#30 強い殺意

「ちなみに、念のためひとつ確認ですが……」


 警官二人が帰り支度をし、ソファから立って玄関に向かおうした時、アーネストが口を開いて引き留めた。


「ロンダ氏の死因は、短剣で腹部が刺されたことによる失血死なのでしょうか」


 質問の意図が分からなかった。

 私たちは天国劇場テアトル・ド・シエルで、エドモン・ティオゾが、マルタン・ロンダを刺し殺した場面を観たはずだ。


 フィデール刑事の顔色が変わる。上司の方を振り向いた。


「……どうして、その質問を?」


 デュムーリエ警部は、質問に質問で返した。

 無表情のまま、アーネストをじっと見つめている。


「亡くなるのが早すぎるなと感じていて……他にお気づきのことがあるんじゃないかと。

 例えば、何かの薬物が検出されたであるとか。そろそろ分かっているころなんじゃないかと思っていたんです」


 ――アーネストは毒殺だと言いたいのか。


 私はアーネストの方に向けていた目線を再び、デュムーリエ警部に戻した。

 警部は無表情のまま


「短剣にはニコチンが塗られていた」


 と言った。


「ニコチン?」


 鸚鵡返しに尋ねる私の方を振り向くことなく、警部は続けた。


「ロンダ氏の死はニコチン中毒によるものだと判明している。

 犯人には、天国劇場の舞台で、確実に被害者を仕留めようという、明らかな強い殺意があったと推察できる。

 このことは……短剣にニコチンが仕込まれていたことは、エドモン・ティオゾは知らなかった」


「なるほど。

 だから、今日警部はこちらに来られたんですね。

 ティオゾが、真犯人ではないことが確定したから、再度証言の裏取りに」


 アーネストの言葉に、警部はゆっくり頷いた。

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