第2話 メグ
「何だ、お前らメグの客か?」
「メグ、というんですか?」
「この区画の有名人だ。変な品物を店で販売してくれってやってくるおかしな女」
「私たち、その人に会いたいんです」
「それならカラフルな髪の、変な服を着て、キラキラした女がそうだ。土の日はあいつは休みだっつってこの辺りを散歩しているから探してみな。販売手数料は払ってくれるから邪険にはしないが、あいつの作るもんはよう分からん」
「ありがとうございます!」
「あいつを訪ねるやつなんてめったにいないから、きっと喜ぶさ」
ヒラヒラと手を振りながら男は店番に戻っていった。私たちはキラキラした女を探すことにした。
カラフルな髪で、変な服、キラキラしている――どんな格好なのだろうか。
探し始めて数十分ほどが経っていた。
私たちは人探しのついでに安くてより良い武器や防具がないか露店もしっかりと見ていた。ウルはどうしても手にしっくりとくる剣が見つからないし、私も魔法使いの使う杖を使っているが、その目的はこん棒としての役割だ。
お互い、今の武器は間に合わせのものだった。
そうして楽しく区画を巡っていると、遠くで人波が奇妙に避ける現象があった。ウルが気づいて「あれ、何だろう」と指さす。
私たちがその中心部に向かうと、そこには、金髪にピンクや黄色、紫や青などのカラフルなメッシュを刻み、白いロリータ服を着た少女が優雅に歩いていた。たくさんの小さくてかわいらしいアクセサリー、目元にはラメが輝いている。
「あの、メグさんですか!」
私が声を掛けると、彼女はこちらを振り向いた。
「なに~?」
「私たちこれを作った人を探しているんです」
マンドラゴラの置物を見せる。
メグはぱっと嬉しそうに笑った。
「買ってくれたん? 嬉しい~。あ、てかあんたもしかして別の世界から来た系?」
私の黒髪は、やはりこの国では目立つのだろう。頷く私にメグは、立ち止まってくれた。
その間も人々はメグを避けている。
「ん、ここは邪魔になるから喫茶店に行こっか! 割り勘でいいよね?」
「はい!」
私たちはメグの後ろを快適に歩いた。「ウルの分は私が払うね! 案内してくれてありがと!」私がそう言うと、彼は微笑んで頷いた。
喫茶店でメグはウルを見て、果実水を注文する。
「犬にはカフェインはよくないからさ」
失礼なのか気を使っているのかよく分からないセリフに、ウルは困惑しながら「ありがとうございます」と応える。
運ばれてきた果実水はぬるく、やはり氷は珍しいものなんだ、としみじみと感じながら私はメグに聞いた。
「あなたのも別の世界から……?」
「そうそう! それで、何が聞きたいの? 私もよく分かんないけどさ、暮らしてみれば案外おっちゃんたちも良い人ばっかだし、街で暮らしてるだけで国からお金もらえるし気楽だよ」
「あなたは国に保護された人なんですね。私は、その、元の世界に戻るための手がかりを探しているんです」
「ふーん、それなら国にはばれない方が良いね。何とか契約ってのをやってこの世界でずっと暮らすことになるよ」
「メグさんは、元の世界に戻る方法をご存じですか?」
私の言葉にメグはキャハハと笑った。
「知ってたらここにいないっしょ。でも他の人なら知っているかもね。皆、何かの能力を持ってこっちに来るんだって。私はかわいい雑貨作りができる能力♪」
「他にもいるんですか?」
「昔はいたっていうよ。今も私とあなた、二人いるじゃん。他の国にもいたっていうから、――そうだ! 冒険者やってるんでしょ、旅をしてみたらどうかな」
メグの言葉はどことなく強く私の中に残った。
この世界で生きると決めた彼女は、彼女自身の好きを曲げることなく生きることを選んだ。
彼女は別れ際、ポツリと言った。
「まあ、あんまし私たちは会わない方がいいかもね。あんたは帰りたいんでしょ? 見つかっちゃ、だめだよ」
「……はい」
「ドラちゃん人形は何の効果もないけど、かわいいから癒し効果抜群! みんなにもおすすめしてくれるとメグ嬉しいな!」
最後に職人らしい明るい宣伝をして、メグはまた悠々と人並みを割って去っていった。元の世界ではロリ系ファッションやギャルと呼ばれる人種。こんな事でもなければ出会うことさえなかっただろう良い人。
私は鞄にドラちゃん人形をしまいこんだ。手にすっぽりと収まり、懐かしい質感。
「ハルー、何考えてるの?」
ぼうっと考え事をしているとウルが私の目を覗き込んでいた。一瞬迷ったものの、私は導かれるようにしてその言葉を呟いた。
「旅、出ようかと思ってたの」
ここを離れるのは辛いし不安だ。ようやくこの世界での足がかりができたと思っていたのに、求めるものはここではないどこかにあるらしい。
ウルは嬉しそうに微笑んで、私の手を掴んだ。
「それならギルドでパーティ登録しよう! 旅をするならその方が便利だよ!」
「ウルも一緒にいってくれるの?」
私の言葉に少年は胸を張って応えた。
「狼英雄ウルフガングさまの教えによれば、異界の旅人がいたら助けて導いてもらえって言われているから! それにハルーは危なっかしくて放っておけないよ」
「でも旅人は不安定だよ。危ないし、それにいつ終わるか分からない旅になる……」
「ハルーは心配症。僕らは広い世界を見てこいって故郷を出て一人立ちするんだ。君と旅に行った方が広い世界を見れるじゃないか! それに二人ならきっと楽しい」
私はどこまでも楽観的なウルの言葉に、不安が晴れていくのを感じた。頷いて、手を差し出す。
「これからもよろしくね、ウル」
こうして私は、この世界を旅することに決めた。元の世界に戻れるその日まで、いつ終わるかも分からない旅に不安は尽きない。
ウルは私の手を握り返した。
にっこりと微笑むウルの姿に、私は楽観的に考えることにした。一人じゃないならきっと、この世界を受け入れることが出来るかもしれない。
彼女と好きの物語 夏伐 @brs83875an
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