い。

俺しか聞くことがないと考えると……結構嬉しい。


「ヴァル……ん」


「はいよ」


 俺に向かって腕を広げるティナ。

おはようのハグとキスがほしいという合図だ。

俺はティナに近づき、抱きしめてキスをした。


「ん……ヴァル!」


「うわっ!?」


 顔を離した瞬間、ティナは俺を押し倒した。

なんだ?

俺に何をする気だ……?


「ふふっ、いつもヴァルに押されてばかりだから……たまにはわたしも押してあげないとね」


「えっ……?」


 そう言われた瞬間、その体格に似合わない強い力で俺を押し倒し、ティナはまたキスをしてきた。

ああ、彼女は本当に可愛い。


「ん……。はあ、はあ……ヴァル」


「ん? なんだ?」


「わたし、ヴァルと出会えて本当に良かったって思ってる。ずっとこの戦艦ヴィードに乗って働いて、そしてやっとわたしがずっと目標にしていた艦長という最高位の称号を授かった。だけど、そこからが大変だったの。仕事の量は圧倒的に増えたし、それに初の女性艦長だったというのもあって、世間の目も気にしてた。うん、色んなことが急に襲いかかってきて精神的に辛かった」


 それは俺でも分かる。

俺が補佐官になり、初めてティナを見た時のあの威圧感は今でも忘れていない。

女性とは思えない、男性に劣らないほどの雰囲気を漂わせていた。

 しかし、それとは裏腹に、ティナの目には大きな隈を付けていた。

全く休めていないのが分かるほど……。

 だから、俺はティナを全力でサポートすることに徹底したのだ。

最初はお茶出しなどの雑用から始め、後に本格的に書類の処理のサポートをするようになった。


「でもね、ヴァルがわたしの仕事を手伝ってくれるようになってから本当に楽になった。身体的にも精神的にも楽になって……そしたら、心の余裕が出てきて周りの様子も見られるようになったの。だから、ヴァルの出会いってすごく奇跡だって思ってる。それにヴァルは……わたしが人生で初めて恋をした人だから……」


「――――!」


 『人生で初めて恋をした人だから』。

この言葉を聞いたのは久しぶりだった。

そう、ティナに告白されて付き合い始め、それからしばらく経った頃だった気がする。

 そうだ、その時は異常なくらい俺に甘えていた時だったな。

俺に体を預けながら、そう話していた。

初恋だったという言葉に、俺はどれだけ嬉しかったことか……。


「――――良いよね」


「えっ?」


 ぼそっと何かを呟いたティナ。

俺はよく聞き取れなかったため聞き返すと、いきなりティナは顔を近づけた。

頬を真っ赤にして、いつもより真剣な眼差しで俺を至近距離で見つめてくる。


「――――!? 」


「ねえヴァル……」


「な、なんだ?」


「その……これからもヴァルと一緒に居たい! もう、この気持ちは抑えられないの。だから今言う!」


 お、俺は何を言われるんだ!?

この表情だから怒られる感じではないし……俺はティナが何を言ってくるのか全く予測できない。


「ヴァル、わたしはあなたが好きです。大好きです。だから……わたしと! 結婚してくれませんか!」


「――――へっ?」


 思わず変な声が出てしまった。

俺は思考停止してしまった。


「もう、この気持ちは止められない! わたしはヴァルと一緒に居たい。ずっと傍にいたい!」


「ティナ……」


「だから……わたしと結婚してください!」


 もう一度言われて、俺はやっと状況を理解出来た。

あまりにも驚きすぎて時間がかかったが、俺は今、ティナにプロポーズされている。

まさかの逆プロポーズだった。

 顔を近づけ、俺をじっと見つめてくるティナ。

その瞬間、俺の頭の中であるシーンがいきなり映し出された。

それはティナが俺を見ながら笑っている姿だった。

何時でもどこでも幸せな様子が、ティナの表情を通して伝わる……。


『ヴァル』


 そして、俺の名前を呼ぶ。

そのティナの姿が本当に幸せそうで……。


「――――ティナ」


「――――!」


 頭の中で映し出されたティナの笑う姿が、俺の決断に繋がった。

そうか……。


「俺もティナとずっと一緒に居たい。だから俺からも言わせてくれ。俺は……俺は! ティナのことが好きだ! これからもティナを幸せにしていくと誓う。だから、俺と結婚してください!」


「――――! ヴァル!」


 俺もティナにプロポーズをした。

その言葉を聞いた瞬間、ティナはあっという間に目から涙が溢れた。

そして、俺に抱きついた。


「ヴァル、ヴァル!」


 何度も俺の名前を呼ぶティナ。

その姿が本当に愛おしい。

俺は本当にティナに出会えて良かった。

 戦艦ヴィードの乗組員になるという幼い頃の夢を思い出し、初めてイベントで艦内を見学して、その時にティナと偶然出会った。

そこから狭き門を突破して補佐官になった俺は、新たに艦長として就任したティナをサポートしながら任務を果たし……そして、ティナと恋人として新たに歩み始めた。

 そんな彼女と結婚できるなんて、どれだけ嬉しいことか。

ティナは俺の憧れでもあり、大好きな人だ。

威厳があるように見えて、実は可愛らしい少女のような一面を持っている。

自然と守ってあげたくなるような気持ちになる。



俺はもう、彼女の虜になっている。



「ティナ、俺はこれからもティナを守っていく。それが俺の使命だ」


「うん!」


 俺はティナを抱きしめ、そしてまたキスをした。

彼女に出会えて、本当に良かったと改めて実感した。

 憧れの人から、まさか恋人になってしまうなんて、まだこの戦艦の補佐官になる前の俺には絶対想像できなかった。

しかし……今はこうしてティナの傍に居てはイチャついている。

イチャついているなんて自分で言うのは恥ずかしいが……でも実際そうだ。

 俺は幸せ者だと思う。

そう感じるから彼女、ヴァレンティナ・ジャミラという素敵な女性をもっと大切にしていきたいと強く願うのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る