第15話 換金


「にゃっ!?」


「どうした?」


並んで歩くリルが鼻を上げて立ち止まる。


「リトュフの匂いがするにゃ!」


「ホントか!?どこだ!?」


「こっちにゃ!」


俺は走り出したリルの後を追いかけた。




「おお、これがサラさんの言っていた洞窟か」


鼻をひくつかせるリルに付いて行くと、森の端から下に広がる大きな崖の上に出た。


いつの間にか結構な高さまで登ってきていたようだ。


下から登るには大変そうな崖だが、上から見ると所々になだらかな斜面があってどうにか下っていけそうだった。


「クンクン・・ご主人様こっちにゃ!」


「おう」


リルはポンポンと跳ねるように駆け下りて行く。


そして入り口の小さな洞窟の前で立ち止まった。


「ここにゃ!」


「おう。・・暗いなー」


リルが指差した洞窟の中は暗く、広さが把握出来ない。


「ホントにここにあるのか?」


「匂いでわかるにゃ!早く行くにゃ」


「うーん。わかった、ちょっと待て」


先を急ぐリルを制して、俺は来る道中で作った松の木の松明に火を付ける。


「にゃ!匂いが混ざるにゃ!」


「えっ・・これだめか?」


「ダメにゃ!わかんなくなるにゃ」


「でも火がないと探せないじゃねーか」


「俺が探すにゃ!ご主人様は洞窟の前でバカみたいに待ってたらいいにゃ」


「バカみたいにってなんだよ!」


「じゃあ行ってきますにゃ!」


「お、おい、一人で大丈夫か!?」


「平気にゃ!リルは強いにゃ」


俺はどうしようか悩んだ。リル一人で危険は無いか?


しかしリルはそんなのお構いなしに、一人でズンズンと洞窟の中に入って行く。


俺は仕方無く、洞窟の前に座ってリルの帰りを待つ事にした。


「にゃあーにゃあーにゃにゃあー」


鼻歌が洞窟の外まで聞こえる。食材が近いからかご機嫌なんだろう。


「にゃ?」


ん?


「・・・」


「どうしたー?」


「にゃにゃにゃ??」


「なんかあったのか?」


「にゃああああ!」


「おい!リル!?大丈夫か!?」


「大丈夫にゃ」


なんだこいつ!?


「リトュフはあったのかー!?」


「にゃ」


「どっちだよ!?」


「心配しにゃくて大丈夫にゃ」


「いや、心配ってゆーか・・」


・・・・


こいつもしかして先に食べてない?


・・・


・・


「おいー、どうなってるー?」


「大丈夫にゃ。もう少しにゃ」


もう少し?


