#32 鍵 後編
デュムーリエ警部たちは、現在劇場周辺に張り付いている警官たちの今の状況を確認してから署に戻るのだという。
別れ際、関係者出入口のところまで一緒に歩いてきたところで、アーネストが振り返って警部に尋ねた。
「ジャン・モニオットの遺体が発見された状況について、もう少し詳しくお伺いすることはできますか?」
「それはいいが……
今の所我々も報道発表済みのことしか、把握しとらんなぁ」
デュムーリエが言うには、捜査担当は別の班なのだという。
「いえ、多分、そんなに難しいことじゃないんです。
新聞記事では、モニオット氏の遺体発見について『7日夜』と記載されていたのですが、正確に言うと何時頃なんでしょうか」
「ああ。あれは確か21時半過ぎだったな?」
デュムーリエ警部の言葉にフィデール刑事が頷いた。
アーネストが質問を続ける。
「死亡推定時刻というのは出ていないのでしょうか」
詳しい結果はまだ聞いていないということを前置きして警部が言うには、遺体を見たところでは、川に遺棄されてから1日も経ってないかったんじゃないかとのことだった。
だから、6月7日11時、アニー・ラヤールが天国劇場で見かけ人物は、ジャン・モニオット本人とも別人とも言えない状況なのだという。
「ただ……」
デュムーリエ警部が続けた。
「あくまでも死因は拳銃に撃たれたと見られる胸部外傷だ。川には死んだあと遺棄されたと見られる。仏さん、水は飲んでいなかったらしい。死後硬直の状況からすると8時間以上は経っているようだが、水に浸かっていたのもあり正確なところは不明だ」
「
「まだ進んでいなかった。
だから、発見まで死後1日程度しか経っていなかったんじゃないかと思われるのだが……」
「微妙なところですね」
私の相槌に二人の警官が頷いた。
アーネストが続ける。
「ジャン・モニオットが持っていたという、保管庫の鍵というのはあったのでしょうか?」
「それについては初耳だ。
遺留品の中にそんなものはなかったはずだ」
デュムーリエ警部は神妙な面持ちで顎をさすった。
「もう一度川をさらう必要があるんでしょうか……」
フィデール刑事が警部の顔を伺っているが、警部は黙ったまま思案しているようだった。
「それは検死結果を待っていいんじゃないでしょうか」
アーネストが意見した。
「この考え方は確証がないので、あまり好きではないのですが……
ここまで聞いた話だと、ジャン・モニオットにマルタン・ロンダを殺害する合理的な理由があるとは思えません。
ファビオ・ガラヴァーニの死亡推定時刻については、6月5日から6日とおっしゃっていましいたね。ファビオへの復讐を終え、自分が報復を受ける可能性がある状況で、マルタン・ロンダを毒殺しようとする動機が見えないんです。例えば、マルタン・ロンダがマフィアと繋がりがあったといった話があれば別かもしれませんが。
……余計なことを言って、すみません」
デュムーリエ警部は考え込んだふうで黙ったまま二度深く頷いた。
フィデール刑事はふうとひとつ溜息をついて、警部から目線を逸らせた。
「話は変わりますが……。
ジジ・デ・ガットの事情聴取というのはすでに行っているのでしょうか」
「いや……」
デュムーリエ警部が口を開いた。
「ジジ・デ・ガット本人には行っていないと聞いている。
ジジ・デ・ガット配下にジャンノット・リッツォーリという男がいるんだが、そいつとの取引を進めているらしい。実行犯が出頭する可能性がある」
新しい情報に興奮した私は、思わずアーネストの方を振り返ったが、アーネストは灰色の虚ろな眼差しを警部に向けたままだった。目の前の警官二人に視線を移すと、フィデール刑事と目が合った。フィデール刑事は私の不安そうな顔を見て、うんとひとつ頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます