打ち明け話

 月が変わって最初の金曜日、朝のエレベーターホール。路久が待っているところへ、千尋が姿を現した。午前八時半。朝に顔を合わせるのは初めてだ。これから出勤、というには遅い気がする。スーツ姿だった。

「おはよう。ってあれ? 路久ちゃん風邪? 花粉症?」

千尋が瞬きを繰り返して問う。路久はマスクをしているのだった。うなずく。

「ちょっと、風邪っぽくて」

 昨日から鼻水が出ていたが、今朝起きたら熱っぽかった。その上悪寒がする。風邪だった。こんなにわかりやすい身体の不調は久しぶりだった。

「大丈夫? 講義、休んじゃえば?」

エレベーターが到着した。千尋は開いたドアを押さえて路久を先に通してくれる。彼が入ってくるのを待って一階のボタンを押した。ゆっくりと動き出す。

「今日の一限は出席票あるんです」

いわゆる「代返」をしてくれる知り合いなど、路久にはいない。しゃべるとマスクの裏で鼻水が垂れてくる。すんすんとすすると鼻の奥で鈍痛がした。千尋はそんな路久を見つめて顔をしかめる。

「風邪はひき始めに対処しなきゃ。今週もまだ少し寒いみたいだし。病院は? 薬とか」

「帰りに薬買ってきます」

「一限終わったらもう帰りなよ。バイトも休んでさ」

「……そうします」

一階に着いた。千尋が先に出て路久を振り返る。眉根を寄せて、心から心配している顔だった。戸惑いと共に不思議な心地が胸に広がり、なんだか落ち着かない。と思っていたら盛大なくしゃみが出た。二回……三回。

「ああもう、完璧やばいじゃん」

千尋が手を伸ばして背中をさすってくれた。一瞬、寒気がおさまるが、次には倍の強さでまた襲ってきた。そのまま二人でエントランスを出る。路久は自転車で大学へ、千尋は電車通勤のため、駅まで徒歩らしい。

「じゃあ」と路久が千尋を振り向くと、千尋は珍しく強い口調で路久の名を呼んだ。

「大学でも家でも何かあったら連絡してくれていいから。俺今日は丸一日外部研修だから、多少身体の自由はきくし」

「あの、でも」

「俺は路久ちゃんより一人暮らし長いんだから。病気の時の辛さも知ってるの。きついなら病院、連れてってあげるから」

「いやそんな」

「俺にそんなことさせたくなかったら、無理しないでちゃんと寝なさい」

人差し指を突きつけ、わざと怒ったような顔を作ってみせる。その勢いに圧され、路久は何度かうなずいた。それを見て千尋はよし、と納得した様子で歩き去って行く。

 そういえば、彼はスーツ姿なのだ。研修と言っていたし、この間面接に行った会社で採用になったのかもしれないと路久は思い、お祝いの言葉どころかそれ自体に思い至らなかった自分の鈍感さを思い知るのだった。

 いつも以上に注意力が落ちている。

 ――路久の体調不良には、明らかな原因があった。

 あの飲み会の日から、路久は落ち着かない日々が続いていた。他でもない、隣人の斎川千尋についてのことである。

 彼と飲みに行くまでは気づかなかった懸念――彼が酔った挙句にビルから飛び降りたことについて、路久は本人へその原因を尋ねることはもちろん、そのこと自体も打ち明けることができずにいた。したがってその解決策も予防策もわからないまま、ただただ毎晩彼の部屋の電気が無事に消えることを確認するしかない日々を送っていたのだ。もう二週間以上になる。

 千尋の就寝時間は日によって異なっていたけれど、夜更かしをするタイプらしく、月曜日の夜でも午前一時に部屋の電気があかあかとついていたりする。一度は電気を付けっぱなしで眠ってしまったらしく、路久がそれに気づいたのは少しずつ夜が明け始めた街並みを認めた瞬間だった、という日もあった。その日は心底脱力し部屋に入り、そのまま床で眠り込んでしまった。大学の講義が午後からだったことが救いだ。

