#36 薔薇と毒薬 ①

 いつも通り8時頃目覚めた私は、ベッドから起き上がると、洗面所に向かった。

 自室を出て階下に降り、リビングに行くと、すでにアーネストは起きていて、クロワッサンを片手に新聞を読んでいた。テーブルには紅茶がのっている。自分で淹れたのだなと思った。

 アーネストが朝から起きていることは珍しいように感じるが、ここ数日は早い。実は朝が苦手というわけでもないんだなと、最近は思っている。


「何か、めぼしい記事、あった?」


 顔を洗ってきた私はバゲットを切りながら、アーネストに尋ねた。

 すでにクロワッサンは手元からなくなっている。


「ジャン・モニオットの死亡時刻は6日の午前2時らしい」


 アーネストが新聞を折り、三面を表にして私に手渡してきた。

 「遺棄容疑25歳マフィアの男逮捕」の文字が目に入る。私は返事もせずに、その記事に目を通した。


「この記事のとおりなら、やはりアニー・ラヤールが目撃した人物というのは、モニオットとは別人ということだな」


 確認する私に、アーネストはゆっくりと頷いて


「……今日、午後、時間あるか?」


と尋ねてきた。


「あるけど……どこへ行くんだ?」


 私は声を抑え、できるだけゆっくりと発音するように務めた。

 気持ちがはやる。

 切りかけのバゲットはカッティングボードの上に載ったままだ。

 

「まずは、天国劇場テアトル・ド・シエルへ。

 それから、ラシェル・ボネールの家に行こう」


 アーネストははっきりと答えた。

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