第4話 王都クレマンソー
クレマンソー。それは、新興国家アストロン王国の首都にして、最大の都市。
非常に豪華な王宮をはじめ、整然とする雰囲気が漂う議事堂、お世辞にも立派とは言えないがそれでも機能はしているビルがたくさん並んでいる。
ツーマンセルはそのたたずまいに、息を呑む。
アルカリ村にはなかったものが、ありえないほどに乱立している様は、田舎者の言葉を奪うのには十分事足りた。
「おい。すげーぞあれ。どうなってるんだよ」とアルティス。
「俺達にはまだわからないものがあるんだよ...」とアルバート。
このアルバートという少年、妙に大人びている。たびたび何かを悟るような言動を見せることがあり、そのたびにアルティスはアルバートのことをわけもわからず陶酔する。
2人が呆然と立ち尽くしているさなか、天から一枚の紙が降ってくる。
それは、彼らにとって、思いもよらぬ果報であった。
一枚の新聞。それも、号外。もっとも、上空から降ってきたということは誰かがばら撒いたものだということはわかりきったことなのだが、それよりも内容を見て2人は腰を抜かした。
それもそのはず、見出しには”連続殺人犯、ドーヴァーで逮捕”と書いていたのだ。
それも、車上荒らしや車の盗難などの事件が多発するガソリンスタンドのところで気を失って倒れていたところを現行犯逮捕されたとのこと。
もちろん、功労者はアルティスに他ならない。
ツーマンセルは、初手から大きな功績を挙げた。
まあ、一方のアルバートはスピード違反でしょっぴかれたのだが...
「わお、これはすごい...いったい誰がこんなことをしたというのやら」
わざとらしくアルバートの方をちらりと見やる。おそらくアルバートに褒められたいのだろう。
しかし、アルバートの返しは辛辣極まりなかった。
「俺が後ろから止めを刺していなければ今頃お前は棺桶の中さ」
そう言うだけならよかったのだが、このあとアルバートは連続殺人犯を殴りつけた鞄でアルティスの頭をもひっぱたいたのだ。
これにはアルティスもたじたじ。訳も分からずいきなり頭を殴られたのだから、なにがあったのかわからなくて当然だ。
にもかかわらず、アルティスは仕返しをしなかった。
なぜか?それは正義のヒーローならヒーローらしく振舞っていないとアルティス自身が気が済まないからだ。
そうこうしているうちに、一人の初老に差し掛かるくらいの紳士がこちらに向かって歩いてくるのにアルバートは気づく。それが政治家のヴェルルメイア・ペイトリアークであると理解するのに一秒もいらなかった。
ヴェルルメイアは開口一番に予想もしなかったことを言った。
「あなたが連続殺人犯を捕まえたお方なのですね」
なぜ、それを知っているんだ?
二人の感情は、それに尽きる。
実際のところは、彼の弟がドーヴァーで働いている警察官で、連続殺人犯を捕まえた張本人であった。それを兄であるヴェルルメイアに伝えただけの事だったのだ。
ヴェルルメイアは口元に笑みを浮かべて、話を続ける。
「細かい話は後ほど致します。よろしければ、王宮に来ていただけませんか」
あまりにも突然すぎるその打診に、ツーマンセルは動揺する。
しかし、アルティスの、アルバートの本能が、行かなければという思いに駆られているということに、己は気づいていた。
2人はバイクを近くの駐輪場に預け、ヴェルルメイアについていくことにした。
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