第13話 2人きりの夜

 2人でシャワーを浴び、1杯だけお茶を飲んだあとにベットに入った。

ちなみに艦長室に置いてあるベットはダブルベットサイズ。

俺がティナの隣に寝ても余裕の広さだ。


「ふあ、あああ……」


 少し眠くて、俺はあくびをした。

すると、俺の右腕が抱きしめられる感触がした。

そちら側を見ると、ティナが俺を見つめながらくっついていた。


「ふふふ、ヴァルの腕……結構鍛えている割には細いよね」


「まあ、俺はいくら鍛えてもあまり変化がない体質だからな。そういうティナだって、結構鍛えているけど本当に細いよな」


「わたしもそういう体質だからね」


 ティナは俺の腕を触りながらそう言った。

補佐官だから、艦長だからと言って体を鍛えないというわけにはいかない。

この戦艦の乗組員全員が体を鍛え上げ、重いものだろうが軽々と持てるようにしている。

もし、どこかで要請があって重いものを運ぶ、走るということが出来なかったらただの邪魔者だ。

そういうことがないように、日頃から体を鍛えている。


「ティナって結構足速かったよな?」


「うん、50m走7秒だったかな」


「本当に速いな……。あれ、もしかして俺と同じ秒数、だな」


「確かそうだったよね。乗組員の中では一番足が遅いって言ってたもんね」


 そう、俺は特別足が速いわけではない。

運動神経も特別良いわけではない。

だから、俺は補佐官を目指そうと決めたのだ。

運動はみんなより出来なくても、勉強することは嫌いではなかった。

だから、頭を使う役職、補佐官を俺は選んだ。


「運動は劣るけど、その分頭を使うことは得意だって思ってる。補佐官っていう役職は俺に一番合ってるって、やっていくうちに思うようになったな」


「それに、わたしにも出会えたしね!」


「ああ、そうだな。ティナにも会えたし……俺はここで仕事が出来て本当に良かったと思ってる」


 この仕事に就くことが出来たこともそうだが、やはりティナと出会えたことが一番だ。

神の運命の導きだったと思えるくらい、本当に運命的な出会いだった。

だから、俺はティナをこれからも大切にするし、傍に居続ける。

それが、今の俺の使命でもある。


「そういえば……ティナのこと、まだ母親に言ってないんだよな」


「ふぇ!? お、親!? い、言わなくて良いよ!」


「えっ、何でだ?」


「そ、それをやったら……まるで結婚報告みたいで……恥ずかしい、から……」


「――――!?」


 ティナは顔を真っ赤にしながら、小さな声でそう言った。

確かに言われてみれば……いやいや、もう1年以上母親に手紙を送ってないのだがら、あくまで近況報告のついでにティナのこと伝えても良いのでは?

そうだ、文末にP.Sつければ良いのではないか。


「絶対にわたしのこと書こうとしてるよね?」


「うぐっ……。だって、ティナのこと自慢したいから……」


「そういうことは報告しなくていいの! わたしが恥ずかしいから!」


 俺の肩を掴んで前後に大きく揺らすティナ。

恥ずかしすぎて逆に泣きそうな顔をしていた。


「ヴァルはまたそうやってからかうんだからー!」


「分かった! 分かったから激しく揺らすな! 首がもげる!」


 ティナがそこまで言うのなら仕方ない。

今回書くのはやめるとしよう。

ただ、俺は諦めたわけではない。

次回こそはティナのことを報告出来るように頑張ろう。


「はあ、はあ……。もう、ヴァルはすぐにわたしのことからかう……」


「悪かったって……」


「今度はわたしの番だからね! ヴァルのこと、たっくさんからかうから!」


 これは本気でからかわれそうだな……。

でもそうやって意地を張るところがティナらしい。

可愛いところだ。


「うーん……何だか眠くなってきちゃった……」


「何だ、俺を揺さぶったときに体力使ったからか?」


「そ、そんなんじゃない、けど……。急に睡魔、が……」


 ティナは話しながら、どんどん瞼が閉じ始めていた。

俺の腕に腕を絡ませながら。


「じゃあ、もう寝ようか。おやすみティナ」


「うん……おやすみヴァル。大好きぃ……すう……」


 そう言って、ティナはそのまま夢の中へ。

俺はティナのおでこにキスをした。

腕から、ティナの温かい体温が伝わってくる。

その温度がちょうど良く、俺も睡魔に襲われ、そのまま眠った。


(ティナ、俺も大好きだ。愛してる)


 そんな言葉を心で言いながら。









◇◇◇








「んっ……」


 俺は突然目が覚めた。

寝返りを打とうとしたが体が全く動かず、違和感があったために、俺の体が反応したらしい。

 腹部がやけに重たいため、俺は目を開けてみると……。


「すう……すう……」


 俺の腹の上で眠っているティナがいた。

どうやったらこの体勢になるのか気になる……。

それはともかく、このままだと寝返りできないし、結構キツイから起こすとするか。


「おーいティナ。そこで寝られると結構窮屈だから避けてもらえると助かる」


「すう……」


「――――ティナ?」


「すう……」


「おーい」


「すう……」


「――――」


 だめだ、これは全く起きる気配がしない。

人の腹の上で爆睡してる人なんて生まれて初めて見た……。

まるで飼い主の上で寝っ転がる猫のようだ。

 それにしても……ティナの寝顔の破壊力がやばいな。

起きているときとは全く違う可愛さが映える。

目を開けているときは鋭く吊り上がっているが、目を瞑ると優しい目つきに変わる。

このギャップがまたたまらない。


(まあ、ティナは体重軽いし、それに真正面からティナの寝顔を見られるから良いか)


 そんな下心満載なことを心のなかで思いながら、俺はティナの寝顔をじっくりと眺めながら、彼女の頭を優しく撫でた。

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