第四話

 迸るメガネ、厚い黙示録、ヘーゼルナッツを食らうオクラホマミキサー、チェンジアップに翻弄されるブーメランジャケット、意地汚い先輩社員はいったいなにを思っているのか。枕投げを堪能するリポーターを勘違いしていた葛餅。缶蹴りで一番になれたので今夜はパーティーだと宣言したあいつが死んだ。佐藤博士をフライトで案内するフランスパンを、感動的な瞳で見つめている東の国の魔女。そこはとうてい行き着けるはずもない場所だった。ロシアンルーレットでさえ、朽ちているのだ。商売道具にはなるようだが。


 形式主義的な考え方に捉えられると硬度が上昇する。行き着く先はインドール酢酸だと当時のヨーロッパ人は思ったらしいが、なんと行き着いた先はフランクフルト上空だったとは、これはおそらく歴史には残っていない。鍾乳洞に入ったマグマは、やがて空から降ってくると言うが、いったいこの世界はどうなっているのか。解明する手がかりは、BBCでも見ていればわかるだろう。ユーモアの欠片は、すぐそこまで迫っている……!


 レントゲン写真をぶん投げて、ミカンの腐りそうな臭いを嗅いでいると、レントゲン写真が心霊写真へと進化していたので、佐藤は大笑いした、土地法の文献には残されている。本当だろうか? 調査員を派遣する必要があると思われたので、正月に一緒におせちを食べた仲であるウルトラマンを召喚した。彼に寄れば、キリンを食らったのは野原だが、山椒を舐め回したのはシュワッチ、だそうだ。よくわからなかった。


 ヨダレの出そうなほど美味しそうな甘栗をリスが持って行ってしまった。ふざけんな、ととなりのカミナリ親父が出てきたが、くるぶしを痛めて引っ込んでいった。御成敗式目が読みたくなったのかもしれないお坊さんに渡したのは旧約聖書であったが、そのとき裏庭に埋蔵されていた小判は光り輝いて自分の存在を主張していた。それに気がついたのは嵐の前兆であり、吹雪の夜明けであり、交通事故が起きたのはつい昨日のことである。色紙が一杯になってしまったので次のページに行こうとしたが、色紙に次のページなんてないことを思いだした佐藤は、君がもしお兄さんになれたのなら、私はお姉さんになるよと呟いた。正真正銘なにが言いたいのか、よぉく理解に苦しむ内容だ。


 反旗を翻して元に戻すと裏返しにしてひっぺ返した。両耳をつまんで耳を澄ますと耳たぶがオーケストラを奏でていた。どうやら、世紀末は足音を立ててすぐそこまで迫ってきていると誰かが噂していると隣の人が言っていた、という話を聞いたらしい。晩ご飯は朝ご飯に変わっていた。千変万化、諸行無常。


 養生テープで口をふさがれた。アリゲーターはお腹を空かせ、ヒマラヤ山脈は右往左往している。シャンパンを楽しみたいのだが、養生テープをガムテープに変換させられるだけの能力は、当然佐藤にはなかった。次第に雲が増えてきた。アスファルトが割れた。ゲルマン人がどこかで大移動を始めているのかもしれないと、屈折率が高い声でのたまった。その顔には、皮脂の汚れがありありと浮かんでいた。もうすぐ、……死はすぐそこだ。


 キッズルームを破壊した教頭先生が、今度は病院を食っちまった。偉い騒ぎだと思ったものの、佐藤はその理由に納得した。教頭先生はお腹が空いていたのだ。人間欲求には抗えないのは仕方がないと、街の住民は見て見ぬ振りをしたから、その年病死者が偉いことになった。佐藤は苦しくなった。どうして……どうしてこんなことに!


