第4話 魔王降臨?!

  エレノア・シュタインベルグ――――華麗な戦乙女として、その名を知らない者はいない。ボルディア大陸の中央に位置するファリムス公国が魔物から民を守るために設立した白狼騎士団の団長を務める。彼女は女性初であり、歴代団長の中で、最年少の24歳という若さで、団長に就任しており、就任当初は白狼騎士団内部でも若さだけの取り柄で、前任騎士団長に可愛がられていただけだ、と揶揄する者たちもいて、不信任決議案まで持ち上がっていたほどだった。しかし、前線に出た途端に次々に戦果を挙げ、今では一騎当千の実力を持つほどの力があり、“首切りエレノア”と異名を持っている。


 そのエレノアはローレシアとモルド国へ侵攻を開始した魔王軍を撃退するため、白狼騎士500人を引き連れて、戦場に駆けつけていた。


 当初、ローレシア軍とモルド軍の両軍が魔王軍の正面攻撃を行って、注意を引き、そこを騎兵部隊を両側面から攻撃を与え、魔王軍を撃退する作戦がとられていた。


 予定通り、ローレシア軍とモルド軍は魔王軍と正面攻撃を開始したため、エレノアは白狼騎士団を率いて、側面攻撃へと回った。


 しかし、動いたのは白狼騎士団だけで、ローレシア軍の騎兵もモルド軍の騎兵も攻撃を仕掛けようとせず、さらには正面攻撃で敵を引き付けていた歩兵部隊を徐々に後退させるという最悪な行動をとっていた。


 戦場の中で、その動きに気が付くこともなく、エレノアは前へと突き進み、魔王軍と奮戦していた。


「グォオオオオオオ――――!!!」


 緑の肌、下顎から突き出す犬歯、ギョロリとした目、オークとゴブリンの戦闘集団が獣の雄叫びをして、怯えさそうとしていた。それにエレノアは臆することなく目の前にる醜い顔をしたオーク、ゴブリンたちを睨みつけ対峙する。魔物の中で、一番低レベルの分類に位置する彼らは本来、鎧や防具、殺傷能力を有する武器を持つことはなく、こん棒や木の盾といったものしか武装していないはずだった。


 しかし、魔王バルグガンドが現れてからは知恵を持ち、魔物同士で言葉を話せるようになった。そして、自ら武器や防具を製造するまでになっていた。今では王国軍に引けを取らない装備を持っており、脅威となっている。


 小柄のゴブリンが背後からとびかかってきた。それに気づいたエレノアは振り返り際に剣を振りかぶり唱える。


「―――“ファイアボール”―――」


 すると剣先に炎が現れ、塊となり、虚空に浮遊すると剣を振り下ろしたと同時にゴブリンへ勢いよく飛んでいく。火球はゴブリンにぶつかると炸裂。熱波が他の魔物たちに襲う。火球をくらったゴブリンは黒焦げになり地面に転がると黒い煙をあげて、肉が焦げた臭いがあたりに広まった。それに驚愕したゴブリンやオークたちは一瞬、動きを止めたが、再び、エレノアに襲い掛かる。


 右側から5体がまとまって迫ってきたため、エレノアは剣先を向け魔法を唱える。


「―――“フレイム”―――」


 エレノアが剣先でゴブリンたちの足元に狙いを定めていた地面から火柱がいくつも噴き上がり、灼熱の炎がゴブリンたちを襲う。火だるまになったゴブリンたちが地面にのたうち回っていた。熱風が吹き、思わず、手で覆ってしまうオークを容赦なく胴体を真っ二つに分断し足元から剣を突き刺そうとしたオークの首をはねた。黒い血が噴き上がり、エレノアの鎧を染め上げる。


 さすがに魔法攻撃を連発はできないエレノアは手を止めることなく、攻撃を続ける。


「槍ッ!!」


 近くにいた白狼騎士に手を差し出す。それに白狼騎士が持っていた槍を投げ渡すとうまくキャッチした。エレノアは迫ってきた複数のゴブリンに向かって投げつける。前にいたゴブリンの頭を貫通させ、後ろにいたオークの腹部にも到達し倒れたのを確認する。


 混戦する中で、エレノアは器用に手綱を操り、馬腹を蹴って、さらに奥へと前進を続けていた。彼女は無我夢中になって、首をはね続けるも数は一向に減る様子がなかった。


 気が付けば、周囲を囲まれている。それにも冷静になって、周りで戦う白狼騎士らに向かって号令をかけた。


「総員下馬、円陣!! 防御陣形ッ!!!」


 号令を白狼騎士らは聞き取ると馬から降り、エレノアを中心として、円陣を組み始めた。大きな盾を前に出し槍を脇に担ぎ、構える。その後ろを剣を持った騎士が隙間を埋める。近づいてきたオークやゴブリンを刺突しまた防御に転じる。それを繰り返していった。


