第8話 響き合うという事

 セイラさん、率直に申し上げます。貴女はシャアの事からも、アムロの事からも距離を置こうとされていらっしゃるのではないのでしょうか?

 聡明にして勇敢な私の戦友である貴女が、弱さゆえにそのような態度を取られているとは到底考えられません。貴女はジオン建国の父の子女であられ、さらにジオン最高のパイロットにしてエウーゴの政治的指導者でもあるシャア・アズナブルの妹であり、さらに一年戦争の英雄でもあるご自身の立場を常に考え、ご自身の身の上が誰にも悪用されないように、最新の注意を払って生きてこられたはずです。

 しかし、もし貴女が、情熱のままに向こう見ずな生き方をされていらっしゃれば、アムロやシャアに、ただその感情をぶつける事が出来ていれば、もしかしたら、あの二人は分かりあう事が出来たのではないでしょうか。

 決して私は貴女の生き方を非難する気は、全く、少しもありません。しかし、貴女の生来の気高さが、後一歩の所で、人と人が響き合う事を妨げたのではないでしょうか。

 私はサイコフレームの共振による人類意志の統一よりも、すれ違いや誤解がありながらも、人と人が直接に響き合う事を重要であると考えます。

 たとえ人類が集団としてどこまでも愚かしいとしても、いやそうであるからこそ、貴女の様に、気高い感情をもった人が、その感情を拠り所として生きるべきなのではないでしょうか。

 私が前世で若かった頃、「機械」といえば単純な発動機の事でした。今、サイコエンジニアリングの名の下、テクノロジーと心の融合という概念が唱えられております。

 しかし本当に、この技術の先に、人類の望ましい世界はあるのでしょうか。サイコエンジニアリングを民生品や教育に使うという事が宇宙では議論されています。地球ではこういった技術は禁止されていますが、それはアースノイドに対してだけで、スペースノイドには地球の法律の一部が適応されないので、今でも強化人間施設のような秘密実験は続いている様です。私はそのような技術には何の可能性も見出しません。

 一人一人が、自分の感情を外に出し、互いに響き合う事で、もしかしたら、時を越える何かが、何処かへ繋がるのではないか。きっとそれはアムロにもシャアにもどこかで伝わるのではないか。私は技術による奇跡を見た後だからこそ、その可能性を誰かが示す必要があるのではないかと思うに至りました。

 お返事をお待ちしております。


 サイド7から三日月に翳る太陽を眺めながら


                         カイ・シデン

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