第7話 奇妙な同行者:Road

〜前回のあらすじ~

サザリ村に到着したロードは、村人・ショウとの交流を深める中、パルテル率いる暴漢たちがやって来た。しかし、ロードは彼らを圧倒し、撃退したのだった。


ロードはパルテルたちのもとを離れ、村人たちの方へと歩いてきた。

「ロ、ロード…。あいつらは…?」

「倒した。村にも近づかんよう警告もした。だからもう、安心してくれ」

大人数に襲われたというのに傷一つついていないロードを見て、デップは一安心した。

「あ、あの…」

「ん?」

ロードが振り向くと、先程助けた女とサムがいた。

「さっきは、助けてくれてありがとうございました…」

2人がロードに頭を下げる。

「いや、礼には及ばない。あなた達が無事で何よりだ」

「本当にありがとうございました…!」

そこにショウもやって来た。その隣には、先程の少年もいた。

「お兄さん、ありがとうございました」

「怪我は無かったか?」

「はい、お兄さんのおがげでどこも問題ないです」

「それは良かった」

少年の微笑みに、ロードも応じて微笑んだ。

「他の皆も無事そうだし、兄ちゃんのおかげで助かったな」


そして、陽は完全に落ちて夜となった。パルテルたちの襲来により、村人たちはいつもより疲れを感じていたが、ともあれ一日の疲れを癒やす安息の時間となった。

「奴らからいくつか情報を得ることができた」

「情報?」

ショウが夕食のための食器を並べながら聞き返す。

「ああ。それは、俺の正体の手がかりになるかもしれない物だった」

「ほー。そいつは気になるな。聞かせてくれよ」

デップは興味ありげに聞いていた。

「俺も気になるな、兄ちゃん」

「あぁ。順を追って話す」

ショウが米を食器によそう中、ロードの話が始まった。

「まずは、奴らはこの国の者ではない」

「やっぱりそうか」

デップとショウの予想は当たっていた。

「じゃあ奴らはどこのモンなんだ、ロード?」

「話によると、この世界とは別の世界から来たという」

「別の世界?何じゃそりゃ」

突拍子もない話に、ショウは不思議がった。

「その世界が何なのか、具体的な話は聞けなかった。だが、とある女によってこの世界に送り込まれたと言っていた」

「送り込まれた?そんなことがあるのか?」

「あぁ。奴らの話を信じるならそういうことになる」

「にわかには信じられねぇな。で、その女って誰なんだよ?」

話の真偽は置いておいて、デップは続きを話すように促す。

「女の正体は不明だ。というのも、奴ら自身、女の声しか聞いていないらしい」

「声しか聞いてない、か。そんなこともあるんだな」

「で、女の目的は何だよ?」

ショウは全ての食事を並べ終えた。ようやく夕食の時間が始まった。

「目的は2つ。1つ目は、俺を殺すことだ」

「明らかに兄ちゃんを狙ってたもんな。それにしても、ひでぇこと考えやがるぜ…」

「2つ目は何だ?」

デップはスープを啜りながら尋ねた。

「村人たちを皆殺しにすることだ」

「何だって…?」

ショウが食事の手を止めた。

「俺たちを全員、殺すってのか?」

「俺を殺す「ついで」と言っていた。あの口ぶりだと、俺の近くにいる者は皆殺しにするつもりなのだろう」

「なんてことだ…」

食卓に緊張走る。

「理由は?俺らはそんな女の検討なんかつきやしない。何で俺らを殺そうとするんだ?」

「それも聞いてみたが、知らされていないらしい。奴らはその女にとって、道具のようなものだったのだろう」

「冗談じゃ無いぜ…。何でロードや俺らが殺されなきゃならないんだ…」

デップの表情には、怒りが表れていた。ただ穏やかに暮らしているだけの自分たちが、謂れのない敵意を向けられていたので、当然とも言える。

「俺を殺した後に村人たちを、という話だった。あくまで俺の殺害が第一目標のようだ」

「…」

ショウも神妙な面持ちであった。

「奴らの話をまとめると、ある女がこの世界に謎の集団を差し向けている。女の正体は不明で、ただ俺や村人たちの殺害を目論んでいることだけが分かっている」

「まずいな…。ロードはともかく、俺らにはあんな奴らと戦う力なんて無いぞ…」

「兄ちゃん、俺たちは一体どうすれば…」

「…」

ロードは目を閉じて考え込む。しばらくして、自身の意見を語り始める。


「俺は奴らの話だと特に、別の世界というのが気になるんだ。俺も奴らと同じく、別の世界の人間である可能性が高いと思っている。俺がこう考えるのも、それと関係している訳だ」