 そんな調子で二週間以上も満足に寝ていなければ、いかに体力と忍耐力に自信がある路久の身体も不調を来す。千尋の「見守り」のために日課の散歩も取り止めている状態に加え、冬に逆戻りしたかのような寒い夜も続いたのが悪かった。それで風邪を引き込んでしまったのである。

 ――もうそろそろ厳しいかもしれない。

 大学の広い講堂内。スピーカー越しに聞こえる講師の声も耳を素通りしていく。その中でマスクをし、熱っぽく重い頭を抱えながら路久は半ば諦めの気分でそう思った。人ひとりの生死に関わるかもしれない問題だと思って「見守り」を続けていたけれど、それだけでは問題は一向に解決しないのだ。

 彼を傷つけるかもしれないけれど、やっぱり本当のことを言うべきだろう。

 今朝千尋から言われた言葉を思えば、まずは風邪を治すべきだった。けれど今の状態では、家で寝込んでいたところで落ち着かない気分を抱えるだけだ。今夜「見守り」もできるか自信はない。今日のうちに千尋の家を訪ねるしかない。

 とはいえ誰かの家を訪ねた経験はない。普段の路久なら極度の緊張を覚えて先延ばしにしていたかもしれないけれど、気力も体力も限界に近づいている今、そんな余裕すら失われていた。とにかく早く解決しなくてはという思いに駆られていたのだ。大学の食堂でインスタントスープとおにぎりを食べ、薬を飲んだら家に帰り、横になって備えた。



 いつの間にか眠ってしまっていた。時間は夜の八時。まだ身体は重く、頭は熱っぽい。おさまらない寒気と鼻水が不快だった。できるだけ厚着をして、マスクを取り替え、薬を飲む。

 路久は意を決して隣の千尋の部屋へ向かった。寒いがそれが体調のせいなのか気温のせいなのか判断している余裕もない。とりあえず厚着してよかったと思った。

 深緑色の頑丈な玄関ドアが、実際より何倍も大きな壁に思える。ごくりと唾を飲み込んだ。

 ――どうしよう。

 いざドアを前にすると躊躇する気持ちが出てきて、路久の足を縛る。

 だいたいこういう場合、ノックをするものなのか、呼び鈴を押すものなのか。

 ノックしても聞こえないかもしれないという不安。しかしオートロックのアパートで、いきなりドアの呼び鈴を鳴らしたら驚かせてしまうのではないだろうかという懸念。何しろ他人の家を訪ねることなど、人生で初めてである。路久はあれこれと数分悩んでドアの前を右往左往することとなった。風が吹くと冷えて彼の身体をさらに固くさせた。

 しかし事は急を要する。ようやく決心をつけ、何度も呼吸を整え、震える手でドアを二回ノックした。

 ……反応はない。

 数秒逡巡したけれど、もう一度ノックする。今度は三回。

 まだ帰っていないのだろうか。

 その可能性に思い至って、一旦出直そうかと踵を返しかけたとき、ドアが開いた。

「路久ちゃん?」

隙間から千尋の顔がのぞいた。路久は一瞬少しだけほっとしたけれど、驚いた千尋の顔を見て、すぐに申し訳なさがこみ上げた。頭に用意していた台詞を並べる。

「あの、えっと、いきなりすみません。ちょっと、お話ししたいことがあって……」

ぱちぱちと不思議そうに数度まばたきをした千尋は、さっと表情を変えた。

「あ、きつい? 病院行く?」

眉根を寄せて深刻な顔をしたので、路久は反射的にまずい、と感じ首を振った。

「あ、いえ! そうじゃなくて! それとは別の話で」

「寝とかないとダメじゃん。そんなんじゃ治らないよ」

「薬も飲みました。今のところは大丈夫です」

何とか説明すると、千尋は大きくため息をついて、部屋の奥へ消えた。怒らせてしまったかと一瞬ぞっとしたけれど、すぐに鍵を持って戻ってきた。

「だったらそっち行く。ちゃんと寝て。じゃないと聞いてあげないから」



 自室に人を入れるのは千尋を助けて以来だ。尤も家族以外には彼しか入れたことがない。カーペットも敷いていない床は冷たく、今更ながらに配慮に欠けるような気がして申し訳なく思った。路久は座布団をミニテーブルの下から引っ張り出した。部屋のインテリアに無頓着な路久に代わって、母が買ってくれたものだ。

