第2話 鑑定のスキル持ちとボク。

荒野にて。

眼鏡をかけた女性剣士がいる。赤く長い髪だ。その髪に合わせたのか、赤いレザーアーマーを身につけている。トリス王国の筆頭騎士団に所属している事がわかる。

しかし今、彼女は左足を失い、盗賊たちに殺されそうになっている。


「力が欲しい」彼女、エリシアはつぶやいた。「もう片方の足もらうよ」

「いいわ」と、エリシアは脳内に聞こえる声に答える。


「きゃはっー」と、ピエロの仮面を被った盗賊の1人が、短剣を振り下ろす。その短剣は寸分たがわず、エリシアの脳天を貫こうとしていた。

「ひゃ?」ピエロの仮面を被った盗賊の男は間抜けな声を出す。エリシアの脳天に突き刺さる手前で短剣が止まったからだ。

周囲ではさらに不可解な事が起きる。仲間の盗賊たちの首が消えて行く。

「ひゃ?」

エリシアはスキル、鑑定を起動させた。

「結界魔法陣?誰がこんなものを…」

鑑定には結界魔法陣としか表示されない。おかげで短剣は止まったようだ。

ピエロの仮面を被った盗賊の男はエリシアを睨む。

「きひゃま、何をした。何を呼んだ!答えろ!」

「私にもわからない。誰かに見られている…そう感じたから、力が欲しいと」

「くはぁ。答えになってない。くそ、くそ、くそ…どこからだ。どこからだ。どこからだーーー」と、ピエロの仮面を被った盗賊は叫ぶ。

「何に怯えている?」と、エリシアは疑問をそのまま口にしてしまう。

「おれっちはわかる。これは悪魔だ。それも生半可な悪魔じゃねぇ。相当厄介な悪魔をお前は呼んでしまったんだよ」

「私が悪魔を?悪魔は感情を好む。感情を味わうために人間という器を食べる。はは、そうか。食べられるのか、残った右足を」

「出てこい、悪魔」と、ピエロの仮面を被った盗賊は短剣を地面に突き立てる。黒い血が噴き出る。いや、黒い煙のようにも見える。

「すごいねぇ、ボクの場所わかったんだー」と、ボクはピエロの顔の半分を食べた。

「うぎゃぁああああああ。ひっ、はぐ、あ、ああ」と、ピエロの仮面を被った盗賊は尻餅をついている。

「…」エリシアは言葉を発する事ができない。おぞましい。そう思ってしまった。背丈だけ見れば14歳ぐらいの男の子に見える。金色の美しい髪は肩で切り揃えられている。着ているローブにしても生地の良いモノだ。ただ目が無かった。それも両目ともに。

「お兄さんもなかなかおいしいよ」と、ボクはお兄さんに近づく。顔が半分だけになったお兄さん。おしっこを漏らしているねぇ。震えながら後ろへ下がっている。いいねぇ。

「や、やめ。やめてくらは」と、お兄さんが言うのでボクは右腕を食べた。

「ひぎゃああああああ」と、お兄さんは叫んでいる。

「ごちそうさま」と、お兄さんを放置してボクはエリシアお姉ちゃんのところへ行く。「足、もらうね」

「……」と、エリシアは何も語らない。

「きひ、自我を無くしちゃうなんて。相手を間違えたかなぁ」

「いやぁ」と、エリシアは身体を回転させて立ち上がり、走ろうとする。だが、片足なのでこけた。頭から地面に。

「きひひ、よかったぁ。いただきます」と、黒い煙がエリシアの右足を包みこむ。

「あぅあーあーー」と、エリシアは腕だけで逃げようとする。

「顔も食べてあげるね、二人とも。きひひ」

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