 翌日佐藤は足を痛めたので病院へ行った。どうやら頭が痛いらしい。唇が腫れてきた。蜂に刺された内股は、次第に治ってきていたから医者に別れを告げて、ヘリポートへ向かい、ドラゴンに乗った。あっけない、これがまさしく風とともにランデブーという奴だ。アバンチュールだったか。墜落した。


 先天的な後天性に悩まされていた私は、フジツボというツボを押していた。意味がないようだ。クリンチはクランチに似ている。どちらもチョコレートという意味で相違ないが、唯一違う点があるとすれば、それはクリンチが右派で、クランチが左派ということだ。生理食塩水はいつでも中立を貫いている。そう、永世中立食塩なのだ。


 ボウリング場が駐車場に変わっていたことに気づいたあの年、佐藤は結婚した。心の目ん玉が研究者会議に出席したいと申していたので、仕方なくそうしたらしい。だが始めはうまくいかず、卵の黄身を残すハメになった。心配はご無用! なぜなら彼が佐藤だからだ。


 みりんはみりんでも食べられないみりんはソーセージという。発言権を奪われたソーセージはリンゴを誤魔化し、ハムをちょろまかす。するとコンクリートに毛穴が開いて、牛乳がチロチロと流れ出てくる。スプリンクラーが作動した。辺りに血の雨が降り注ぐ。なるほど、生徒会のやることはいつでも変わっている。なに、浮き輪の空気が抜けただと?


 消しゴムと鉛筆は同じシャーペンに属しているが、ごまと油は水と油のように仲が悪いのはどうしてだろう? いつの日にか佐藤は涙を流したと思ったら、食用油だったことがあるので、これについて真剣に考える必要があったのだが、アリストテレスとアリスタルコスとタレスと独裁者を混ぜ合わせても答えが出そうになかったので、翼を傾けてなんとかこれを回避しようと思ったのだが、ケチャップが出ない、というギリシア悲劇に襲われた。レントゲン写真はそれを証明していたらしい。今は、真っ白い灰と化した。まるで、そう、佐藤の心のように。


 生きる糧は神棚を紹介するおじいちゃん、従って二番目のサルは朽ちたサルであると言うが、血小板を持っていないが為に追放された。石狩鍋を温度計に突っ込むと、摂氏九百度を示し、さぁこりゃたいへんだ、死人が出始めたときにアリスタルコスがやってきて地球の円周は一メートル七十センチであることを告げた。佐藤は爪楊枝を投げ、そいつに指を突きつけてにやりと笑った。どうやらお前がサクラだったようだな。狼のように、ケツを上げてフォンダンショコラを味わったら、ガトーショコラだった。


 失笑。パン屋のお馴染みのドラッグは、売り切れていたからハチミツを買った。笑顔を見せた店員は、実はコンビニ店員で、昨日はパン屋の店員をしていたそうだ。イリジウムとイッテルビウムと酸素と結合する感じか、と佐藤は深くうなずきながら理解を示した。ドーナツはスティック状をしているのが一般的だ、と彼は思った。


 粘土板を丸めて、ダイヤモンドを生成する技術を得たので、秋の黄金色に輝く小麦畑にそれを投げ捨てる。無礼なその態度に、彼はしょんぼりした。レスキュー、へい、へいへい、えすおーえす、えすおーえす? ありがとうございます? ノンノン。ノーセンキュー、バァイ! 佐藤は息絶えた。


 次の日佐藤は、レパントの海戦に参加したつもりが、まだ紀元前の名前も知らぬ戦いであることに気がついて、槍を振り回したのだが、失敗して空を割ってしまい、そこで世界は悲鳴を上げたから、佐藤はとてもじゃないが自分のやっていることに理解を示さなくなっていた。前方不注意には気を付けよう。


 ベーキングパウダーがはみ出し者になりかけているのでここらでバルコニー辺りから叫んだ方がいいんじゃないかと思った。薄力粉とオーデコロンがヤシの実を食らう瞬間に立ち上る歯ブラシの毛先と一緒のことだ。あの星は扁桃腺をやられているみたいだ。そして愉快に泣き叫ぶ、タコライスの眉間。