 千尋は部屋着に上着一枚を羽織った姿だった。ゆったりとした綿のズボンにボーダー柄のカットソー。洗濯物の一件があったときも感じたことだけれど、彼がこんな風にカジュアルな服を着ると、途端に柔らかく幼い印象を受けるのだった。しかし彼ははっきりとした口調でまず路久にベッドに入るよう言った。驚いて遠慮するが構わず繰り返す。

「でも、おれがお話があるって呼んだのに」

「こっちが落ち着かないの。話は寝ててもできるでしょ。熱は?」

「……大丈夫です」

 正直なところ朝より熱っぽいのは自覚していた。けれど体温計を持っていないので測りようがない。どうやら朝から千尋は路久の無防備さに呆れている様子だったから、それを白状してしまえばそれどころではなくなるような気がしたので黙っておいた。すいません、と頭を下げてからベッドに入る。まだ少しだけ温かさが残っている。

「それで、どうしたの」

ベッドの傍に腰を下ろして千尋はそう尋ねた。自然な動作で掛け布団を整える。

「えっと、その……」

 何から話せばいいのだろう。千尋が座る床と座布団を見ながら路久は考えた。さりげなく、相手を傷つけないような……そんな風に考えても、路久の頭に適当な言い回しが思いつくはずもない。

「えと、おれが最初に千尋さんを助けたときのこと、覚えてますか」

考えてもわからなかったので、一から話すことにした。

「いや全然。酒飲んでたし」

 千尋の口調はあっけらかんとしていた。瞳を数秒見つめる。嘘を言っているようには思えない。どうやら本当に覚えていないらしい。

「じゃあ、酔って記憶を失くすことって今までありましたか」

「へっ?」

路久の冷静な問いに、千尋は驚いて目を大きくさせた。一瞬の後、頬を赤くする。

「あっ、変なこと訊いてすいません」

「いや、まあ、路久ちゃんにはバレてるから今更だけど……」恥ずかしいなあ、と言って頭をかく。「えーっと、あるよ」

「それって、危ない目に遭ったこととかは?」

続けて訊くと、千尋はますます赤くなって縮こまり、叱られる子供のようにしょんぼりとした顔になった。

「……あります。財布盗られたことが一回、変な店に連れてかれてぼったくられそうになったことが一回」

年下の、しかも学生の男から指摘される内容としては、恥ずかしいものがあるのだろう。路久の方はそんなことに全く気づきもせず、さらに質問を重ねる。

「それだけですか」

「……それだけです……」

 路久は息を整え意を決して、長いこと懸念していたことを話し始めた。

 自分はあの日酔い潰れた千尋を助けたのではなく、ビルの非常階段から飛び降りた千尋を飛んで助けたのだということ。酔っていると気づいたのはその後であったこと。千尋が目覚めた後も、自分の力のことを知られるわけにはいかなかったから、そのことを黙っていたこと。

「あの、えっと、おれとしては、千尋さんが酔ったせいでふらふらして飛び降りたりしたんだとしたら、流石に危ないなって思って。だから、一応伝えておかないといけないかなって……」