「よーし!ご主人様ー、もう戻るにゃー」


「わかったー!」


なんか思ったより時間掛かったな・・



そしてリルが戻ってきた。両手にはサラさんが教えてくれた黒いリトュフが沢山抱えられている。


「おお!これが黒リトュフか!?」


「そうにゃ!沢山取ってきたにゃ!」


「でかした!でもこれちゃんと美味しかったか?」


「美味しかったにゃ!」


「やっぱり食べてたのか!」


「にゃ!?誘導尋問にゃ!ずるいからノーカンにゃ!」


「どっちにしろホッペに食いカス付いてんだよ!いくつ食べたんだ!?」


「黙秘するにゃ。もう騙されないにゃ!」


「俺が悪いみたいに言うな!ったく・・でもこれだけで目標の額に行くかわかんねえな・・」


リルの持ってきたリトュフは8コだった。


「ご主人様大丈夫にゃ!」


「なにがだ?」


「他の洞窟にも沢山ありそうな匂いにゃ!」


「まじか!」


「まじにゃ!」


「よし!取れるだけ取ってきてくれ!」


「にゃあ!!」


こうしてリルは片っ端から洞窟に突撃し、戻ってきては10コ近いリトュフを置いていった。


やがて周囲の洞窟を制覇する頃には、100コ近いリトュフが俺の手元に集まっていた。


「このくらいあればいいにゃ?」


ようやく疲れを見せ始めたリルが、小山のように積まれたリトュフを指さす。


「そうだな。これ以上は持ち帰れないし。今日はここで野宿して、明日街に戻ろう」


「それがいいにゃ」


「じゃあ晩飯食うか」


「にゃ!晩御飯は何かにゃー」


「ここは豪華に黒リトュフを食べよう!」


「にゃ・・」


「あれ?嬉しくないのか?」


「もう飽きたにゃ」


「お前さては最初だけじゃなくて洞窟入る度に食ってたな!」


「塩が欲しかったにゃ」


「聞いてねえよ!いや俺の話を聞け!」


「ご主人様も遠慮せずに食べたらいいにゃ」


「くっ・・釈然としねえ」


「リルはもう眠いにゃあ」


リルはそう言ってあくびする。


「食べ過ぎだ!」


「一眠りしてもいいにゃ?」


「はあ・・じゃあ俺は晩飯食うからな」


「にゃ」


リルは頷いて大きなあくびをすると、俺の横に来て地面で丸くなった。


「お、おい。ここじゃ下が痛いだろ。もっとどこか・・」


「ここがいいにゃー」


リルはそう言って目を閉じる。


「・・・勝手にしろ」


俺はぶっきらぼうにそう言った。


なぜかわざわざ隣に来て寝ようとするリルを見て戸惑っていた。


「スースー」


リルは直ぐに寝息を立て始める。


いやいや、寝付き良過ぎだろう。


俺は焼いた黒リトュフをかじりながら感心した。


とゆうか、こいつの距離感の近さは何だろう。すぐに掴みかかったりしてくるし・・


普通の人間じゃないから・・なのだろうか?


それにしても・・・


俺はリルに聞こえないようにため息をつく。


こいつの思考回路は一体どうなっているんだろうか。


そもそもなぜリルは俺と行動を共にしたがるのかわからない。


流されるまま一緒に行動しているけど、今回の事が終われば、やっぱり・・・


俺は今後の事を考えながら既に深い眠りに入ったリルの顔を見る。


鼻が赤いのは匂いを嗅ぎすぎたせいだろうか。それにまた口元に食いカスが付いている。しかし・・それを差し引いても綺麗な顔だ。


・・・


俺はリルに上着を掛けると、ひとり火に当たりながら、リルと離れる方法を考えた


◇   ◇   ◇   ◇


「わっ!黒リトュフがこんなに!」


「頑張ったにゃん!」


台の上に山盛りになった黒リトュフを見てリオンさんが感嘆の声を上げる。


俺達は無事ベネビス山からバリルに戻り、そのままリオンさんの元に直行していた。


「凄いですよ!黒リトュフは超高級食材なのにこんなに沢山!一体どうやって見つけたんですか?」


「いやー、それが運良く黒リトュフの生えてる場所を教えて貰う事が出来て」


「えぇ!?ホントに!?」


リオンさんは目を見開いて驚いた。


「は、はい」


「凄いですね」


「なんでにゃん?」


「普通は黒リトュフの生えてる場所は教えたりしませんよ。ましてやこんなに沢山生えてる場所なら一財産ですから」


「優しい奴だったにゃん!にゃーご主人様?」


「そう・・だな?」


俺は曖昧に頷いた。


言われてみれば、確かに変だ。命を救ったお礼ならともかく、逆に命を救って貰って更にお宝の場所まで教えてくれるなんて・・?


そう言えばサラさんも普通の人間とは違った。


この世界に来ていろんな生き物を見てきたせいで特に驚いたり怪しんだりしなかったけど、サラさんは一体何者だったのだろう。


「これ、全部うちのお店で買い取っていいんですか?」


リオンさんが目を輝かせながら聞いてくる。


「え、ええ。お願いします。いくらくらいになります?」


「そうですね、滅多に出ない食材ですし、うちだけに卸して頂けるのならうちのお店の目玉としてメニューに乗せれますから・・1個5万エニー。全部で500万エニーでいかがでしょう?」


