第5話 インペラートル・レックス

ヴェルルメイアについていくこと十数分。ツーマンセルは王宮に足を踏み入れることになった。

門衛はどうしたことかとヴェルルメイアを問いただしたが、ヴェルルメイアが「緊急の要件だ。皇帝インペラートルに謁見願いたい」と門衛に伝えたことで、これはただ事ではないと気付いたのか、門衛も慌てて固く閉ざされた柵を動かす。



王宮の中は、意外にも質素なものだった。

豪華な家具や装飾は一切なく、壁に掛けられているのは画家たちがこぞって描き上げた優美な油絵ではなく、もはや素人には解読もできないような崩れた字体で描かれた書の掛け軸であった。



皇帝インペラートルと呼ばれる人物は、書に通じている。

それどころか、現代のアストロン王国では書に関して皇帝の右に出る者はおらず、彼のその側面を知る者からは達人マイスターとも呼ばれている。



ヴェルルメイアは荘厳な扉の前で立ち止まり、アルティスの方に振り返る。



「ここから先は礼儀を欠くことのないようにお願いいたします」



アルティスは礼儀がわからなかった。

一度も王宮や寺院といった、礼儀を必要とする場面に直面したことがないのだから。



アルバートにはここが皇帝の間であることを理解するのは容易かった。

第一、アルティスは鈍感すぎる。ここが皇帝の建物であることは自明のはずなのだから。



ヴェルルメイアは扉を開ける。

しかし、皇帝の居室は二人が想像する斜め上を行くものだった。



皇帝の間は飾り気のない空間で、宝石や貴金属の一つ見えない。

ましてや、光り輝くものは皆無と言って差し支えない。



皇帝は玉座にふんぞり返る様子もなく、至って真摯な目で二人の来訪者を見つめていた。



「おお、あなたが民の命を救ったお方ですか」



皇帝は二人の前でお辞儀をした。

やはり国の頂点に立つ人なだけあって、その所作の一つに隙を感じさせない。



「お褒めにあずかり、光栄でございます」



アルバートは跪くように皇帝に礼を尽くす。

アルティスも見よう見まねでアルバートに従って跪いた。



「いやはや、この国を荒らす者を警察に代わって懲らしめるとは、なんということか。感謝してもしきれませんな」



皇帝――――レックス1世は民衆の心を掴むのが上手いといわれているが、これほどまでとは。ヴェルルメイアも瞼をそっと閉じて皇帝の態度に敬服するばかりである。



「そこでお二方にお願いなのですが、貴方たちにはこの町の治安を守っていただけますかな」



皇帝はこんなことを考えていた。



現在、アストロン王国は諸外国との関係が悪化している。いつ元首たる皇帝に刺客が向けられるかわからない。

そこで、「民衆に慕われる」ということを利用して、少年の姿をした手慣れの護衛を付けようとしていたのである。

事実、つい先日までアレクトロ・ヴェナトールという護衛がいたのだが、成長とともに少年の姿を失ってしまったために護衛を解任せざるをえなくなってしまったことも深く関係している。



そこで白羽の矢が立ったのがツーマンセルというわけである。



「どうです、お願いできませんかな」



二人の返事は早かった。

アルティスとアルバートは、ほとんど同時に言った。



「ぜひお願いします」

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TWO MAN CELL だのん @_Danon_

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