目も口もあんぐりと開けた千尋の様子に、今度は路久の方が申し訳なさを感じて縮こまった。

「うそ……」

ごめんなさい、と路久は何に対してかもわからない謝罪の言葉を口にした。千尋は大きく息を吸って、ベッドの端に肘を付き、片手で落ちてくる頭を支えた。

「ちょっと待って、俺、身投げしたの? そんで路久ちゃんが飛んで助けてくれたってわけ?」

「……あの、はい」

恐る恐るうなずくと、千尋は唸るような声を上げてベッドに突っ伏した。

「嘘、俺、ちょっと待って、最悪じゃん。いや、俺自分のこと確かに馬鹿だと思ってたけど、うわ、ちょっと、あり得ないんだけど。最高記録更新だよ。馬鹿過ぎる。意味わかんない。何をどうしたら飛び降りるわけ。酔って身投げして死ぬとか最期まで笑い話かよ!」

突っ伏したまま頭を抱えている。普段よりもやや荒っぽいその言動に、路久はたじろぎ、身体を起こす。

 やっぱり、彼の意思ではなかったのだ。

「……路久ちゃんは、俺の命の恩人なんだね?」

しばらくああだこうだと呻いていた千尋は、最後にそう締めくくった。いやそんな、という路久の言葉に、突っ伏したままのくぐもった声が重なる。

「どうしよう。もう路久ちゃんの顔見れない。やばい」

「千尋さん、」

「恥ずかしい。恥ずかし過ぎて死にたい。最悪過ぎる」

 本当に顔が上げられなくなったらしく、千尋はそう言ったきり動かなくなってしまった。重く長いため息がもれてくる。

 そんな彼を前に、路久は励ますべきなのか、慰めるべきなのか、もっと別の対応をすべきなのかわからず困惑した。あたふたと千尋や部屋の色々なところを交互に見やる。そして数分悶々と考えた末に、とりあえず自分が考えていた解決策を提案してみることにした。

「……あの、だから、おれが言うのも……その、おこがましいんですけど、飲んだ後は誰かと一緒に帰った方がいいと思います。もしどうしても一人になっちゃったり、他に誰もいなかったりしたら、おれに言ってくれれば、アパート同じだから迎えにも行けるし。あとお酒の種類と飲む量がどのくらい身体に影響するか、一度色々試してみたらいいのかなって。あの、それで、もし千尋さんが嫌じゃなかったら、そういうの、おれ隣だから付き合いますし――」

「路久ちゃん!」

 返ってきた声が咎めるような調子だったので、路久の身体は硬直した。しかしそれは少し違う意味合いだったようで、千尋は何事か喚きながら路久の腰に勢いよくしがみついてきた。脇腹に額を押しつける。

「ち……」

思わぬ反応に路久は度肝を抜かれた。強引な拘束とぬくもり。一瞬で体温が上がった。咄嗟に手をついてバランスを崩した身体を支える。

「路久ちゃん駄目だって! そんなこと言っちゃだめ! もう俺恥ずかし過ぎて死ぬから! 本当に、今すぐ死ねる!」

 千尋の声はやけっぱちだった。路久はますます混乱した。とにかく彼を落ち着かせなければと思ったけれど、どうやってなだめたらいいのかわからない。ただ千尋の口から「死ぬ」という言葉が出てくるのが怖かった。彼が街の光の中に落ちていくシルエットが、どうしても脳裏によみがえってしまうから。

 あの時ほんの少し何かが違っていたら――路久が千尋を見つけていなかったら、路久の判断と行動が一秒でも遅かったら――今この場に千尋はいなかったかもしれないのだ。彼が路久と食事をすることも、路久の能力を受け入れてくれることもなく。

 たちまち寒気が増した。

「死ぬなんて、言わないでください」

はっとして千尋が顔を上げた。彼は路久のその言葉一つで何かを悟ったらしく、しがみついていた身体を離した。

「死んだらだめです。死ぬなんて……」

 うつむくと頭はますます重くなり、頭痛がした。強く目を閉じてやり過ごす。鼻が詰まって息苦しい。

「ごめんね」

千尋の声はいつも優しい。

「あの日、俺、ちょっと参っちゃってて。たぶんそれが原因だったのかも」

路久が顔を上げると、千尋は笑った。初めて見る笑みだった。何か苦いものを口にしているように苦しげだ。彼の手が掛け布団を持ち上げて、路久に横になるよう促す。今度は路久も大人しく従った。強く目を閉じたせいで、視界がやや潤む。

