第六話

 工場見学に行けないと嘆いていた幼稚園児は、生を選んだ。ほのかに香る目玉焼きとしょっぱいレンゲをメレンゲに溶かした脅かしである。オムレツを泣かせたのは人工芝なのだ。三千世界を滑る、かの大魔王とのパンチングマシーン勝負で勝利した佐藤は、みごとに挑戦者としての面目を保ったわけだが、はち切れんばかりの喜びを抑えきれずに執筆活動に勤しんだという。セバスチャンも驚きの緊急事態であり、誠に季節風が霰に変わっていたと言われている。本当かどうかは、神のみぞ知るわけだが。


 そして忘られ小田原城。西の月は蒸し返すように黒き輝き、頂きには十七の黎明と薄ら笑い。盛況であるコロッセオと小杉の山の砂塵を誇っていたが、保健委員とともに滅したらしく、今は酸性雨に降られるだけ。切っ先鋭く彼女の高笑い。砂上の保守派は緑を切り刻み、しのぎの果実は針を呑み込みなめらかに死にゆく。ひざまずいた屈強は押されて倒れ、グライダーは模擬火災を起こしてソプラノで歌う。マントとコートとリアリスティックとロープウェイ。そう、消え去る雀の瞳の奥で、理解者が微笑んで唇をぬぐった。


 目尻を吊り上げボックス席に着く少女。ゾウガメと死神。ダイズを噛み潰すつり革は山吹色に塗りつぶされていたのだが、生ケチャップをしゃぶる力士を小指で少女は殴り倒した。彼女は立ち上がり体をくねらせ、小指を力士に突きだして言うのだ。「太陽神の名の下に」


 雲をシュレッダーにかけたなら、あとはベッドで眠るだけのような気もするが、東の祭壇は光を増したので、彼女は祈りを捧げたわけだが、部屋を同じくしていた誰かもそれに倣った。佐藤はその光景を見ていたのか。あのときのことを、見ていたのだろうか。今となってはわからないが、きっといつかわかることだ。なぜなら人は、肉ある限り生き続けるからだ。これ幸い。施しを、理解を。ほんの一時を、我らに下さい。


 導きよ。


 少しクセの強い正体不明。キツネを上げたあんちゃんと、ドッグランを歩くカブトムシを食べる執政官。これでもだいぶライトになった方だ。あめ玉を葬る回覧板ウサギにちょっぴり似ている。レーダーが反応する限りはそうなのだろう。噴水は小指によって凍り付いた。そう、彼女の小指だ。そして彼女は叫ぶのだ。「……でんじゃらぁす。ぷりーず、ショウミー」


 なんてことはない。憎んでいるようだ。牧場は墨汁に染まり、くっさいメロンはソーダになった。ああ、そうだ。しっかと増した、鮮烈な日焼けのごとく。


 欠席とくしゃみが止まらないのだが、教師である彼はどうしたらよかったのか。性別を震災に練り固めて、キッシュを戻したはくちょう座は地球に衝突したらしく、体系的に考えられなくなってしまったのだ。竹を樫の木に変えてしまった森は、たちまち林になって曲がりくねった。なんて必死さが伝わってくるのだろう。リボンで首を絞められた。腎臓が脳になってしまったかのような、そんな気分でいたい。関節炎を絆創膏で治そうとするような、そんな愚行であると思いたい。しかし、答えはどこにもない。生徒会が滅ぼされたからだ。彼らは東京に巨大なパン市場を開くと言っていたから、要するに観光事業を始めたというわけなのだ。ケーキもお菓子もあるという、まさにワンダーランド。有史以来の空前絶後の崩壊寸前である。聖剣の誕生を祝おう。バンジョーイ。ほら、みんな恥ずかしがらずに、バンジョーイ。


 アンモニアに水素を四つほど添加したような事象が今夜起こるらしい。いわゆる臨時集会であるが、後生だから出たくないと佐藤は言っていた。なぜなら大魔王から小魔王に転職したからであり、よき摩擦が起こらなかったからだ。ポリエステルをシルクにするくらい難易度が高いと言っていた。レベルアップはプレイヤーに任せるべきだが、武器の購入は自分でやるべきだ。というわけでこの聖剣は没収!


 向かいの降雪は、まるで天にも昇るような放送事故であった。雪が空に昇りきれずにいるらしいので、佐藤は「ちちんぷいぷい、うりゃー」とクソみたいな魔法を唱えてうっかり世界を崩壊させてしまったのだが、謎の女性の小指でつつくと復活した。しかし聖剣は折れたので、村人は村を燃やして空に昇った。ふりかけのように、踊り子が自分の血小板を取り出してニコニコしていた。そういえば、国王はとても抹茶を好む。


 おしべがめしべに変わりゆく。酸っぱいレモン色のリンゴ味のソイソース。溶けていくのは銀メダルで彼らは大声で泣き叫んでいた。始末の悪い小便小僧を根絶やしにしたいので、佐藤はバク宙しながら雲を割り飛行機をぶったたいて火星に乗って地球を眺めながら、太平洋めがけてダイブしたが自由落下しないことをすっかり忘れていたためにぷかぷかと宇宙をさまよって太陽系から出て行ってしまった。追いかけた私も遭難してしまったが、遭難先で佐藤に出会ったからそこで二晩ほど過ごし、そういえばどうして二晩過ごせたのかと疑問に思っていると、ここが博物館にあるプラネタリウムであることを思いだした。これはつまり夢オチという奴なのだが、リアルな夢を見たあとのこの結末は何とも目覚めの良いものである。後世に伝えたい。


 誠実そうなせんべい汁を飲み干すと、腹から穴が空いてせんべいが漏れ出てきた。佐藤はそれを両手ですくい取ると再びせんべいの形へと戻していった。湿気の強い日本で、胃酸をくぐり抜けた米の塊を、よく復元できるものだと感心していたのは、隣に座っていた例の特殊な小指の持ち主である女性だった。ある種のせんべいパラドックスというものに直面しているようだ。これは帰ったら日記に書き留めておくべきだと思った私である。




 さて、次はどうしよう。どこで妄想を繰り広げればいいか。やっぱりシャワー室が一番かな。それとも布団の中?

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