KAC20221 二刀流

@wizard-T

俺がAランク冒険者である訳

「なんでまた安い宿なんかに」

「金なんか無駄遣いするとすぐなくなるからな」


 俺はいつも通り、町で一番安い宿に泊まる事にした。

 一緒にクエストをこなした新米冒険者に一席教訓ぶってやった後、俺は左肩ばかり見ながら宿へと向かった。


 決して油断することなく、背筋を伸ばしきっちりと歩く。


「さすがだよなー、ああやって姿勢を正してこそAランなんだろうなー」


 イヤミのない言葉が、俺の背中に突き刺さる。


 Aランク冒険者だって?まったく、誰のおかげだか。

 それがわかっているから、俺は決していばりくさる事はしない、って言うか、できない。




 俺の才能と言えば、初級レベルの剣術だけ。


 そんな俺はある日、人並みに冒険者稼業でも始めようとした際に……

「おーっと、お前が噂の二刀流剣士様か!」


 って思いきや現れた、悪い意味で下町らしい大男たち。


 量産品の剣に量産品の青銅の鎧と言う貧相な装備のはずなのに、筋肉をむき出しにした連中がずいぶんと集まって来ている。


「どこへ行くんだぁ?」

「この先の宿ですけど、他にする事ないんで」

「おーおー、Aランク冒険者様がそんなんでいいんですかー」


 言葉面こそ丁寧だが口調が実に汚い。ったく、負けたらどうとか考えねえんだろうか、本当にお幸福な皆様だ。


「俺のAランクは肩書だけだから」

「何言ってんだよ本当、あなた様にはもっと必要なもんがあるでしょ、まさかと思うけどおひとりで」

「いや二人連れだけど」


 俺が何一つ間違ってない事を言うと、笑い声が起きた。


「何だよおい、もう一人って誰だよ?」

「ああもしかして、待ってる女がいるとか!かぁーうらやましいねえ!」

「そんなのがいればいいですけどね!」


 別に寂しいとも思わないが、生まれてこの方女に縁がない。今の栄光を得てからは女が寄って来る事も増えたが、正直あまり金を注ぎ込みたくない。

「ずいぶんと言ってくれるねえ、じゃあちょいと腕前の方を見せてくれませんかねえ」

「ノーと言ったら?」

「じゃあ俺たちにちょいと寄付してくれませんか?」

「そういう言い草だから喜捨する気も失せると思うんですが」


 本当、いかにももらってやると言わんばかりだ。そんなんだから上だって真っ当な貧民に渡す気がなくなるんだよ。


「言ってくれるねえ、このセーギノミカタ様気取りは」

「おいお前ら、このAランクサマをぶちのめしてやろうじゃねえか、そうすりゃ名声も金も手に入るぜ!」

「これでうまい酒が飲めそうだな!」



 で、簡単に地金をむき出しにして、あーあ情けないってレベルじゃねえよ本当……。


 俺は左肩の方を向きながら軽く頭を下げ、剣を抜いてチンピラたちに向けて突っ込んだ。


※※※※※※※※※










「まったく……今日も本当、感謝してるんだよ」


 俺は手のひらに乗って来た仲間に礼を述べ、食事を一人前よりやや多く頼んだ。


「お前、いやあなたがなぜ俺を選んだのかはわからない。わかるのは、俺が今のようになっているのは、あなたのおかげだって事」




 ほんの二年前、新米だった俺は魔物狩りの最中に一匹の生き物を見つけた。


 とても小さくて、非常に呼吸が荒くて、そして可愛かった生き物を。


「でも聞かせてください、なぜ俺なんかに」

「そういう所だぞ」




 ようやく姿を見せたそのネズミ———正確にはハムスターって言うらしい———は両手に剣を持ち、精一杯身体をそびやかしている。

 かわいらしいとか言う言葉がたわ言でしかない事は俺自身よく知っているが、それでも何とも愛嬌のある姿だ。


「お前がそうしている限り、神はお前に栄誉を与え続ける」

「怖いですけどね正直」

「それでよい。自分の力をわきまえる者は尊いのだ」


 神の使者だと言うこのハムスターは俺へのお礼かのように剣をしまい、仰向けになってて足をバタバタさせだした。


「その姿を他の人間にも」

「ダメだ、お前が認め、その上で我を認めた存在以外に見せはせぬ」


 実にかわいらしい姿で、かわいらしいポーズのままそんなことを言うもんだから、思わず笑み崩れてしまいそうになる。


「どうしたのだ、そんな顔をして」

「いや、失礼があっては」

「実にお前らしいな」


 俺はこの愛すべき天使様と共に、せいぜい世のため人のために謙虚に過ごす事を改めて誓った。

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