 そのまま千尋は掛け布団越しに路久の胸をとん、とん、と叩く。

「……路久ちゃんは俺を心配してくれてたんだね。ありがとう」

まるで寝物語を聞かせるような口調が、静かな部屋の中に波紋を落とす。

「千尋さん」

「俺さ、恋人がいたんだ」

はっとして見上げると、千尋は小さくうなずく。

「職場の上司で、……その人には婚約者がいた」

「え……」

「付き合ってることは職場では秘密にしてたし、あんまり自分のこと話す人じゃなくてさ。知らなかった」

自嘲するようにまた笑みを浮かべる。「別れたときも知らなかった。けどその後、その人が結婚して、ついでに婚約者だった人から個人的なお手紙が届いてさ」

「…………」

「仕事辞めて、ケータイも変えたのに。とどめだよね。俺つくづく馬鹿だなって、思い知った」

 胸にずきりと痛みが走った。

 思わず身体を起こしかけた路久を、千尋は優しく押さえる。けれど目に涙をいっぱいに溜めた彼の顔を黙って見ていられない。今度は胸に熱いものがこみ上げてきた。路久の心は忙しくそこら中を行ったり来たりし、何度も壁にぶつかり、足をもつれさせて転び、終いには天を仰いだ。けれどそれとは裏腹に、言葉は出ず、身体は動かない。どうしたらいいか、わからない。

 やがて千尋は目を閉じて掛け布団の上に頭を預けた。身近な柔らかいものにすがるように見えるのは、路久の心のせいだろうか。

「前からずっと不安だったんだよね。もちろん何十年も一緒にいれるなんて思ってはいなかったけど。一人が怖くて、飲むともっと怖くなっちゃって。でもそれを忘れたくて……って感じで。今は大丈夫。ほんっとにごめんね。約束する。もう路久ちゃんを心配させるようなことは絶対しない。お酒も程度をわきまえる」

「……はい」

「本当に、路久ちゃんは俺の恩人だ」

目を開けて千尋がそう言う。涙はもうない。路久がいや、と答えようとした瞬間、盛大なくしゃみが二回続いた。

「さあ、俺は自制。路久ちゃんはしっかり休んで風邪治さないとね」

可笑しそうに笑って千尋はまた掛け布団をとん、と叩いた。すっと立ち上がると、じゃあ、と背を向けて玄関へ遠ざかっていく。

 部屋にぽっかりと取り残されたような静けさが降りてくる。

 それが路久にはやや唐突なものに映った。

 なんだか、何かが違う気がする。何かが歪で、うっすらもやがかかったような。

「あの」

気がつくと路久はベッドから出て彼の姿を追っていた。急に立ち上がったせいでひどいめまいに襲われる。壁に手をつきながら玄関先まで何とか辿り着く。

「……なに」

小さな声。千尋は振り向かなかった。それでももう、喉まで出かかった言葉は止められなかった。

「大丈夫ですか」

「…………」

千尋の背中。何か自分がどうしようもなくおかしなことをしているのではないかという不安に駆られる。

「あの、いや、疑ってるわけじゃないんです。その、おれは、すいません、恋人とか恋愛とかよくわからないんですけど……」ようやく平衡感覚が戻ってくる。「つらい気持ちって、その、ぶり返してくることが多いから……」

 そこまで言って、ようやく口をつぐむ。何を言っているんだろう。おれごときが六歳も年上の人にむかって。

 千尋はこちらに背を向けたままうつむく。肩が大きく上下した。

「ありがとう」

 やがて小さな声でそう言うと、千尋はそのまま部屋を出て行った。

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