「あんたも別の世界の住人?」

「そりゃまさか、奴らの仲間ってことか?」

ショウが思わず聞き返した。

「おい、ショウ…」

「あ、悪い…兄ちゃん…つい…」

ショウは自らの失言を詫びた。

「いや、謝ることはない。これから言うことは、あくまでも俺の推測…妄想かもしれない」

現時点では、敵の情報が少なすぎる。どれほど思考を巡らせても、真実にはたどり着けないだろう。

「だとしても、聞かせてくれ」

「俺からも頼むよ、兄ちゃん」

それでも、デップとショウはロードの話に耳を傾けていた。

「あぁ。まず、デップさん。俺がレクイ村で、何故傷だらけで倒れていたと思う?」

「そういや、何でだろうな。あの時は必死で、そんなこと考えもしなかったからな…」

デップは、ロードとはじめて出会った時の光景を思い浮かべる。湖のほとりに、全身傷だらけのロードが倒れていた。だが、よく考えると、ロードがどういう経緯で傷だらけになったのかは分からない。レクイ村の近辺で、あれ程の傷を負うことはまず考えられないからだ。

「…まず、レクイ村で俺が倒れていた原因は、この国や世界にあるのではなく、別の世界での出来事が原因ではないかと思うんだ」

「確かに、別の世界がどうとかは抜いても、危ない物は何も無いレクイ村付近であんなにズタボロになるのは変な話だ。しかも、あれだけ強いあんたが、ただ怪我をするのもおかしいよな」

「で、その出来事って何だと思うんだ?」

「俺は、かつての俺が女、あるいはその仲間と戦ったのだと思っている」

「戦った?」

「かつての俺、ってのは記憶を失う前のあんたってことだよな?」

「あぁ、その通りだ。俺は恐らく戦いに敗れたのだろう。だが、死ななかった。死ぬ前に誰かがこの世界に俺を転送したのではないか、ということだ」

「女が移した…ってことはないか」

「そうだな。この話が仮に合っているのなら、俺と女は敵対している。わざわざ俺に止めを刺さないで、この世界に逃がすのは考えられない。女とは別の者の仕業と考えるのが妥当か…」

「まだ何とも言えねぇなぁ…」

3人は頭を悩ませた。

「それと、大男にペンダントの文字を見せてみたが、読めないとのことだった」

「じゃあ、少なくとも奴らと兄ちゃんは同郷の出身、ってことは無さそうだな」

「あぁ。文字を村人たちが読めないことからも、やはり俺が別世界出身の人間である可能性は高いと思う」

「ま、別世界ってのが存在するとなると、そう思えるよな」

そしてロードは、結論を述べた。

「今言えることは、女は今後も刺客を俺に差し向けてくる可能性が高いということだ。だから、俺は明日にでも村を出ようと思っている」

「おいおい、そんな急な。行く宛はあるのか?」

ロードの突然の発言に、ショウは一瞬戸惑った。

「無い。だが、このまま俺がここに留まっていても、村人たちに危険が及ぶことになる。あくまでも女の目標が俺だとするのなら、俺は単独行動をとったほうが良い」

「そりゃ、そうかもしれねぇけど…」

ショウはどことなくやりきれない表情だった。

「もし、あんたが別世界の人間なら、この国はおろか、この世界で自分の正体を明らかにすることは無理なんじゃないか?」

「確かに、過去の俺に繋がる手がかりは無いかもしれない。だから、俺は女が接触してくる時まで待とうと思う。待っても、俺と相対することになるかは分からない。このまま刺客を送り続けるだけかもしれないが、いずれにせよその可能性に賭ける他無い」

「雲をつかむような話だな…。でも、どうしようもないのも事実だしな…」

3人はとっくに夕食を食べ終えていた。だが、味など覚えていなかった。

ロードはこれから、何かとてつもない敵と戦うつもりでいた。他の2人も、できれば力になりたいと思っているが、別世界から来た、しかも記憶喪失の男の助けにはなってやれそうになかった。そのなんとも言えない無力感が、2人を鬱屈とした気分にした。

