#41 Chemin des fleurs ― 花道 前編

「私を、警察に連れて行くの?」


 ラシェルの言葉に、アーネストはかぶりを横に振った。


「さっき申し上げたとおりです。

 私にはそれほどまでの正義感はありません。

 それに、この話は虚構フィクションだったはずです。

 です。

 警察はこんな作り話には取り合わないでしょう」


 ラシェルは「そうだったわね」と言って、口元に笑みをつくった。


「ただ……私たちが言う言わないに関わらず、遅かれ早かれ警察はこちらを訪れると思います」


「これから、私、部屋に戻る時間はあるわけね」


「ええ。

 部屋に戻って、毒を煽るぐらいの時間は余裕で」


 アーネストの言葉にマリーが青褪あおざめた顔をして、主人のほうを見た。

 ラシェルは顔を強張らせ、アーネストを見つめた。


「でも……殺虫剤は害虫を殺すためのものです。

 薔薇自らを殺す枯らせるものではありません。

 美しい薔薇は、動じず、ありのまま。そこに咲き誇るから、美しいのだと」


 アーネストの言葉を黙って聞いていたラシェルはしばらく沈黙したあと、「ぷっ」と吹き出して言った。


「心配、ありがとう。

 でも……気障きざだわ。

 聞いてる私が恥ずかしくなるぐらいに」


 アーネストは顔色ひとつ変えず、いつもの調子で


「どうも」


 と返した。


 風が吹いた。

 優美な薔薇の甘い香りが薫る。

 ラシェルの淡い金色の髪プラチナブロンドの髪がなびく。明るい陽光を反射してキラキラと輝いた。


「この私が、服毒自殺をするとでも?

 仮に、私がモニオットになりすまし、短剣をすり替えてロンダ氏を殺害した場合でも、それはないわ」


 凛と背筋を伸ばし、真っ直ぐに正面を見るラシェルは、美しかった。

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