スタンドバイミー・キーパーソン

サムライ・ビジョン

第1話 おかねのうわさ

『それは、顔も名前も変わります。』

「ピポ? 不可解ナ…」

「どうした3号」


★ ★ ★


『性別すらも惑わせます。』

「見て見てぇん!」

「なぁに? 一攫千金…?」


★ ★ ★


『それには鍵穴があります。』

「ジェニファー、開けラレない鍵は?」

「どこにもナッスィン!」


★ ★ ★


『それを見つけて解錠すれば…』

「ライラ見て! 面白そうよ!」

「ルシファー…それ絶対に詐欺だぞ」


★ ★ ★


『巨万の富はあなたのものです。』


「巨万の富はあなたのものです…」

「ちょっと雪村くん!」ガタッ!

放課後の空き教室に残っていた雪村真司ゆきむらしんじは、後ろの席だから大丈夫だろうという油断が注目を集めた。

「雪村くんにはそんなに簡単な問題だったってことかなぁ? じゃあ問6の答えは?」


中年の女教師が嫌味まじりに言った。

「はぁ…」

「溜め息つくくらいなら最初から…」

「−2x+5です」

「…前々から思ってたけど、なんであんた補習組にいるのよ」


同じく補習を受けている生徒たちは感心の声をあげるが、その中にお目当ての姿はない。学校に現れなくなって、かれこれ2週間。

それでも真司はその子がいた場所、いた時間にとらわれ続けている。


「なぜ補習組にいるのか」という問いかけの答えが「右斜め前の空席」だとは言えない。


★ ★ ★


「ナンデモナイデス。」

「そうかぁ? …3号、ちょっとコーヒー淹れてきてくれ」

「了解シマシタ。」

そのころ3号は、コーヒーを蒸らしている間にも左腕のパネルを気にしていた。

インターネット上に突如として現れた一攫千金の噂…もしもこれが事実なら、次なる発明品に悩む「彼」を見ずに済む…


3号のもつ「電脳」は、極めて人間のそれに近かった。


★ ★ ★


「バカなこと言ってないで、早く新しいかねづる、捕まえなさいよ」

「は〜い…」

新人のゲミ子はこのスナックに拾われた身である。はした金を持って家出したゲミ子を、条件つきで働かせてくれたのがスナックのママ…「バーバママ」だった。


「だぁれがバーバよ! まだ36よ!」


★ ★ ★


「じゃあジェニファー、このインフォメーションの意味は分かるか?」

「ハ〜ン…? …インフォメーションが少なすぎル! ミッションインポッシブル!」

眉唾な情報を嗅ぎつけたのが黒人のマックスであり、チュッパチャプスを咥える金髪碧眼の女がジェニファーである。


開けられない鍵はない…そんな矜持プライドを持つ。


★ ★ ★


「あっ、鍵アカになった!」

「ふっ…まさかお前のいう『鍵』って…鍵アカウントのことじゃねぇだろうな?」

「う〜ん…やっぱりライラの言うように、ただの詐欺なのかもね」

天使のライラと悪魔のルシファーは、訳アリの激安アパートで情報を耳にした。

3ヶ月ほど前に下界にやってきて、勝手にこの部屋に棲みついている。

「いやでもね? 私、一応このアカウントフォローしてたのよ。鍵アカになる前にフォローしたから、今もこうやって普通に見れてるんだけど…これ見て」

ルシファーはスマホを見せた。ちなみにこのスマホは道端の男性から盗んだものだ。

「この人、30分前と比べてフォロワーが減ってるの。これが30分前のやつで、そんで今は…!」

「…たしかに。1200人くらいだったのが1000人くらいになってるな」


翌日…例のアカウントのフォロワーはとうとう1人になった。その1人というのは…

「いぇーい! サバ〜イブ!」

「なんでお前だけ残ってんだ?」


★ ★ ★


(鍵アカになったのか…)

真司はこのアカウントの存在がとにかく気になっていた。一攫千金のチャンスが魅力的だというのはもちろんのことだが、何より…


(このアカウント…書き込みが始まったのがちょうど「あいつ」がいなくなった日なんだよな…)

「あいつ」というのは、2週間前から学校に来なくなったあの子のことだ。

(もしかしてってこともあるし、フォロー申請しとくか…一攫千金のヒントも貰えるかもしれないしな)

今日は土曜日。友達もやることもない真司はいつものように家にこもる。






[ドゴォォォォォン!]

「うぉお!?」


真司は驚いた。無理もない。家に何かが突き刺さり、地盤を揺らしたのだから。

真司はダイニングテーブルに腰かけスマホを観ていたのだが、日当たりのいいリビングを日陰にするように、なんらかの物体が2階のベランダのあたりに鎮座している。


真司に兄弟はおらず母は他界、父は出張中。

こうなっては自宅の異変を無視できない。


(何がぶつかったんだ…? ユーフォー? 小さめの隕石とか?)

真司はなるべく足音を立てずに2階へ上がった。

(ベランダ…のあたりだよな?)

真司の家でベランダがあるのは、2階にある3つの部屋のうち一番大きな…


(…俺の部屋じゃないか!?)

おそるおそる自分の寝室のドアに手をかけ、少しだけ開いて中を覗いた。






「ありゃまぁ…どないしよ…ん?」

下はジーンズ、上は黄色いパーカーという出立いでたちのその女は…




「イロハ!?」

「…ありゃ? 真司やないの。おいっす!」


他でもない。ここ2週間あまり行方をくらませていた、飛原とびはらイロハそのひとだった。

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