第8話 清らかなココロで厨房へ

 トントントントン

丁寧に豆腐を切っていく林司。次に、ショウガをまた丁寧にみじん切りにしていく。


林司の脳内に横切った言葉。それは

「料理は20%が技術、15%がその食材の味で35%が食べるときの気持ちだ。残りの40%は何だと思うかい?それは『心』だと僕は思う」

食べまくり館のエース、俊杰チンチエが発した言葉だ。彼の料理がウケる理由が僕にとって謎だった。どうやったらあんなにうまく作れるのだろうと思っていた。真剣に料理をする姿を見たのに、何も出てこない。それで、思い切って聞いてみると、彼はこう言ったのだ。


そして、やっと思い出した。あの家で最初に作った料理がウケた理由。最初はすぐに解放されると思っていた。そして・・・・・自分の好みのタイプだったから好かれたくって心を込めて作った一品が「超々豚骨ラーメン」だった。あれの美味さが兆だったのは僕の真心からだったかもしれない。閉じ込められていることに腹が立って心を籠めずに作った。そのため日に日に味が落ちていったのだ。


全てに真心を込めて。心を籠めるからこそ良いものができる。そう、肝に銘じてフライパンを握る。切り口と火加減いうのは僕の中では最もその人の人間性が現れるところだと思う。切り口が乱暴だとガサツな人なんだなぁと思う。焦げていると、めんどくさがりで適当な人なんだなぁと思う。フライパンを握ることに少し抵抗はあった。でも、彼女のためならできる。きっとできる。

ピッ

IHのスイッチを入れた。火加減を十分注意してニンニク、ショウガ、長ネギを炒める。そして、少しするとひき肉も加えた。

ジュウジュウ

良い音が鳴っているね。火加減は今くらいで良さそうだ。てなわけで・・・・・今のうちに隠し味を入れることにした。

隠し味は、生卵だ。出汁醤油を少し加えてかき混ぜたもの。これをご飯に絡ませる。

ジュー

「あ、ヤバい。もう少し火を下げないと」

ジュウジュウジュウ

文字では火加減をうまく表しにくいが、これで火力を下げた。


どれも良い感じに炒められている。ここに唐辛子を少し入れると彼女が好むようなピリ辛ができるハズだ。

「よ~し、ここで隠し味を入れたご飯を入れると」

卵を混ぜた少し黄色いご飯をフライパンに投入する。良い感じで少しずつ茶色になってゆく。ご飯は少し焦がした方がいいから、ちょっと前に別のフライパンで炒めておいたのだ。さあ、試食だ。

パクッ

ん~、もう少し唐辛子を入れて辛みを出してもいいかもしれない。

パクッ

卵をもうちょっと入れるか。

パクッ

あ、いい感じ。もう少し・・・・・

パクパク

5口食べてようやく気が付いた。

「食べ過ぎじゃないか」

声を上げて一人笑った。そして、自信をつけた。こんなに美味いものはない。これは店のメニューに出してほしい。マジで、マジでよ。そして、あの時手伝ってくれた師へ差し上げたい。


 料理の写真を撮って、TwitterとInstagramにUPする。あとで時間があればレシピと一緒にブログに挙げるつもりだ。

ガタンゴトンガタンゴトン

列車はブルブルと揺れる。この揺れは電車の揺れなのか。それとも、自分の足の震えなのだろうか。僕は待つ。次だ、次の駅だ。それからバスで行けばいい。もうすぐだ――もうすぐだ。ハートはどくどく早く鳴る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る