「団長、このままでは持ちません!!」


 魔物たちが命を惜しまずに、肉破してくるため、ひとり、また一人と白狼騎士らは倒れ、餌食となっていった。槍をつかまれ、引き込まれてしまう者もいた。


 周りを見渡す。どの方向を向いても魔物ばかりで、味方は白狼騎士しかいない。ここで、ローレシア軍もモルド軍の騎兵部隊が動いていないことを悟った。


「くそっ……」


 剣刃にこびりついた黒い血を振り払い、剣柄を握り直す。エレノアにも疲労が見え始めていた。肩を小刻みに揺らし、上がっている息を留めようとゆっくりと呼吸をしていた。


 そんな中で、知恵を持つ魔物たちが攻撃手段を変えてきた。一点を集中して攻撃を仕掛けてきたのである。


「く、くそ、やられたっ??!! ぐわぁ」


「やめろ!!?? 食わないでくれ、うあぁわああぁあああ」

 

 白狼騎士たちの叫び声がエレノアの耳に届く。


「まずい」


 そう思った時には間隙ができてしまい、そこから雪崩れ込むように小柄なゴブリンたちが入り込み、白狼騎士らの背後を攻撃し始めた。


 そこから一気に防御が崩れ、魔物の群れに飲み込まれていく。


 エレノアも前後左右から攻撃を受け、背後から飛びかかってきたゴブリンに膝裏を噛みつかれた。


「つぅ」


 エレノアは激痛に耐えかねて、膝をついてしまう。噛みついたゴブリンの後ろ首を左手でつかみ、握りしめる。悶絶するゴブリンにお構いなしにさらに力をいれて、首の骨が折れる音がした。


「やってくれるじゃなないか。この醜い化け物どもが……」


 剣を杖代わりに立ち上がろうとしたが、力が入らなかった。それを見て、舌なめずりしながらオークがゆっくりと近づいてきた。


「わ、私を食っても美味しくないぞ……」


 苦笑いして、冗談を言ってみたが、魔物にその冗談は伝わらなかった。


「……ここまでか」


 どう考えても勝機はなかった。生き残る可能性も失われたと悟ったエレノアはあきらめかけた。そんな時、視線の先で、何かが起きていた。その異変に気が付いたオークやゴブリンたちも振り返り、状況を確かめた。


 すると取り囲んでいたはずの包囲が破られ、一人、漆黒の鎧を身にまとった少年がゴブリンやオークを次々に倒していき、エレノアに近づいてきていた。


「誰だ、お前は……?」


「見よ我が覇道を!!」


 そう言って、手を突き出すだけで、黒いオーラとあふれ出し、衝撃波として、魔物たちを吹き飛ばした。刃先が反り返った奇妙な武器を持った少年は全身に黒い霧のようなオーラに包まれ、その武器を振るたびに衝撃波が発生し、地面をえぐり取り、触れたものを両断する。


 武器を構えて、マントをなびかせた少年は名乗りを上げた。


「我こそは“第六天魔王〇長”なり!! 我に歯向かうものはすべて根絶やしぞ」


「ま、魔王……?」


 驚きで、目を見開いていたエレノアにその少年は振り返り、慌てたように訂正する。


「あ、違う、本当は魔王じゃないから。ちょっと言ってみたかっただけ。気にしないで」


「はぁ?」


 エレノアは理解ができず、唖然としていた。魔物たちはというと少年からあふれ出る黒いオーラに気圧され、後退りしていき、腰を抜かす魔物までいた。


 少年が刃が反り返った武器を横一文字に振ると大気が揺れ、黒いオーラが鋭い刃のようになって、オークとゴブリンへ向かっていき、当たった魔物たちの胴体を引き裂いていく。それにたまらず、次々に武器を放り投げて、魔物たちは蜘蛛の子のように四方へ逃げて行った。


「……我に逆らったこと、地獄の底で、悔いるがよい、ぞ。なんつって。これ、一回、言ってみたかったんだよな。一時、ゲームにはまっててさ」


 とゲームという言葉を言った少年は後ろを振り返るとエレノアに手を差し出した。


「大丈夫か?」


 笑みを浮かべた。エレノアは少し顔が引き攣っていて、警戒している様な素振りを見せた。


「大丈夫、怖くない、怖くないよ?」


「いや、怖いわ!!」


 と天から女神スティファー声がしたような気がしたのであった。

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女神様から自分が造った作品で間違えて「魔王」として、転生させられました。 飯塚ヒロアキ @iiduka21

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