「2人には色々世話になった。またいつか会うときは、俺の昔話を聞かせるよ」

「兄ちゃん…」

「ロード…」

それでもロードは、歩みを止めなかった。いつか、本当の自分を取り戻すその時まで、どこまでも進み続けようとしていた。


翌朝。まだ陽も昇りきっていない早朝に、ロードは旅立とうとしていた。ショウから、野宿のための道具や食料をありったけ貰っていたので、非常に荷物の量は多かった。だが、ロードは特に苦も無くそれらを担ぎ、村の入口まで来ていた。早朝なのもあってレクイ村の時とは違い、見送りに来ていたのはショウとデップの2人だけであった。

彼らが、この国のことをよく知らないロードが1人で旅立つことを止められなかったのは、彼の強い希望の他に、彼の頼もしさがあったからである。彼なら、1人でもやっていける。困難を跳ね除け、前進できる。そんな思いがあった。

「食料が切れたり、困ったことがあったら、いつでも戻ってきてくれよ。そんときは、全力で兄ちゃんの助けになるぜ」

「ありがとう」

「この国は凄く狭いからな。移動にはそう困らないはずだ。たまには、レクイ村にも顔を見せてくれ。またあんたの手料理も食べたいしな」

「あぁ。約束する」

ロードは2人と固く握手を交わした。そしていざ、出発の時となった。



そんな時、ある者が村に近づいてきているのが見えた。ショウが目を凝らしてみると、段々と姿がはっきりとしてくる。

男だった。中々背格好の良い金髪の男であった。前髪ははね上がっていて、緑色の瞳をしていた。半袖で、体のサイズにピッタリはまった黒い服を着ていて、筋骨隆々な肉体がくっきりと見える。

背中には、大きな袋を抱えていた。

「あら、ちょっと早く来すぎちゃったと思ってたけど、起きてる人がいたのね」

声の主は男であった。女言葉であったが、確かに男の声であった。

「あんたは………もしかして、ブラキオスさんか?」

ブラキオスと呼ばれた男は、ショウの方へと顔を向けた。

「覚えていてくれたなんて、光栄ね。そういうアナタは、ショウさんね?」

「あ、あぁ。そりゃ、あんたみたいな人はそう忘れられないしな…」

ロードは振り返って、ブラキオスのことを見た。すると、互いに何かを感じ取った。

「あら、いい男じゃない…」

ブラキオスは、ロードを見るとどこかうっとりとしていた。

「……」

ロードは、ブラキオスを見て、ただ者ではないと感じていた。ただ体格が良いだけでなく、秘められた強さというものを読み取ったのだ。

「んで、今日は何しに来たんだ?」

「そちらの村長サンに頼まれていた、お祭りの衣装が出来上がったから持ってきたのよ」

大きな袋には、「お祭りの衣装」が入っていたようだ。

「なるほどな。今はまだ誰も起きてないから、後で俺の方から村長に渡しておくぜ。どうだ、せっかく来たんだから、泊まっていきなよ」

「ありがと。でも、今回は遠慮しておくわ。久々に自然を感じたい気分なのよね」

「相変わらず、変わってるなぁ…」

ショウは苦笑しながら頭をポリポリと掻いた。

「ところで…」

ブラキオスは視線をロードに向けた。

「そちらの殿方は、どういったお人なの?」

ブラキオスは、ロードに興味津々であった。

「えっと…」

ショウが、どう説明したらいいかと困っていると、ロードの方からブラキオスに語りかけた。

「俺はロードだ。…ブラキオスさん」

「ブラキオスでいいわ。何かしら?」

「俺は、これから村を出る所なんだが、よければ途中までついてきてくれないか?少し、聞きたいことがある」

「そっちから誘ってくれるなんて、嬉しいわね。喜んでお供させていただくわ」

ブラキオスはにかっと笑った。

「それじゃあ、2人とも。また会おう」

「お、おう。何だかおかしなことになったみたいだが、達者でな、ロード!」

こうして、ロードはサザリ村を発った。奇妙な同行者を引き連れて……。



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Road of the Lord @star505

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