「よし!全部売ったにゃ!」


「おおい!いや売るけど!」


「あ、ありがとうございます」


「いえいえ、でもホントにその金額でいいんですか?」


思って居たより全然高い金額だ。


「はい!普段ならうちだけでは捌ききれないかもしれない量ですけど、お祭りが近いし逆にありがたいんです」


「成程。じゃあ、商談成立で!」


俺は心の中でガッツポーズをした。


「はい♪では代金持ってきますね。お待ち下さい」


「はい!」


俺が頷くと、リオンさんはお店の中へ向かった。


「やったにゃご主人様!これでお金持ちにゃー!ぱーっと美味しい物食べるにゃ!それからそれから」


「待て落ち着け!」


「にゃん?」


「いいか?一度に大金を手にするとそうやって使ってあっという間に無くなっちまうもんなんだ。だから一度冷静になるんだ」


「にゃ、にゃるほど!」


「それに悪いが300万エニーは使い道が決まってるんだ」


「にゃ?」


「ま、後で説明する。まずはちゃんと代金を受け取ってからだ」


「わかったにゃ!」


リルはそう言って右手をオデコに斜めに掲げた。



「お待たせしました-」


「はい!」


すぐにリオンさんが分厚い封筒を持ってきた。


俺は渡された封筒の中を改める。確かに、一万エニーのお札が500枚入っているようだった。


「ありがとうございます!これでなんとか目的を果たせそうです」


「こちらこそですよ!・・目的って?」


「あはは。まあちょっと・・色々有りまして」


「そうなんですか。よくわからないけど、良かったです。そうだ、この黒リトュフを使った料理、食べて行かれませんか?お店で出そうと思っているメニュー考えたんです」


「ご馳走になりますにゃ!」


「まてっ!」


「にゃっ!?」


「お金入ったんだからちゃんと払って食べるべきだろ!」


「そ、それはそうにゃ」


「えっ、いいですよ?せっかく沢山取ってきて貰った事ですし」


「いやいや。そこまで甘える訳には!それに今から急ぎの用事があるんです。なので、その用事が終わったらまた寄らせて貰っていいですか?」


「そうなんですね。では腕によりをかけてお待ちしていますね」


「えっ!?今食べにゃいの?」


「そう。先に用事を済ませるから」


「にゃああ お腹減ったにゃあ」


「お前いつもお腹減ってるだろ。それにほら、空腹は最高の調味料って言うだろ」


「にゃに言ってるのかわかんにゃい」


「いいから行くぞ!」


「にゃあ」


俺は座り込んだリルを強引に立たせた。


「じゃあリオンさん、また来ます」


「はい。お待ちしています。リルさん、ご馳走作って待ってますからね!」


「今食べたいにゃ・・」


「ご、ご馳走は作るのに時間が・・」


「そうだぞ、だからまた後で!な」


「しょうがにゃいにゃ」


「よし。じゃあすいません、また」


「はい。いってらっしゃい」


リオンさんは家の出口まで俺達を見送りに出て、手を振ってくれた。


俺とリルは何度も手を振り返してその場を後にする。



「ご主人様ーそれでどこ行くにゃ?」


「北の湖だ」


「北の湖?泳ぎに?」


「なんでだよ。ちょっと会わなくちゃいけない人がいるんだよ。まだいるといいんだけど」


「そうにゃんにゃー。それじゃあお弁当沢山買って行くにゃ」


「そうだな。それくらいなら・・」


「にゃ?」


「いや、よく考えたら別にリルはここで待ってても良いんだぞ」


もし弟の居場所が分かれば、その足で向かう事になる可能性が高い。


ならここで別れた方がいい。


「いやにゃ」


速攻で断られた。


「な、なんで」


「俺の事置いて行くつもりにゃ?」


!?


「いやいや!ちゃんと戻ってくるし」


「にゃら一緒に行ってもいいにゃ?」


「え・・まあ・・はい」


「よし!じゃあ早速お弁当にゃ!ほら行くにゃあ!」


「わかったから。腕ひっぱるな」


リルは俺の腕をしっかり掴んで歩き出す。


どうやら、別れるのは簡単では無いようだった。



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異世界戦記ー弟を取り戻せ!剣道部ですがなにか? 梅ちゃん @fujiki2018

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