 赤い服のレスメーディアという女性がやって来たのは今朝である。彼女は赤の蛍光色の軍服を着た少女で、高い身長とその邪神の化身のような三白眼でこちらを睨みつけてきた。佐藤が扉を半開きにした状態で彼女をぽかんと見つめていると、ふいに彼女は魔女とも聖女ともつかぬ慈悲深い笑いを浮かべ、右手を振り上げたので、彼は警察を呼ぼうと廊下を走ったのだが、靴下が床に滑って転び、追ってきたレスメーディアは彼の背中にすかさず馬乗りになって、巨大で硬いクレヨンを昆虫を標本にするように彼の肉体に差し込んだ。ここまで一秒とかかっていない。十二色のクレヨンは墓石のように突き立ち、その先端では佐藤から吸い上げた血液がドボドボと溢れ出し、フローリングは真っ赤な惨状と化した。レスメーディアは妹のフローディアを虚空から呼び寄せ、彼女に鉛色の呪文を唱えさせると、辺りは鉛色と化した。窓に反射している植木鉢のサボテンは鉢から抜け出し、森の球形ゴキブリは紫色のチューイングキャンデーを吐き散らかし、佐藤は発狂して息絶えた。レスメーディアとフローディアの二人は、その場にサクラの枝葉を置いて玄関扉を蹴り飛ばして出て行った。レスメーディアは地中に、フローディアは虚空へと溶けていった。庭の松の木はほんの少しだけ揺れた。清少納言なら、この現状を見てなんと読むのだろうかと自問したところ、佐藤は、これは民間事業に委託すべきと考えた。これもある種のオリエンテーリングなのか? 


 レスメーディアはしたり顔で、また歩道を歩き、換気扇の唸る路地に入ってタバコを吹かした。ここから見える星はきれいだと思ったので、彼女は手を伸ばしてイトカワを掴んで引き寄せると、おっとこれは「はやぶさ」の仕事だったと思い直してその辺に捨てたら、うっかり排水溝に挟まってしまった。それにしてもいい夜だ。レスメーディアは赤の軍服をなびかせて、背中に携えたレイピアに触れた。何者かの気配を感じたのではなく、そこにあると確認しただけだ。腰のナイフもちゃんとあった。濃藍色の長い髪をなびかせて、そこをあとにする。佐藤は布団を押し上げて、これが夢であることを確認した。レスメーディアは実在しない。そうだ。彼女はパラレルワールドの存在であって、決して現実の人間ではない。真夜中のレスメーディア。心肺停止で背後に迫る。


 ドリアンのような音がしたそれは、なんと佐藤だった。プールサイドで寝転ぶ佐藤は、伊勢エビを食らって笑い転げ、壁画を仕上げたら六十ドルで売れたそうだ。国を挙げての大プロジェクトみたいに思えたけど、あくまで佐藤の趣味らしい。適地適作、あるいは四苦八苦と言ったところだろうか。形而上学的にはあり得ないけど、数学的には可能なのである。神経は穏やかに丸まって、ダンゴにされた。毛虫よりもムカデの方が嫌いだ。


 


 高校生の身の上、テストのための勉強は欠かすことはできない。夕食後のコーヒーがあまり効いてくれないので、私はパーカーを着て近所のコンビニエンスストアへと向かった。その途上、みごとに不意を突かれ口をふさがれそうになったので、愛用の木刀でふさいできた奴の顔面を強打してやると、彼は罵声だけ残して住処である路地裏へと消えていった。まったく、この街の治安はどうなっているのかと問いただしてやりたいが、ご生憎、私は警察よりも強いんじゃないか? しかし車の行き交う音を聞きながら、喫煙スペースでタバコを吹かすおっさんの隣で月を見上げていると、人生について書き綴る時期が来ているんじゃないかと思ってしまう。いつ、どこで、なにが起きるのかわかったもんじゃない。たとえば通り魔に襲われたり、急に体重が消えてからだが綿のようになり空へ飛んでいってあげく空中で燃え尽きる、なんて運命も私の知らぬ間に迫っているのかもしれん。いや、それともこれはただの下らん妄想の一種に過ぎぬことなのか。レスポンスは、隣のおっちゃんの白い息を吐きつける音だけだ。

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